9.ドックの仕組み(2)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄

6.ドックはどの様な仕組みになっているか

6.3 浮ドック (Floating Dock)

浮ドックには次図のような種類があるが、一体型浮ドックが最も普通である。ドックを入渠させる船の喫水よりも深く沈めておき両側の壁の間に船を引き込み、ドック内のタンクの海水を排出することにより、船をドックごと持上げる設備である。乾ドックと違って水深が許す限り何処にでも移動出来る利点がある。ただし、発電機を内蔵していない場合はドック内のタンクの注排水をするためのポンプを駆動させる電源を陸上から供給せねばならない。 浮ドックヘの入渠の順序としては乾ドックと殆ど同じで,必要に応じて先ず,ドック内のタンクの水を排水してドックを浮かせ盤木を調整し,ドックを必要な喫水まで沈める。次に本船を所定の位置に引込む。この場合,乾ドックと異なり,船尾から引込み,最後迄,本船の錨鎖が使える様にする例が多い。位置が定まったら,ドック内のタンクの水を排水し,キール・タッチに続いて,本船は浮ドック内でドライ・アップの状態になる。 乾ドックと異なる点は,本船に多少のトリム,ヒールがあってもドックを傾斜させたりしてドックの方で調整ができる点である。



第1図 浮ドックの種類
L型ドックは珍しい。




写真1 木造浮ドック
木造船があるように木造の浮ドックもあり写真1はニューヨークのブルックリンの Todd造船所の木造浮ドックである。現在もあるかどうかは判らない。




写真2 三種類のドックがある造船所
カルメンやセビリヤの理髪師で有名な、スペインのセビリヤにあるAESA セビリヤ造船所は乾ドック、引き上げ船台、浮ドックを備えている。左端が乾ドック、その隣に小型船用の引き上げ船台があり、海中には浮きドックが見える。


6.4 シンクロリフト (Synclo lift)

これはドックと云えるかどうか判らないが,多数のウィンチを使用して船を海から陸に持上げる方式のドックである。この装置と,広い敷地があれば敷地の許す限り写真3のように多数の船を同時に修理できる特徴がある。シンクロリフトの概略は第2-a〜c図のとおりで、写真4は,この種のものとしては世界最大と云われるスペインのラスパルマス(Las Palmas)にあるASTICAN造船所のシンクロリフトである。プラットフォームの長さは、175m,幅30mで9000tの持上げ能力を有し、載貨重量3万トン程度の船の修理が可能である。



写真3 シンクロリフトの造船所
陸上に沢山の修繕船が並んでいる。




写真4 ASTICAN 造船所の全景
右手前がシンクロリフトで、8隻の船の修理が同時に出来る。




第2-a図 シンクロリフト(1)
掘割の両側に並んだ多数のウィンチによりプラット・フォームを捲上げる。プラット・フォームにはレールが敷いてあり,船体はレール上のトロリーの上に乗せられる。持上げが完了するとトロリー上の船は前に移動される。

   


第2-b図 シンクロリフト(2)
船体を引込みプラット・フォームの捲上げ開始。




第2-c図 シンクロリフト(3)
捲上げ完了。船体は地上のレベルに持上げられる。




第3図 ASTICAN 造船所の説明図
シンクロ・リフトで持上げられた船は、トラバーサーに移される。トラバーサーは船を横方向に移動させ、Bの位置で停止させれば、続いて∨瑤廊Δ猟螳銘屬飽込み、その場所で修理が行われることになる。この造船所では,クレーンはトラック・クレーンが使用されている。




写真5 プラットフォームの両側に並んだウインチ




写真6 シンクロウインチ
各ウインチはプラットフォームを水平な状態又は船のトリムに応じた状態を常時保つよう自動制御されている。




写真7 プラットフォーム
船の幅に応じてレールが何条か敷かれている。右の船は台車付きの盤木に乗せられ前に移動中。




写真8 トラバーサー
車両工場で車両の横移動に使用されているものと同じ様なものである。

 


写真9 トラバーサーの上に乗せられ横移動中の船




写真10 トラバーサーによる移動が終わり、前方のヤードに移動中の船


6.5 ドックに降りる時の注意事項

ドックに入るときには、完全に排水が完了したことを確認しておく必要がある。ドックに降りて船底を調べていたら突然水を゚甫・ゎケ・Δい靴刃辰靴鮴茲瑳茲蠑紊欧討澆襦」 夕食が終わった5時頃には,ドック内の排水が終わり,ドライになり,過去2年間見られなかった船底が見られるとの連絡で,長靴を履きドック・サイドに行って見る。排水作業が遅れたのか,ドツク内にはまだ2mぐらい水が残っていた。 暫く水の引く速さを見ているとあと1時間はかかりそうだ。数ヶ月前ミシシッピ河に入った時,軽いショックを船底に感じているが船底には何事もないとを念じていったん本船に戻り,新しく届いたビデオでも見ながら時問をつぶすことにした。既に陸電に切り換えられたため最後まで動いていた発電機も停り,船内はひっそりと静まりかえっていた。ボースン(Boat'swain)にも声を掛け,再びドツク・サイドに降りる、おもての方は既にドライになり,ともの方にまだ水が少し残っており,鯖や鰯が苦しそうに飛び跳ねているのがライトに光っている。この分だと明日は新鮮な魚が昼の食卓を賑すだろうと考えながら渠底への階段を下る。気の早い連申はもう飛び跳ねる魚が一杯になったバケツを下げ、まだ逃げる鰯.を追いかけていた。プロペラ,舵を眺める,異状なし,次いで盤木の間をおもてに向い,ライトで船底を調べに掛かった。突然,ザーツと云う音がして足もとに海水がおし寄せて来た。あわててサイドに飛び出し,ドック・ゲ一トを見ると滝の様に海水がドック内に落ち込んでおり,水かさはどんどん増えて行く。「危い! 皆ドックからあがれ!」と叫びバケツを放り出して皆が階段を馳け上るのを見とどけた頃には腰まで水につかっており皆の後を追ってドックから一目散に逃げ出した。恐らく,オリンピックなみの記録が出たことであろう。 後で聞くところによれば,排水口にビニールやこみが附着し,思うように排水が出来なくなったので,ゴミを除くために一時゚呆?したとのことであった。このように,完全に排水が終わり,ドックに入っても安全であることを確認せず,ドックに降りることは非常に危険である。船底に異状のないことを早く確認し,上陸して,久し振りに娑婆を楽しもうと焦ってはならない。入渠後,最初にドックに入る時は,排水が完全に終わったことを先ず確認せねばならない。  


