3.損傷の修理法(1)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄

3.損傷の修理方法

前記の各種損傷に対し,どの様な修理方法が採用されているか,以下概略を述べることとする。

修理とは、損傷発生前の状態に復旧させる工事であることは当然であるが、船主と修理業者(造船所)との間で交わされた契約書に基ずいて行われる。損傷が衝突、火災、座礁等による場合には修理費は一般に保険業者によって支払われるのは自動車の場合と同じであるが、保険の契約によっては荒天による波浪の打ち込みなど自然現象による損傷や誤操作による損害も補填される様になった。なお,第1回のプロローグで取り上げた艙内肋骨下部の修理は応急修理(Temporary repair)であり、応急修理の費用は保険では補填されない。

工事に当たっては、定められた工期内に完工させ、良好な工事が行われることが肝要である。工事が不良の場合は、その時は修理が終わったようでも、就航中溶接部に再び同じ亀裂が発生し却って事態を悪化させることがある。

先ず、修理を行う場合,古今東西にわたって用いられている修理記号を紹介しておく。




表1 修理記号

上記切替えと新替えの記号は必ずしも厳密に区別して使用されておらず,切替えの場合でも新替えの記号が使われることがある。





写真1 座礁による船底凹入

外板には「新替」の記号が書かれているが、正確には「切替え」である。



これらの修理法の他に単なる再溶接による亀裂の補修,局部的な腐蝕の修理として,溶接肉盛り,破口部,衰耗部に施す二重張り(doubling),亀裂の端部に穿孔するストップホール(stop hole) などがあるが,これらに対する記号は特にない。





写真2 亀裂の単なる溶接補修

ただ溶接しただけなので、このままでは亀裂が再発すること多い。



船体の修理は,昔は鋲が主体であったが現在は殆んど溶接で行われている。英語では溶接と「はんだ付け」あるいは「鑞付け」とを区別し、前者はweld,後者はsolderと称しているが,ラテン系ではこの区別はなく次の様に呼ばれている。外地で修理工事が行われる際,知っておくと便利であろう。

フランス : souder

スペイン : soldar

ポルトガル : soldar

ドイツ : schweißen



3.1 現場曲り直し △

軽度の曲り,凹入の修理法として古くから行われており,歪の程度により単に鋼材を加熱急冷して曲りを矯正する方法と,加熱してからハンマーで叩たり,ジャッキやボルト締めによる外力を与えて曲りを直す方法とがある。前者は俗に「お粂」または「やいと」と呼ばれ,甲板室の壁など板厚の薄い所の歪取りに採用され,後者は外板や隔壁等の厚板の凹入修理に用いられる。



写真3 現場曲り直しの例



第1図 現場曲り直しの例

凹入部にボルトを溶接で植え,肋骨の位置に冶具を取り付け,凹入部を
加熱して,ボルトのナットを締めると,凹入部は引き出される。復旧
したらボルトは根本から切断し,グラインダーで肌を整える。


  
しかし,ビルジ外板など元来,平でない「曲り外板」では現場曲り直しは不可能に近く,板が伸びきった状態の凹入部の曲り直しも困難で,必ずしもオールマイティな修理方法ではない。最近では場所にもよるが,高額な足場代を払って曲り直しをするくらいならば,工事も簡単で仕上りも良い切替えあるいは新替えの方が一般的になっている。




第2図 切開による曲り直しの例(1)

溶接線に添った局部的に大きな凹入は,溶接線を一部切開
することにより,現場曲り直しは容易になる。






第3図 切開による曲り直しの例(2)

溶接線に添った局部的に大きな凹入は,溶接線を一部切開
することにより,現場曲り直しは容易になる。



板が完全に伸びきった状態の凹損部の修理方法として,俗に「切開手術」と呼ばれる修理方法がある。これは上図のように伸びきった部分を一部切り取って,現場曲り直しを行い,後で,その部分を溶接で継ぐ方法で,二重底内の肋板の軽目孔の歪の修理などにも用いられる。
なお,現場曲り直しは特別な例として,座礁により屈曲した船尾材(stern frame )のshoe pieceの修理の他,錨,錨鎖,デリック等にも応用されることがあり,これらは追って各論で取り上げることとする。



