2.船体損傷の種類と原因


I. 船体損傷に関する一般的な事柄

1.船体損傷の特性

船体損傷の特性は、損傷の発見が非常に困難であるということに尽きる。そうして、誰にでもわかる様な損傷が起った場合、前回述べたフィクションの様に既に手遅れと云った事態も珍しくない。

これに反して、機関部の場合は、対象となるものは、揚錨機、揚貨機などを除いて、その殆どが機関室内に限定されており、損傷が生じると、異常な温度、圧力、電流、電圧、回転数が計器に標示され(写真1参照)、機器の能力の低下、異常振動が生じ、損傷が甚しい場合は機器が作動しなくなったりして損傷に附随して二次的に発生する現象が多い。従ってこれらの異状現象を媒介として、あるいはEngine Control Room 内の警報信号により損傷は船体と比べ割合発見し易い。しかし、船体の場合はその対象が船全体にわたっており、最もひどい損傷で、船内に大浸水でもあれば、浸水の音、船体の傾斜などにより異状が感知できるが、肋骨や外板に少々の亀裂が入った程度では、附随して現れる現象もなく、船体損傷の発見は非常に困難である。

また、水線下の船体は、いくら優秀な水中検査を行っても100%の検査はできず、結局ドックに入れなければ、詳しいことは判らない。船体内部にしても、貨物を積んでいれば異状の発見はできない。従って、多くの船体の損傷は、水線下の部分は入渠時に、船体内部は船艙またはタンクが空の場合にしか発見できない(写真2参照)。





写真1
機器の異常は計器に現れる。(ディーゼル発電機)





写真2
ポルトガルのLISNAVE造船所の100万トンドックに入渠した世界最大のタンカー"Pierre Guillaumat"。フランスのサンナゼールで建造され、載貨重量555、031トン、主要寸法は長さ、幅、深さが401.10(m)×63.01(m)×35.92(m)。ドック内の船底検査ですら、少なくとも3時間はかかり、水中検査だと何日かかるかわからない。ドック内右下は外板清掃用のハシゴ車、左側のトラスの塔は外板清掃用の台車付の塔。


Z丸は、新造後初のドックを11ヶ月目に行った。新造船のいわゆる保証ドックにおいては、底触などの経験がなければ、船底には異状は認められないのが普通なので、皆気楽に構えていたところ、ドック内の排水が進み、船底が現れるにつれて、船首部の船底からザーザーと音が聞えてきた。早速調査したところ、船首部No.1バラスト・タンク部からNo.2タンクにかけて、幅40mm、長さ15m程の、丁度カミソリで切ったような大きな亀裂が2条生じており、タンク内のバラストが流れ落ちているのがわかった。

傷口の錆の状態などから判断して、最近の傷ではなさそうで、相当硬いものに触れた感じである。乗組員の話でも、最近特に底触を感じたことはないとのことであった。航海日誌を調べたところ、本船は完成後間もない頃、洞海湾に入った際、極く僅かなショックを感じたようで、当時、若松と戸畑の間には、若戸大橋が架設工事中で、この作業中海底に捨てられた何物かに底触したための亀裂と推定された。

結局、本船は、船底外板4枚を新替、1枚を切替える大工事が必要となり、ドック期間も最初の予想よりかなり長びくことになった。このように、船底に大きな亀裂が生じているにもかかわらず、約10ケ月近く、知らぬが仏で航海を続けていた例もあり、船体の損傷発見が如何に困難であるかを物語っている。


2.損傷の種類

一概に船体の損傷と云っても、特定の定義はなく、種々雑多な異状が総て損傷と云う言葉で代表されている。ここでは、損傷を受ける対象物と損傷の原因の二点から、これを分類することにする。

2.1.1 板に生じるもの
(1) 傷
(2) 凹入、膨出、座屈
(3) 亀裂
(写真3,4,5,6参照)

2.1.2 型鋼など骨に生ずるもの
(1) 曲り、座屈
(2) 亀裂
(3) 切断
(写真7,8,9,10参照)


2.1.3 板.骨とも共通に生ずるもの
(1) 衰耗、腐蝕
(2) 破口
(写真11,12参照)


2.1.4 溶接部に生ずるもの
(1) 腐蝕
(2) 離脱
(3) 亀裂
(写真13参照)


