4.損傷の修理法(2)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄

3.6 溶接肉盛り

鋼板に局部的な掻き傷が生じたり,一部に甚しい腐蝕が生じたりして、その部分を切替えるにしては範囲が狭い場合に行われる。すなわち,板厚の薄くなった部分を溶接で肉を盛り板厚を回復させるものである。しかし,これは,溶接による材質の劣化を伴うことがあるので、あくまで局部的を修理に限られ,広範囲な点蝕などの場合は,切替えまたは新替えをすべきである。現在、溶接肉盛りが行われる例としては,船首部外板溶接線の溝状の腐食に対し,古い腐食ビードの上に溶接肉盛りを行たり艤装品としてデリヅクの摩耗したピンに肉盛りを行い,後で機械加工により修理をすることがある。




写真1 局部的な腐蝕

タンカーのbell mouth直下の腐蝕で,溶接肉盛りで
修理が行われた。置いてあるのは煙草の箱である。


3.7 二重張り

普通,ダブリング(doub1ing)と呼ばれている。これは破口,亀裂を生じた部分や部分的に腐蝕し板厚が薄くなっている個所に対し,そこを塞ぐ目的で,バンドエイドを貼るようなもので、切替えや新替えができない場合の応急処理 (temporary repair) と考えられている。

しかし、まだ腐食を受けていない健全な板に物が当たったりして部分的に穴が開いた場合に施される二重張りは完全修理( permanent repair) と考えて差し支えない。



第1図 完全修理と見なされる二重張り

二重張りの他に板を加工したスピゴットで穴を塞ぐ方法もある。



また、恒久的な二重張りものもある。部材の局所に力が集中する場合,例えば柱の上下端で荷重を分散させる目的で二重張りを施たり,船体延長工事で船全体の縦強度が不足になった時,船体中央部の甲板または船底に長さ方向に二重張りを行うことがありこれらは恒久的な二重張りである。



第2図 柱の下の二重張り




写真2 タンク内の柱上端の二重張り

タンク内の柱には引張りの力も働き二重張りの溶接が切断している。






第3図 縦強度を増すための二重張り

上は船体延長、下は喫水増加による縦強度不足を補う二重張り




二重張りの方法と二重張りを行う際の注意事項を次に示す。

(1)二重張りを施す場合、最も大切なことは、相手の板が平垣で、十分な肌付きが得られることである。普通、二重張りを行わねばならない板は腐食で薄くなっているだけではなく多かれ少なかれ歪みが出ており、新しい平らな板を載せると隙間ができその個所の溶接が不完全になる。穴を塞ぐための二重張りで亀裂部に段がついていたり,曲り板の上に施す際は、ニ重張りは比較的薄い板を使用し,段や曲りになじませた法が良い。隙間を少なくして肌付きを良くるには通常“馬”(bridge, arm, arch)と呼ばれる冶具が用いられる。




第4図 肌付き






第5図 間隙修正の例

アームを溶接で取り付け、楔を打って上にずれてい
る板を押し下げる。同一平面になったら馬を仮溶接
して板相互の溶接が終わるまで固定しておく。





第6図 型鋼の肌付き

アーチを溶接して楔を打ち込む。正しい位置が決まったら
支えを取り付け片鋼と板の溶接が終わるまで位置を保つ。



(2)点蝕が散在しており,近接して何個所も二重張りを施すことは,手間もかかり,このような腐蝕部は十分な肌付きも得られないのでいっそのこと,切替えるか新替えすべきである。

(3)亀裂の端部にはガスではなくドリルでstop hole を開ける




第7図 二重張り(1)

亀裂の端部にはドリルでstop holeをあけ、ニ重張りを当てる。二重張りは内側から当てても,外側から当てても良いが,外側から当てると膏薬を貼った感じで見えが悪い。この図は内側から当てた
図で,何れの場合も近くに骨がある時は骨にかけた方が良い。
また点線の亀裂部は溶接しなくても良い。stop holeをガスで開けると穴の周囲がぎざぎざになりそこから更に亀裂が進行することが多い。



(4)切り抜き部の隅は曲線にする。




第8図 二重張り(2)

亀裂個所を切抜いて二重張りを施す場合は,切抜いた部分の四隅にはAのように丸味をつける。Bのように角をつけて切抜いてはならない。二重張りの溶接は内外面から行い,重ね代は150个阿蕕い適当である。



(5)骨のある場所の二重張り



第9図 骨のある場所の二重張り(3)

骨のある個所で亀裂部の板を切り抜き外側から二重張りを施す場合は,里茲Δ忙誘に丸味を付けて切り抜き、骨の個所に板と同じ板厚の下駄を溶接し二重張りを当てる。下駄をはかせないとい陵佑帽と二重張りの部分に隙間ができて良くない。