写真4 座礁によるstern frameの三次元の屈曲
(舵は取り外してある)



3.2 一部取外し曲り直し後復旧

昔は外板等にもかなり広く用いられた方法で,文字通り,曲った個所を部分的に取外し,歪取りローラーなどにより平らに整形し復旧するものである。現在は現場曲り直しが効かない様な凹損,屈曲した鋼材は直ちに撤去し,新しい材料に取り替える方法がとられている。この方が工期も短く,経済的である。ただし,避地の造船所で定められた鋼種の定められた板厚の鋼材が,入手出来ない場合は有効と考えられる。

3.3 取外し曲り直し後復旧

凹入または屈曲が,板や骨の全面におよんだ場合,その材料全体を取外し,整形し復旧するもので,前記の“一部取外し曲り直し後復旧”の大がかりなものである。しかし,最近は船体構造部の修理に採用されることは殆どなくなってしまった。ただ,代替品の納期に時間のかかる艤装品に対しては,今でもこの方法が用いられている。例としては,屈曲した舵頭材(rudder stock),揚貨装置の鋳鍛鋼部品の修理がある。

3.4 切替え

現場曲り直しができない程度の凹損,屈曲あるいは局部的腐蝕部、亀裂発生個所に対して行われるもので,良い部分を残し,損傷個所のみを部分的に撤去し新しい鋼材と取り替えるものである。前記の現場曲り直しと共に,現在、船体の完全修理の大半は切替えによるものである。しかし,経済的な面のみを考え,極端に小さい範囲のみを切替えることは,修理部に溶接が集中するという点で好ましくない。切替える場所のすぐ近くが隣のタンクにかかっておりそのタンクに油がある様な場合や.隣が冷蔵貨物倉で,内部に防熱が施されている場合で,止むなく極く一部のみの板を切替える際は,溶接の順序によっては,溶接線に割れが生じることがあり,溶接完了後,カラーチェックやX線検査を行っておくことが必要である。
外板に小さな亀裂や破口が生じ,これを僻地で修理する場合,若し充分な技量を有する溶接工がいない時は,小さな切替え工事をするよりは二重張りの修理(次項参照)を行う方が無難である。切替えを行う場合には,次の点を理解しておけば良い。

3-4-1 板の切替え

(1)切替え個所を決める際は,範囲は多少大きくなっても,第4図のようにその附近の溶接線を利用するのが,溶接の集中を避ける意味で賢明である。



第4図 切替えは溶接線を利用する


(2) 切替える板の縁は,骨から少なくとも150个阿蕕のイ靴討く。骨に近接した個所で切替えると,内面からの溶接の際に骨が邪魔になり,満足な溶接ができなくなる。

(3)二個所以上の切替えを近接して行う場合は無駄なように見えても,それらの部分を大きく新替えした方が溶接量も少なく、従って経費も安く上り,工期も早くなる。




第5図 凹損が散在しているときは大きくまとめて切替える


(4)切替える範囲は,船体内部からも損傷を調べ,内部の構造,足場の位置等を頭において決定する。例えば,切替える板の下縁を下層甲板又は水平桁(horizontal stringer) の上にした場合と、下にした場合とでは、上にした場合のほうが甲板下の足場の架設が不要となり経済的である。



第6-1図 凹損部が甲板または水平桁に近い場合の切替え(1)

1)凹入が甲板、水平桁などに一部掛かる場合、上図のように上側の板の下部、下側の板の上部を替えるのは不経済である。この例では,旅事のため甲板の下に足場を設けなければならなくなる。




第6-2図 凹損部が甲板または水平桁に近い場合の切替え(2)