2.1.5 鋲に生ずるもの
(1) 腐食
(2) 弛緩
(3) 脱落
(写真14,15参照)

写真3 擦過による船底の傷(Bottom scratch)

写真4 船底の広範囲な凹入、これだけひどい凹入は誰にでも発見できる。

写真5 スクラッチのない曲り外板の凹入。この程度の凹入は発見がむずかしく、見落とすことがある。凹入量はわずか14mm、25mmであるが、内部の骨が腰を折っていることがあるので油断はできない。

写真6 外板の亀裂−幸にAft Peak Tankの外板であったため、大事には至らなかった。タンクより水が漏っているので用意に発見されたが、そうでないと外からではなかなか発見できない。

写真7 岸壁接触による艙内肋骨下部の曲り。もちろん外板も凹入しているが、大曲りなので外から見た場合凹入を見落とすことがある。

写真8 座礁による骨(二重底内ストラット)の座屈、船底が持ち上がり船底縦肋骨(Bootom Longitudinal)も曲がっている。内底板も若干持ち上がっていた。

写真9 肋骨(Frame)の亀裂−清水タンク内で、ピュアー・エポキシ塗料が塗ってあるので錆の生じている亀裂は容易に発見される。

写真10 骨の切断。あまり腐蝕を伴っていないが、傷は古い。

写真11 肋骨の衰耗腐蝕−骨の桁(Web)はほとんど消滅しており、肋骨としての強度は大幅に低下し非常に危険である。

写真12 接触による船首部外板の破口からFore Peak Tankの内部が見える。

写真13 溶接部の腐蝕−船側外板をShot Blastして古い錆と塗料を除き鋼板を裸にして発見されたもの。水平方向は本来の溶接継手の腐蝕で、上下方向の腐蝕は内面に骨がある個所の腐蝕である。

写真14 鋲(Rivet)の弛緩による油の漏れ。入渠した時は鋲頭ぼ一つ一つにも注意が必要である。

写真15 鋲頭の腐蝕(図1参照)。





図1 鋲頭の腐食

二重底バラスト・タンクの KeelとA-Strake を固着していたタンク内面からの腐蝕。鋲頭は完全に消滅しており、タンクにもぐって鋲を叩くと鋲は簡単に抜け落ちてしまう。海水に接する外面の鋲頭は健全である。この逆の場合で外面の鋲頭が消滅する例もある。



2.1.6 艤装品などに特有なもの
(1) 作動不良
(2) 摩耗
(3) 焼きつけ、剥離
(4) 折損
(写真16参照)
写真16 主機クランク・ジャーナルのメタルの剥離、機関部のこの種の損傷は、軸受部を開放してはじめて発見され計器には現れない。



2.2 原因による分類

2.2.1 他物(波浪を含む)接触によるもの

主として、前記2.1.1に分類した損傷がこれに該当し、(1)の傷は、船体が岸壁などの鉄の部分に局部的に触れた際、外板に掻き傷が生じる例がこれで、ひどい時は、板の表面が一部削り取られる。接触部が大きい場合は、(2)のように板が凹入し、更にひどくなると、(3)の亀裂、破口につながる。膨出の例はあまりないが、貨物艙内の貨物が、直接外板に激突し、外部に外板が凹入すると、外から見た場合、船体にコブができたように膨出する。また、前記 2、1.2の損傷も、多くの場合他物接触によるもので、木材運鍛船に見られる肋骨、隔壁の損傷、撒積貨物船のグラブ荷役による内底板や隔壁の損膓はこれである。スラミイング(Slaming)による船首船底外板の凹入も含めて、一般貨物船の損傷の多くは、他物接触によるものと考えられ、その相手は海底、浮遊物、岸壁、他船、荷役時の貨物等がある。


