6.損傷の発見法(1)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


5.損傷の発見法

電気機器が故障した場合、例えばテスターで導通をとり断線を調べたり、電流、電圧などを測り故障個所を発見することができるが、船体など大型構造物の場合は、異状により、それに附随して発生する二次的な異状が少ないので現在に至っても科学的な損傷発見法はなく、直接目で見て発見するという前時代的な方法が未だに行われている。

検査の面では一番進歩しているのは医学関係でCT検査のほか、MRIは既に陳腐化し、MRI-CPの時代になっている。




テスターによるcheck



造船技術にも、他の産業同様著しい進歩が見られ、設計面においても、現場工事の面においても電算機が縦横に駆使されている。オイル・ショック以来、超大型タンカーは減ったとはいえ、VLCCを思わせる20万トン級の大型撤積船の出現、高速コンテナ船、遠くから見ると城のような自動車専用船、零下150度以下になるまで冷して天然ガスを運ぶLNG船など、昔我々が予想もしなかったような船が建造されている。しかし、この急速な進歩に、依然として追従できないものが検査技術である。勿論、この面でも全然進歩がない訳ではなく、非破壌検査の一環として、X線検査、超音波による欠陥の発見と板厚の計測などは実地面でも広く利用されている。また、二十数年前に日立造船でITV(工業テレビ)による検査方法の実験が行われている。当時の工業テレビは現在と比べるとまだ解像度が悪かったがその結果を写真1〜3に示す。その後、タンカーでデッキのバッターワースハッチからテレビカメラを吊り下げてタンク内部を検査する方法も試みられたが実用化されたとは聞いていない。その他、船体の固有振動の変化による船体強度および老令度の研究、電算機を用いた信頼性工学(Reliabllity Engineering) に基く科学的検査方法なども考えられているが、検査の面で実用化されるには、まだかなりの年月がかかりそうである。





写真1 ITVによる検査(1)

工場建屋の鉄骨の検査





写真2 ITVによる検査(2)

写真1の建屋の左隅のガーダーの画像、ボルト、
電線などが拡大きれて写っている。





写真3  ITVによる検査(3)

平鋼交叉部の亀裂が写し出きれている




かくして船に限らず橋梁、高層ビルなど大型構造物の検査は、各部を歩きまわり、主に目で見て異常を発見するという昔ながらの方法が殆どを占めているのが実態である。終戦直後の物資不足の頃、町に落ちている煙草の吸殼を拾い、吸える部分を集めて煙草の再生が行われた。この煙草の吸殼を捨う商売人はモク拾いと呼ばれた。このモク拾いと同様、モクの落ちていそうな所を嗅ぎ出し、目を唯一の武器として船内を歩きまわっている姿は、技術革新の時代に、何ともお恥かしい次第である。しかし、モク捨にも有効な方法はある訳で、小学校の校庭でモク拾いをする奴は居らず、人が集まり、吸殻が沢山落ちている所を調べて短時間にできるだけ多くのモクを集めるのが優秀なモク拾いとなる。




モク拾い


船の場合も、ただ莫然と船内を歩きまわっているだけでは異常の発見は困難で、始めのうちは目も緊張しているが、危いタラップを降りたり、狭いタンクにもぐったりするとだんだん疲れがでて目もかすみ、ただ、動きまわっているばかりが精一杯で、何を検査したのか判らなくなる。劃劃期的な検査方法がまだ現れない段階で、我々のとるべき手段は、モクの落ちていそうな所を適確に見出し、体系化し、それを設計にフィード・バックして、損傷の起きない船を建造することである。ただ問題は、いくら電算機で詳細な設計をしても船が立ち向う大自然は人問の叡知を遥かに超えていること、健康な人でも寄る年波には勝てず、どうしても体力が衰えてくること、また、経済の要講により、新しい構造の船が現れてくることにより、モク捨いの仕事は半永久的に続くのではないかと思われる。以下、各論において、船体各部につき実例をまじえながら、モクの落ちているような個所を説明することとするが、今回は、一般的に見て、損傷の潜んでいるような個所と、具体的な発見法を述べることとする。



5.1 損傷が潜んでいる個所

ここでは、一般論を述べることになるが、結論は簡単で、普通、目の届かない所に損傷が隠れており、船内を充分に清掃し、足場を沢山設けて捜しまわれば、多かれ少なかれ異常が発見できる。