2)上側の板の下部のみを切替え、下側の板は現場曲り直しを行えば、甲板下に足場を設ける必要はなくなり経済的である。ただし、下側の板の凹損が現場曲り直しが出来ないほど甚だしいときは第5図のような工事になる。


(5)老齢船で外板などが一様に薄くなっており、工期の関係で,極端に薄くなっている部分のみを切替える場合,使用する鋼板は図面に記入されている生れの時の板厚より多少薄い板を使った方が良い場合がある。隣の板が薄くなっている所に,新造と同じ板厚の板を継ぐと,弱い板に無理がかかり,修理後問もなく、隣の板に損傷が生じることがある。

(6)止むを得ず溶接線を利用せずに切替える場合は,切替える板の隅には
最小150mぐらいの半径で丸みを持たせる必要がある。直角な板をはめ込んで溶接す
ると,角の所の溶接がうまく行かず,後で亀裂の原因になることがある。

(7)小さく切替える場合は,亀裂が生じ難い低水素系の溶接捧(Low hydrogen
electrode) を使用する必要がある。

(8)切替えによって,はめ込まれる板の四囲の古い鋼板は,新しい板と取り合う縁の
部分を充分に錆打ちをしておく必要がある。特にバラストタンク部の外板の場合,内面には多かれ少なかれ錆が発生しており,錆を落さずに新しい板と溶接すると,溶接部に不純物が溶け込んだりして,不良溶接になる。

3.4.2 骨の切替え

前記の(1),(2),(5),(7),(8)は骨の切替えにも共通した注意事項であるが,骨の場合に特有な事項として次の点が考えられる。

(1)何本かの骨を切替える際は,切替える骨の端部は一線に揃えず,300个阿蕕い鮓鮓澆砲困蕕靴得畋悗┐進が良い。骨の溶接は板と比べるとやり難いので,万が一不良溶接が行われて亀裂が生じた時に,隣の骨に直接無理がかかり,損傷の原因になることがある。

(2)骨を切替える場合,型鋼の面材(f1ange)の裏溶接が困難で、充分な溶接が出来ない例が多いので。溶接後,面材の溶接ビードをはつって平坦に均し,当て板(Pad)を当てておく必要がある。平坦に均さないと当て板の肌付きが悪くなり却って亀裂が再発生することがある。特に骨の深さが 125mm以下の場合には当て板は絶対に必要である。



第7図 肋骨の切替えを伴う外板の新替え

]捷の切替え位置は(2)のように一線に揃えない方が良い。
⇒論楡を利用して板を変える場合は隅に丸味をつけなくて良い。ただし上、下のシームは150mぐらい切りStop hole をあける。
3鞍弔陵論椒掘璽爐かかる部分の肋骨のウエブには15mm程度丸く切り抜き(Scallop),外板の裏溶接を完全に行う。





第8図 小骨の切替え



3.5 新替え

損傷が板または,骨全体におよぶ場合,全体を新しい材料に変えるもので,前記の範囲の広いものである。新替えを行う場合の注意事項は,前述3.4.1の(5),(8)である。なお、切替えや新替えを行う時、まず撤去すべき板をガスで切断することになるが,この時にガスで撤去を要しない内部部材にガスで傷をつけることが往々生じる。工事中に現場を見て板の継手部の骨にガスの傷が発見されたら,溶接で修理をさせておかないと後で,その傷から大きな亀裂が誘発することがある。



写真5 爆発によるタンカーの大損傷

タンクの内部も完全に吹き飛ばされており,
このタンクは新替えということになる。
(実際は本船はスクラップにされた)
 




写真6 爆発による内部部材を伴った外板の巨大な破口





写真7 外板の新替え

外板2枚を新替えのため撤去したところ。屈曲した
肋骨も切替えまたは新替えのため取り外してある。
(左端より4本目は切替え,5本目と7〜11本目は新替え)




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