(6)錆打ち
二重張りを施す板の表面に錆が発生している時は,少とも,二重張りの板の周囲隅肉溶接部は錆打ちを行っておく。

(7)腐食が甚だしい板
極端に腐食が進行し,板厚が3舒焚爾阿蕕い砲覆辰討い觚捗蠅貌鷭田イ蠅鮖椶垢,隅肉溶接の熱で,板に孔が開くことがある。このような場合も,当然,切替えか.新替えで修理すべきである。

(8)部材を跨いでの二重張り



第10図 二重張り(4)

部材を跨いで二重張りを施す場含は,原則として、その部材の二重張りにかかる部分を,二重張りの板厚だけそいで,二重張りを通す。二重張りが他の部材のところで切れるのは好ましくない。板幅が400mmを超える場合には栓溶接を骨の上に施す。栓溶接の標準は第11図の通りである。




第11図 栓溶接の標準



(9)広範囲な二重張り



第12図 縦強度を補うための二重張り(5)

縦強度を補うための二重張りは船体中央部のほぼ全長、幅も艙口側部から舷側までの広範囲に及ぶ。この場合、板は300〜400mmとしてこれを何条も並べたほうが良い。横方向の接手は骨の上に置き完全な肌付きをさせる。




3.9 メタロック(Meta lock)

鋳鍛鋼の艤装品に亀裂が生じた時、一般に応急修理といった形で行われるが、完全修理と見なされる場合もある。亀裂の線を挾んで,金属の楔のようなものを打ち込み,亀裂の両面を繋ぐ修理方法である。これはメタロックの専門家が特殊な模と道具を使用して行うもので,何処でもすぐに行える修理方法ではない。前回の口絵写真19で制鎖器の破損の状態が示されているが,材料が鋳鉄で溶接修理ができない場合はメタロックによって破損部を繋ぐこともできる。




写真3 貨物油ポンプのCasingの亀裂とメタロックによる修理(修理前)




写真4 貨物油ポンプのCasingの亀裂とメタロックによる修理(修理後)



3.10 水止め

水線下の外板やタンクの隔壁に漏水が発見された場合の応急的な修理方法で,状況に応じて次のようなものが考えられる。

3.10.1 亀裂による外板からの漏水

筆者は乗船して、漏水した場合の応急修理に直接関係したことがないので,他人の経験談に想像をまじえて書くこととする。航海中、特定個所のビルジ急に増えた場合や船体が傾いたときは外板に穴または亀裂が発生し船内に浸水したと考えられる。

(1)先ず,ポンプで排水を行い漏水個所と大きさを確める必要がある。貨物を積んだ艙内外板の亀裂の場合は,貨物の種類によっては浸水部を確認することは不可能な場合がある。

(2)潜水夫により外側から亀裂、穴の状態を調べてもらい、その個所に毛布かキャンバスを当て浸水を抑える。これらは水圧により板に吸い付く。

(3)船外から水中溶接で二重張りを施すか、プロローグの様に船内から二重張りを行うか、セメントボックスを作って浸水を止め最寄の修理地に向かう。

(4)バラストタンク部の船底外板で亀裂が船の長さ方向に走っている場合は亀裂の端部にストップホールを開けるだけで亀裂はそのままにして修理港に向かっても船の安全には問題がない例が多い。但し、滅多に生じないが亀裂が船の中央部で横方向に生じている場合は縦強度に影響が出るので、なんらかの補強工事が必要になり事態は重大である。




第13図 船底の亀裂

なお、水線下の亀裂で,ストップホールを亀裂の両端に貫通させ,木栓で浸水が止められない場合は,板厚の3/4程度の深さで,貫通しないザクリ状のストップホールでも,かなり効果はあるようである。




写真5 ストップホールの例



(5)タンカー等の大きなタンクに浸水した場合はハッチやベント管など,甲板上の開口部を完全に閉鎖し,タンク内の残った空気を逃さないようにして浮力を保ち,吃水の調整を行いつつ,油漏れによる大した海洋汚染もなく無事修理地に回航された例も珍しくない。

(6)最近は種々のコーキング材が開発され,二種類のペースト状の材料をこね合わせ漏水部に詰めれば、漏れた状態でも固るものが日曜大工の店で市販されている。しかし,筆者が水道の水漏れを止めようとして試みたことがあったが,あまりうまくはいかなかった。今後のこの種の材料の開発が期待される。


