7.損傷の発見法(2)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


5.損傷の発見法

5.2 五感の活用

既に述べたとおり、船体の異状は歩きまわって目で発見することに尽きるが、幸い、人間には五感、すなわち、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、および触覚が備わっている。そうし総てが異状発見の手段となる。第1図は五感により発見される損陽を示したものである。これらのうち、視覚によるものは90%程度と考えられ、他は極く限られた補助的な手段である。視覚については既に取上げ、これからも視覚を主にして話を進めることにするので、それ以外のものにつき、簡単にふれてみる。



第1図 五感の活用


5.2.1 触覚

普通はテストハンマーを用い、鋼板を叩くことにより板の衰耗状態、ボルト、鋲頭を叩き締り具合、舵のピントルを叩き(強く叩いて傷をつけないこと)スリーブの肌浮き、その他、目違いもテストハンマーで発見できることがある。また、慣れてくれば、ただ甲板を歩くだけで、甲板の歪の状態が判るようになる。テストハンマーの使い方を第2a,2b図に示す。




第2a図 テストハンマーの使い方(1)

(1)と(2) において、鋲の縁やナットに指を当て、テストハンマーで鋲頭を叩くと、弛んでいれば指先に微妙な振動が感じられ緩みが良く分かる。慣れれば叩いた時のハンマーの反動のみで弛みが判る。(3) においては舵のピントル(pintle)、プロペラシャフト(propeller shaft)などのスリーブ(sleeve)の肌浮きも甚しい時は叩いただけで判るが、スリーブ に指先を当て、その附近を叩くと指先で肌浮きを感じとることができる。(4) 鎖のスタッドの微妙な緩みも指を当てることにより発見できる。




第2b図 テストハンマーの使い方(2)

(5) 目違いも怪しいところを叩くと硬い感じの音がして目違いが分かる。硬い音のする個所は裏に部材があるところである。(6) 隣のタンクにどのぐらい水が入っているかも叩いた音の感じで水位が判断できる。下から上に叩いていき音が変わる位置が水面である。その他の利用方法としては (7)叩いて錆を落すこと、(8) 骨が何処にあるかは板を叩き硬い音がするところの裏側に骨があることが分かる。(9) 慣れてくると板がどの程度薄くなっているかが判断できる。


5.2.2 聴覚

タンクなどに入って水の流れる音、したたる音により破口、亀裂を発見したり、舵を取る時の異状音、あるいは、圧力のかかったタンク、管から空気の漏れるシューツという音で異状が判る。バラスト状態で航行中のタンカーが、シケに遭うとタンクの部分で鉄の摺れるような音がするので、その附近のバタワース・ハッチを開けてデッキ裏を覗いてみると、甲板と甲板裏の骨の溶接が切れており、ホグ、サグにより甲板と骨とが摺れる音だったことが判ったという話も珍しくない。




デッキ裏の点検


5.2.3 嗅覚

最近は使用が制限されているが、アンモニアを用いた直接膨脹式の冷蔵艙ではアンモニアの嗅気により、コイルの破口とか、フランジの緩みによる漏洩が感知できる。

5.2.4 味覚

ワインやスコッチの品定めをする訳ではないが、味覚も時としては強力な武器となる。すなわち、外板が濡れている場合、外板に小さな亀裂が生じ、そこから海水が船内に漏れているのか、ビルジなどによる単なる水濡れなのかを知るには、指の先を濡し、舐めてみて塩味がすれば、一応海水と判断でき漏水個所を突き止める必要が生じる。ただし、不心得者の小便で漏れていることもあり得るので、舐める際は衛生上、嗅覚も働かせる必要がある。


5.3 視覚による損傷の発見法

視覚により損傷を発見するための必要条件は、いうまでもなく視力であるが、この他に体力が伴わなければならない。これが劣る者は、いくら頭が良くても役に立たない。また性格としては注意力が集中するタイプよりも、むしろ、注意力散漫なほうが好しいようである。ただし、危険な個所を歩く時は充分な注意が必要で、一見矛盾したことになる。

5.3.1 見透し

長い物の曲りを発見する方法で、その端部に立って、他端を見透せば容易に屈曲が発見できる。これは、ビルジキール(bilge keel)やブーム(boom)等の損傷発見に有効である。
また、ドック内で船底の凹入を発見する場合、第3図のように、「天の橋立」の“股のぞき"よろしく、目の位置を低くして前方を見透すと、広範囲に、じわっと凹入しているのが発見できることがある。