2.2.2 時間的経過による損傷

前記2.1.4に該当するものがこれで、その性質上、次の三つに分けられる。

(1) 単純な腐蝕

単なる腐蝕により、鋼材の板厚が薄くなり、遂には切断、破口につながるもので、吃水線附近の外板のように、海水に接している状態と空気に接している状態が繰り返される場合は腐蝕の進行は早く、船底外板のように常時海水に漬っている部分は、塗装が十分に効いている限り、腐蝕は少ない。ただし、海水に漬っていても銅合金製のプロペラの近くでは、金属のイオン化傾向の差により、その附近の外板、船尾材及び舵に腐蝕が生じ易い。これは一般に電蝕と呼ばれ、この腐蝕を防ぐために、鋼材よりイオン化傾向の大きい亜鉛板を取り付け、鋼材の代りに亜鉛板(Zinc Anode)が融けて船体を守る工夫がされている。ドックに入った時に、前回のドックで取り付けた亜鉛が良く残っており、良い亜鉛を付けたとよろこんでいる人がいたが、亜鉛板は無くなっている方が良く効いている訳で、残っているのは、取り付けが悪かったか、あるいは材質が悪かったかのどちらかで、亜鉛が残っている分だけ船尾部が腐蝕している筈である。

腐蝕が早い個所は、温度が高い所、湿気の多い所で、ボイラ附近、蒸気ウインチ、ウィンドラスの台、それらの下の甲板などは腐蝕が早い。船体構造としては、鋼材の両面で乾湿を繰り返し、曝露したタンク頂板は夏期には100℃近くにも達するのでバラスト・タンクの内部部材のタンク頂部附近も腐蝕は著しい(写真17参照)。腐蝕が著しくなると破口につながるのは当然である。



写真17
パラスト・タンク頂部における内部部材の腐蝕。桁の一部が消滅している。(船令12年大型タンカー)


(2) 疲労よる損傷

トタン板を裏表交互に同じ個所を折り曲げ続けると、次第に板が弱くなり、遂に切断してしまうように、鋼材に常時繰返しの力が働くと、あまり腐蝕もしていないのに亀裂が生じる。これは、疲労破壊と呼ばれている。



図2 ホギングとサギング

Hoggingでは上甲板に引張り、船底外板には圧縮の力が働く。Sagging ではこの逆。静水中でも貨物の積み方により船体はHoggingあるいはSaggingの状態になる。


船体は航行中、第2図のように波によりホギング(Hogging)、サギング(Sagging)の状態を繰り返し、上甲板、船底外板は常時、引張りと圧縮の繰返しの力が働いているわけである。しかし、これが原因で船体が疲労破壊を起した例がないのは、破壊に至るまでのホギング、サギングの繰返しの回数が天文学的な数字で、船の寿命にくらべ格段に多く設計されているからである。ただし、タンカーなどで誤った貨物の積み方をした場合には、船体が曲がってしまう例がある。

船体構造における疲労による損傷としては、前回のフィクションに於ける肋骨下端のブラケットの折損は、疲労と腐食が相乗したものである。

一般に疲労を受ける部分は腐蝕が起き易く、疲労と腐蝕による損傷は相乗して発生することが多い。最近、32キロや40キロといった高張力鋼が使用されるようになりこれら高張力鋼の疲労が問題とされている。

(3) 摩耗

常時摺れ合う個所に摩耗はつきもので、これを防ぐために油などの潤滑油の供給が必要になる。これを怠ると、接触部分が焼きついたり、摩耗が限度に達し、その部分に損傷を生じる。甲板部で摩耗が考えられるのは、主として艤装品関係で、舵に関連して舵針(Pintle)等の軸受け、揚貨装置に関連するものとして、グースネック、各部のアイプレート、ウインチのブレーキ、艙口蓋の回転部、締付の楔(Wedge)、滑車のシーブ等、投揚錨装置として錨鎖、揚錨機等が考えられる。

しかし船体自身も、船首部外板が投揚錨の都度、錨や錨鎖と摺れ、溶接のビードや、鋲接の船では鋲の頭、もちろん外板自体も摩耗する。この種の損傷は、摩耗により外板の塗装が剥れ、腐蝕が徐々に進行する形を取り、一般の摩耗とは趣を異にしている。


2.2.3 人為的な原因による損傷

厳密に人為的な原因による損傷を判定することはむすかしい。一般に設計、工作、材料不良として処理されてしまうが、船が建造された時代の常識では問題とされなかった事項が、屈曲、座屈、亀裂等の損傷につながり、後になって設計不良、材料不良と判定される例も多い。