5.1.1 汚い所

亀裂、破口、腐蝕は往々にして錆、泥、スラッジ、ニゴなどによって隠されているものである。写真4、5に示した鋲頭の腐蝕も、ヘドロを完全に除去して、はじめて鋲頭が無くなっていることが発見されたものである。




写真4 腐食で頭のなくなった鋲




写真5 頭は完全に消滅している


   
一応タンクの掃除はしてあっても、まだ部分的にはドロは残っており、身をドロまみれにし、ぼろ布(ウェス)でタンク内面を拭うと、そこには予想以上の鋼板の腐蝕や、頭のない鋲などが姿を表わしてくる。逆に云えば、船内各部を歩きまわって、作業服が汚れないような船では、損傷は少ないのが普通である。何れにせよ己の身が汚れることを厭ってはならない。


5.1.2 危い所

写真6は貨物船のNo.1 hold前部hatch前端の甲板裏特設梁(web beam)に生じたもので、写真7は、これを下から見上げたところである。これは艙内肋骨 (hold frameに取り付けられているスパーリングを登って甲板裏をじかに眺めて初めて発見されたもので、艙内から上を見上げただけでは、距離が遠いため、 写真7の亀裂は発見困難である。
最近よく報告されている鉱石運搬船のウイング・タンクのストラット端の亀裂(写真8参照)あるいは腐蝕(第1、2図参照)も下から見ただけでは判らぬことが多く、足場がない場合は、タンクに水を張りゴムボートを浮べて、これに乗って調べるか、船側縦通肋骨(side long1tudinal)を伝って上に登らなければ発見できない。身の安全を充分に確めた上で、危険な所に近ずけば、そこには何等かの異常が隠されていることが発見出来、丁度、ロック・クライミングで山頂を極めた時のように、登って良かったとの感慨が涌くものである。

タンクでは仕方がないが、貨物艙では、貨物のある場合、揚荷前に、その上に登って甲板裏を調べておくのも一つの方法である。何れにしても、ガムシャラな登山や未経験者のロック・クライミングは厳に慎むべきである。




写真6 No.1 1hold hatch前端におけるweb frame上端の亀裂





写真6の説明

Face plate の継ぎ目の溶接
及びFace plate とWeb plate
の溶接も切れている。

    



写真7 Face plateの亀裂




写真の部分を下から見上げたところ





足場の無い場含







第1図 鉱石運搬船のwing tank






第2図 A部の詳細写真1

鉱石運搬船のwing tankのStrut端部にはⒶのような亀裂が
発生することがある。外板側はStrutの上方、縦隔壁は下方に生じ、
これは下から眺めただけでは判り難い。この他Ⓑ、Ⓒのような
亀裂もしばしば発見される。






写真8 Strut端部の亀裂




5.1.3 狭い所

狭い所というのは一定の空間内に多くの部材がある所で、概念的には広い所よりは丈夫で損傷は少ないように考えられる。これはある意味では真実で、例えば家庭の便所は四隅に柱があるので、地震の時は安全な場所といわれている。しかし、船体の強度に関係のないパイプなどが輻榛したような狭い場所は、目がとどき難いという点で思わぬ異状が潜んでいる。最近の大型船では、さすがに狭い所はあまり考えられないが、機関室内部のグレーチングの下を這いまわると、主機、補機の下部には局部的な異状寓蝕、屈菌、パイプの破口、機器の取付ボルトの切損、弛緩など変化に富んだ異状が兄つかることがある。

また、狭い所は一般に掃除が行きとどかず、汚い場所であり、船尾タンク内の船尾管下など、下手に潜り込んだが最後、憤れない者にとっては出られなくなる危険な所でもある。




船尾タンク内の船尾管下

仕事熱心のあまり状況を確認せずに入
り込むと出られなくなることがある。




5.1.4 異状の発見が最も困難な所

誰の目にもつき、常識的に、こんな所が破損する筈はないと考えられる個所の損傷を発見するのが最も難しい。ポオの「盗まれた手紙」や、カーの「ホット・マネー」では、名採偵が推理力を働かせて、名刺入れの中に無雑作に入れられた書類を捜し出したり、石油ストーブの中の紙幣を見つけたりするが、船体の損傷については、二次的な異状が現れない限り、いくら推理力を働かしても損傷を見つけることはできない。結局、常に注意の眼を開き、過去の経験を背景にしたインスピレーションにより、これらの個所に潜んでいる損膓が発見されることになる。(この項つづく)





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