6.6 ドック内での注意事項


6.6.1 まず足もとに注意ドック内で船底の調査を行っている間は,注意はもっぱら頭上の船底に注がれ,自分の足もとは留守になりがちである。普通,ドックの底には排水のための溝があり,都市の造船所のドックでは,ドック・ゲートから船と一緒に浸入した沈木,ごみがたまっている。また,前回入渠した船の外板工事でのスクラップが残っていたりして,これで膝を打ったりすることがあるから,先ず白分の足もとに充分注意する必要がある。特に,ドック内に水が溜っている場合は障害物が判らず,溝にはまって足をくじく例も珍しくない。 6.6.2 次は頭上に注意船体前後部および船側外板の凹損を調べるとき,本船のデッキあるいはドック・サイドから物が落下し思わぬ怪我をすることがある。ヘルメットは絶対に必要であり,船側を渠底から調べる時や,ドックの壁際を歩く際は上で何が行われているかにも気を配っておくべきである。危険が予知できるのは,次のような場合である。 (1)サイド・ショアーの落下最近,大型船ではサイド・ショアーを省略する例が多いが,痩せた船ではこの丸太(サイド・ショアー)が,船体中央部に何本も設けられる。稀に一本でも充分に効いていないものがあれば落下することがあるので,その下を通るときは一応注意が必要である。



第4図 危険な所(1)
船の側部は何時、何が落ちてくるか判らず危険である。水が完全に排水されていない時は、ドック・サイドに寄った時Gutterにはまることがある。




第5図 サイド・ショアー
痩せた荊腋入渠させる時は横劇防止のため、丸太をドックサイドと水船の間に船の大きさに応じ6〜10mの間隔で取付け楔を打って船側とドック・サイドを固定する。


6.6.3 錨鎖の配列作業中新造後,偶数年毎の検査では錨鎖を渠底に配列した上で検査が行われる。普通,入渠すると直ちに錨および錨鎖をドックの底へ陸揚げ配列する作業が始まる。錨鎖はドックの底に適宜卸してからドックのウインチで引張って配列されるが,この作業中はロープが切れたり,急に錨鎖が落下することがあるから,そばに近づくことは危険である。配列作業が終ってからでも,錨鎖の根付けを切らずに,端末がベルマウスから渠底に垂れ下がっている場合,何かの調子でストッパーが外れ錨鎖が落下することがある。宙吊りされた錨鎖の近くでは,いざというときすぐ逃げられるよう心掛けておく。



写真11 錨鎖の配列作業の一例
錨と一締に団子下ろされた錨鎖をブルドーザーで配列している。




写真12 危険な所(2)
吊れ下った錨鎖の附近は危険である。
錨、錨鎖を調べるときは御注意。


6.6.4 足場架設作業中入渠前に既に外板修理工事が決定している場合は,入渠後直ちに工事用足場が設けられる。しかし,外板工事が行われなくても,乾舷標や喫水標書換えのための足場,機関室部の外板開口部手入用足場,舵,プロペラ調査用の足場が設けられる。その架設作業中,附近の外板を調査せねばならないときは、足場板や丸太の落下に注意をする。



写真13 船尾部の足場
プロペラ及びシー・チェスト部の足場本船は
Twin Screw,Twin Rudder である。


6.6.5 外板清掃中永い間ドックをしなかった船では水線下の外板に牡蠣や“あおさ"が多く付着している。外板の塗装を行うためには,それらを完全に除去する必要がある。入渠後,ドックの水の排水中,伝馬船などをドック内に浮かべ,外板をスクレーブしたりするときは問題ないが,最近は高圧の水を噴射し,水圧で牡蠣や“あおさ"を除去する方法が多くなり,小人数で短時間に外板の清掃が出来るようになった。この噴射水はポンプで加圧してあり,その圧力は100kg/㎠ぐらいあり,まともに身体に当たると非常に危険である。自分の居る側から射水されている場合は大声で止めさせることができるが,反対側で射水が行われているときは,稀に盤木の間から直撃を受けることがあるので,ジェットで外板清掃中は注意が必要である。



写真14 外板の清掃
油による汚れを洗浄液を含んだ高圧の水で清掃している。


6.6.6 浮ドックでの注意事項以上の注意事項は乾ドックでも浮ドックでも共通した事項であるが,浮ドックの場合は次の点にも注意してほしい。 (1)前後部には手摺がない船首材(Stem)を前面から見る場合や,船尾,舵板の振れを調べる際,ドック前後部には手摺がないので,全体を離れて眺めようと後ずさりをして海に落ちることがある。




(2)ドックの底には継目がある大型の浮ドックでは部分的に底に孔のあいている.ものや,何個かのポンッーン(pontoon)から成り立っているものがある。これらの孔やポンッーンの継目には敷板が設けられているので,ここから海に落込むことはないが,海のうねりが大きいときは,孔や継目から海水が噴出することがある。



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