第二次大戦後頻発したアメリカの戦時標準型船(リバティ型船)の船体折損事故は、その後の研究で脆性破壊 (Brittle Fracture)として知られており、設計と材料の不良が原因と考えられている。すなわち、設計または工作の不良により、船体構造の何処かに、亀裂発生の芽と見られるノッチ(Notch:非常に小さい亀裂)がある状態で、冬期低温にさらされると、何かのはずみで、この亀裂の芽は急速に、音速以上の速さで成長し、甚しい場合は船体が真二つに切断してしまう。

表1:米国戦時標準船(Liberty、T-1、T-2)の船体切損事故

もっとも、最近はこの方面の研究が進み、亀裂が発生し難い鋼材や、亀裂が生じてもこれが伝播し難い鋼材が開発され、船の大きさにより、例えば、第3図のように使用されており工作も良くなっているため、脆性破壊により、船体が真二つに割れるような事故は殆どなくなって来ている。しかし、冷蔵運搬船においては、艙内温度が非常に低くなって来ており、−50℃にも達するものがあり、この種の船で、低温用の材料を使用しているにもかかわらず、局部的な溶接欠陥個所から亀裂が発生し第二甲板に大きな亀裂が生じる例が希にあるのは残念なことである(写真18、19参照)。



図3 Crack Arrester

外板に亀裂が発生しても進行し難い鋼板(Crack Arrester)を配置して船体切断に至るような大事故を防止する。船の大きさ、板厚により 銑イ貌端譴KB、KD又はKE鋼板が使用されている。




写真18
脆性破壊−冷蔵運搬船の第二甲板の大きな亀裂、Hatch side girderの溶接不良部から発し、長さ4mにおよんでいる。




写真19
材質不良による制鎖器(Chain Compressor)の破損






30年程前に大型船タンカーのタンクの内部部材に多数の亀裂が生じたことがあった。これらの亀裂の大部分は、横桁(Transverse Web)に取り付けられた防撓材(Stiffener)の下端や(写真20参照)、桁板の縦通材貫通部に生ずるもので、40数年前にマンモスタンカーと云われた、裕邦丸、高邦丸(L=185.00m,B=25.20m,D=13.40m,28,210D/W)にも認められており、船体折損などのような大事故につながる損傷ではないが、やはり設計工作の不良と考えられる。

戦後、船体構造が鋲から溶接に変った頃、貨物船の中央部船底外板に座屈が頻発し、船底外板が横方向に何個所も凹入した。それまでは船底外板と肋板(Floor)とは鋲で固着されていたが、溶接になったため、肋板闇の外板に溶接歪(普通痩馬と呼ばれる)が生じ、船底の座屈強度が低下したのが原因であると結論ずけられた。この結果、座屈が問題にならない小型船を除き、船底構造は痩馬の影響が無く、座屈にも強い縦肋骨構造(Longitudinal System)が採用されるようになり、中央部の船底に座屈が生じる例は殆ど見られなくなった。これも結果的には設計、工作不良による損傷であったと云える。

その他、人為的と云えるかどうかわからないが、一般に誤操作によるとされるタンクの膨出又はパラスト兼用艙のHatchの凹損事故も希に起ることがある(写真21参照)。




写真20
桁板に取り付けられた防「暁」材(Stiffener)下端の亀裂(図4 亀裂 




写真21
誤操作によるデリック・ブーム基部グースネック「堅」ピンの折損。



空気管が塞っていたり、凍結したりしている状態で、タンクに注水すると、内部の空気が逃げきれず、タンクを膨らませてしまう。この場合、タンク部の外板は膨れないで、タンク頂板が膨出する。逆に、この状態で排水を行うとタンク内の圧力が低くなり、負圧に弱い、Hatch Coverを凹損させることもある。

以上、原因による損傷を分類してみたが、船体の損傷は、各種の原因が重なって起きるものが多く、損傷が起こった時期、その時点における海象、気象等外力の状態を正しく把握することは不可能で、次の定期検査が間近い船では、船体各部の詳細なデーターとしては、4年前のものしかないこと、一方、同一設計で、同一造船所で建造された船で、一方の船には損傷が生じ、別の船には全然異状がない例もあり、損傷の原因を究明することは、損傷を発見するのと同様に至難の技である。




トップページへ このページの先頭へ 次のページへ