3.10.2 鋲構造部の水止め

鋲構造の船は珍しくなってきたが、現在でも稼動しているものがあるので,蛇足のきらいはあるが追記することとする。

(1)鋲の切断
凹入や亀裂が発生した板を新替えする場合には、その板を撤去するために周囲の鋲を全部抜き取る必要がある。鋲の抜き取りにはガスかドリルで鋲の頭を取り除き反対側の鋲の頭を叩いて鋲を抜くことになる。




第14図 鋲の抜き取り

鋲頭をガスかドリルで取り除きポンチで叩く



(2)鋲から溶接への移行
船体構造が鋲から溶接に変わり鋲打工がいなくなったこともあり、鋲の代わりに溶接で修理することがある。鋲から溶接に移行させる方法を図15に示す。




第15図 鋲継手より溶接継手への移行

外板の上縁を肋骨心距の1/2~1/3 程度切り、端部にはストップホールを開ける。内板の外面を除々に曲げて外板の外面に合わせて溶接する。溶接の熱で付近の鋲が緩むので、コーキングをするか鋲頭をリング溶接する。


(3)鋲接部のコーキング(Caulking)

鋲を打ったままの状態では水は止らない。鋲で密着しているように見えても板は物理的に着いているだけなので、二枚の板の間には微細な隙間がある。水は(1) 図Aの鋲頭の周囲,板の重ね目Bより矢印の径路で浸入してくる。A,Bを拡大して表わせば(2)のように微かな隙間があり,この隙間をコーキング・ハンマーで叩き隙をつぶし圧着させ水の入り口を塞ぐ(3)。すなわちコーキングは(4)の点線で示す部分について行うことになる。コーキングは填間とも呼ばれている。なお、溶接部に微細な穴があり (blow hole)、水漏れがある場合にも穴を叩いて潰して水止めをすることが出来る。




写真6 鋲接部のX線写真

鋲孔と鋲との間は隙いている





第16図 鋲接部のコーキング

鋲を打ったままの状態では水は止まらない。水は(1)図 Aの鋲頭の周囲,板の重ね目Bより矢印の経路で浸入してくる。A,B を拡大して表せば(2)のように僅かな隙間があり、この間隙をコーキング・ハンマーで叩き潰して圧着させ水の入り口を塞ぐ(3)。即ち、コーキングは(4)の点線で示す部分(鋲の頭と板の重ね代)について全部行はねばならない。



(4)水止溶接、鉢巻 (ring weld, seal weld)
老齢船で鋲頭や板の状態が悪く,コーキングが効かない場合に溶接で水止めを行うものである。本来ならば板を切替えて鋲を打ち直すのが本当であり,応急修理的な方法として採用されている。鋲頭の周囲に溶接ビードを盛りこれによって水を止めるものである。溶接ビードが多すぎると,溶接の熱により,隣接の締っていた健全な鋲も緩み、その個所も水止め溶接が必要となり馳ごっこになり小部分の漏水を止めるため,かなり長い範囲にわたって水止め溶接を行わなければならなくなる。したがって,鋲の水止めは出来る限り,前記のコーキングによる方法が正しい修理である。ただ,最近はコーキングのできる職人が減ってきており,鋲構造部の修理には頭を悩すものである。また、鋲の頭が全体的に腐食している場合にも溶接で肉を盛って修理する場合もある。溶接による鋲の修理を第17図に示す。




第17図 鋲頭の肉盛り




(5)ポテ充填

これも鋲接手部よりの漏水,漏油を止める応急的な修理で,一般にポテポンプと呼ばれている。これは,水が漏れてくる通路にポテを注射することにより,水の道を塞ぐもので嘗ては老齢船のタンク隔壁の漏れを止めるため,盛に利用されたものである。ポテポンプの要領を第18図に示す。




第18図 ポテポンプ



3.11 セメント・ボックス(cement box)

外板に亀裂や破口が生じ,船内に浸水した場合の応急修理として鋲構造の場合も溶接構造の場合も広く行われている。潜水夫により浸水部の外面にターポリンや毛布などを当てて浸水の勢をおさえ,船体内部の亀裂個所には,木栓,楔あるいは油(ビン付油が良いとされているが前記のコーキング剤も有効と思われる)を塗り漏水を最小限にとどめ、附近の肋骨,ブラケットなどを利用して浸水個所を包む範囲の木枠を組み,セメントを流し込み,該部をセメントで固めて水を止めるものである。この方法で浸水は完全に止めることができ,古今東西で行われている。なお,このセメント・ボックスは,寒冷地ではセメントが凍ってしまい,十分効果をはたさないことがあり、また,油タンク内や機関室内部で,セメント・ボックスを施す部分に油が多量に附着している場合も,セメントが付き難いことがあり予め注意を要する。




写真7 肋骨下部のセメント・ボックス






第19図 セメント・ボックスの概要




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