写真1 デリック・ブームの屈曲

端部から見透せば容易に発見できる





第3図 船底の凹入の発見法(1)

広範囲にわたる船底の凹入を発見することは困難で案外見落とし易い。結局、経験と感によるが比較的有効な方法としては、目の位置を下げて見通せばじわっとした凹入が発見出来る。端部から見透せば容易に発見できる。



5.3.2 光線による見透し

船底、甲板、隔壁など障害害物のない平坦な面の凹入の発見法として、その面に平行にライトを照らして見透す方法がよく行われる。若し板が凹入していれば、その部分には光は当らないので暗く陰になり、突出した部分は光が当り明るく輝くので、板の歪の状態がよく判る(第3図参照)。この方法は大型タンカーや、鉱石運搬船のタンク内で、大きな桁、例えば側桁(side transverse)、船底桁(bottom transverse)の歪の発見にも有効である。




第4図 船底の凹入の発見法(2)

ライトを直接船底に当て、船底面に平行に光を放てば、凹入部は光が当らないため暗く影になり突出部は光が当り明るいので歪みが良く分かる。更に、その位置でライトを回転させれば、光の届く範囲で四周の歪みが容易に発見できる。但し、板の継手が鋲の場合はライトの位置を適当に選ばないと何処が歪んでいるのか全然分からない。



5.3.3 汚れた個所を見つめる

周囲の状態と比べ、汚れなどで色が変わっている個所には往々損傷が潜んでいる。

(1)外板の亀裂、腐蝕

入渠した船の船底や船側を眺め、ペイントが剥れ汚れた所には、凹入や腐触が発見されることがある。また全体が乾いているのに一部が濡れていたり錆びている場合、写真2のように外板に亀裂が生じていることがある。




写真2 外板の亀裂

他は錆びていないのに局部的に錆びるところが見つかったら足場などを設けてよく調べる。水線下の外板で、局部的に「青さ」が生え、湿っているのが見つかったら足場などを設けて良く調べる必要がある。そこには、何かのように、必ず割れ目が潜んでいるものである。また人間と同様、皺の出ている所は、板が弱っていると考えてよい。



(2)カサブタを見つける

タンクに入り、壁または天井を眺め、水セメントを塗ったタンクの場合は、赤茶けた大きなカサブタのようなものが見つかったら、破口が生じている可能性がある。テスト・ハンマーでカサブタを除いてみると、場合によっては青空が見えたり、甚しい点蝕が姿を表わす。水セメントに限らず、タールエポなど他の塗装が施してある場合も同様なカサブタが生じていたら疑ってみても無駄にはならない。一般に小さなカサブタの場合は心配ないが、大きい程腐蝕破口の疑いが強くなる。


(3)異状な錆を見つける

応力腐蝕については前に述べたが、ブラケットの先端などで、周囲と比べ異状に錆が発生している部分に気がついたら、テスト・ハンマーで錆を落してみよう、その個所は腐蝕が進行しているか、甚しい場合は鋼板が腐蝕でなくなっていることがある。また、錆にはFe₂O₃とFeOの二種類がある。バラスト・タンクなどで全面に赤錆が生じており、ハンマーで叩くと瀬声物が瀬戸物が割れるように、バラバラ落ちるような性質の錆は、その錆の厚さの割りには、鋼板は腐蝕していないことが多い。俗に「錆千倍」と云われ、こんなに厚い錆が出ているので、鋼板はさぞ薄くなっているだろうと、テストホールをあけ板厚を調べると、板は案外厚く意外に感じるものである。しかし、この錆の下に硬質のFeO系の錆が付いていることがある。これはテスト・ハンマーの尖った方で腕がだるくなる程気長に叩き、やっと剥れる、いわゆる“硬錆”と呼ばれるものである。古い船の上甲板、二重底頂板にはこの種の錆が発生しており、時間をかけて鋼板の地肌を出すと甚しい点蝕や破口が隠されていることがある。



写真3 錆打ちによって発見された腐食破口
桁(左側)と縦骨(右側)の腐蝕破口

「検査は掃除である」と前に書いたが最も適格に表現すれば、「検査は錆打ちである」ということになる。老令船の異状発見方法の中で最も有効なものは錆打ちをおいて外にないといえよう。ただし、船を長く丈夫に使うには、機会あるごとに錆を除き、充分に塗装を施すに尽きる。





トップページへ このページの先頭へ 次のページへ