10.ドックの中の船の検査


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


7. ドック内の船の診断に当たって

7.1 ドック内の船をどう診断するか

 ドック内で船体を調査する場合,特に定められた方法はなく,船の大小,ドックの状態,調査人員,盤木の配置などにより種々の方法が考えられる。ここでは,一つの例を取り上げることとする。普通ドックに入るには,前部または後部の階段を降りることになるが,ドックの後端が海に面している関係上,船首部から調査を始めることが多い。
 まずドックの底に立ち真正面から船体を眺め船首材(Stem)の屈曲,凹入の有無を調査する。船首材に他物が正面衝突し局部的に凹入した場合は横から見ればすぐ判るが,横方向に屈曲している場合は,真正面から見ないと見落すことがある。また,この位置から両舷船首部外板の凹入の有無も確認できる。ついで,右舷または左舷に位置を変え,第2図に示す方向に歩いて調査を進め,船尾に至り,逆に反対舷の調査を行うことになる。


第1図 船首材の横方向の屈曲
この種の損傷は真正面から見ないと判らない



写真1 衝突による船首の損傷
この損傷は誰にでも判る


各位置で行う調査対象の概要は次のとおりである。○印内の数字は,第2図に対応する。


第2図 Dock内における船体外部調査法の一例
←―――――― 眼の方向   ←・・・・・・・歩く方向


真正面

(1) 船首材の屈曲および凹入
(2) 錨の収納状態,収錨状態で錨爪が外板に当たって生じるベルマウス(Bell mouth)付近の外板の凹入または破口、大型船では,この部分はかなり高い位置にあるのでじっくり眺めないと判らない。
(3) 前部船側外板の凹入(前から見透す)
(4) 前部喫水標が消えていないか?


斜め前部

(1) 前部外板の凹入および亀裂
(2) 錨鎖の擦れによる船側外板の塗装剥離と溶接ビード(bead)の腐蝕
(3) 船首部船底の持上り


船首部船底 (盤木の間も詳細に調査する)

(1) スラミングによる船底外板の凹入
(2) Keel, A-strake, B-srake など船底外板の接手の溶接ビードの腐蝕


写真2 Bilge keelの屈曲


ビルジキール端部 (前から見透す)

(1) ビルジキールの屈曲(写真2参照)
(2) ビルジキール端部の鋲弛緩および外板の腐触,亀裂
(3) 船側外板の凹損,この部分から船側は平行部に入り,船側外板は平になる。接岸の際,岸壁接触により凹損を蒙る頻度も高いので,い琉銘屬ら外板を見上げて凹入の有無を確認する。


船体中央部

(1) 中央部外板の異状
(2) ビルジ外板の立上り部の腐蝕
(3) 中央部に機関室のある船では,船外弁開口部,シーチェスト(sea chest)
(4) 喫水標が消えていないか?古い船では溶接で取付けてある喫水を示す数字の板が外れていることがある。
(5) 船側に開口のある船では開口部の四隅に亀裂が生じていないか?


写真3 船側の開口 (Side port)
四隅に亀裂がないか


ビルジキール端部(前記い汎韻)


斜め後方

(1) 後部船側外仮の異状
(2) 船尾に機関室のある船では,船外弁開口部, sea chest また,tankerではpump room部のsea chest
(3) 船尾部船底の持上り


船尾材 (stern frame)

(1) 船尾材と外板の取合部
(2) プロペラとガードリング(Guard ring) の異常
(3) 船尾管よりの漏水,漏油
(4) 舵の異常
(5) 船尾材,舵に取付けられた保護亜鉛が効いているか
(6) 喫水標が落ちていないか


真後ろ

(1) 船尾 Fashion plate(俗に褌板と呼ばれる)の凹損
(2) プロペラ
(3) 舵の振れ


写真4 Fashion plate の凹入


 上記各位置に移動する過程で前記,7回目 “損傷の発見法”で述べた方法で船底の異状,船側外板の状態を調査する。外仮の異状は亀裂、凹入,亀裂,腐触及び塗装の剥離である。一般に外板の現場継手 (Block butt) 溶接は他の地上継手よりも溶接が困難で亀裂や,異常腐食が生じ易いので現場継手の溶接線は注意して見る。以上の例は一人で調査する場合を示したものである。小型船では一人でも充分に調査ができるが、大型船では欠陥を見落とすことのないよう,できるだけ多人数で行い,場合によっては,右舷左舷を分担するなどして能率よく,短時間で行うことが望ましい。


写真5 同時入渠


 船底検査に要する時間は,船底の面積と船令に比例する。一人で調査する場合,載貨重量10万トン級の船で少なくとも1.5〜2時間、40万トン級のULCCでは3〜4時間というのが目安である。10万トン以上の大型ドックでは、時折,数隻の小型船を同時に入渠させることがある。

入渠前のサーベヤーと船長のエピソード

「船長さん,ドックは明後日,3番ドックと決まりましたよ。そのうち造船所から正式に連絡がある筈ですが,本船のドックへの移動開始がxx時,それまでに,あそこだと船首の喫水○○メートル,船尾は△△メートル,トリムは◎◎メートルになるよう準備しなくちゃならんでしょう。それから余計なことですが,シフトが始まって入渠する迄は陸電が止るから,その日の昼食は朝のうち握り飯でも用意しておいたらいいでしょう。」

「そうですか,やっとドックが決まりましたか!随分.待たされて本当にいらいらしましたよ。3番ドックは100万トン.ドックでしたね,本船のような1万トンちょっとの船が入ったら,太平洋に牛蒡ですな・・・」

「いや,ドックするのは本船だけじゃなくて隣の船と沖でアンカーしている2隻、全部で4隻が呉越同児らしいですよ」

「それは賑かですね。」

「ところで,この前にも聞きましたが,本船は底触による船底の損傷の疑いはないですね?」

「前の船長から引継ぎはないし,私が乗ってからは浅い所は通ってないし,勿論ショックも感じてないから,船底は大丈夫ですよ。」

「それならいいですが,今度は他の3隻も同時入渠だから,この中の1隻に大きな船底の損傷が見つかったら,その船の修理のため時間がかかり,本船だけ先に予定どおり出渠はできなくなることもあるんです。」

「それは困る。この上,よその船の付合いで、出帆が遅れたらえらいことですわ。」

 ということで,同時入渠の場合は,他の船の船底も簡単に眺めておき,別の船の水線下に大損傷があり,おつき合いで出渠が遅れる可能性があるかどうか知っておけば,その後の造船所や、本社との折衝にも先手が取れる。このエピソードの後日談になるが、入渠後船底検査をしたところ,本船の船底に燃料タンクにもかかる6枚もの外板にピョ部及ぶ大損傷が発見された。他の3隻には異状はなく,逆に他船に迷惑をかけるという皮肉なことになってしまった。出来れば,同時入渠は避けてもらった方が良い。
 なお,水線下に損傷がない場合,最初の船底検査の後で,以後ドックに入るのは次の場合でこれらの幾つかは同時に行われることもある。この時も,折角ドックに降りるのであるから,念のため,再度船底を調査し,見落しのないよう心掛けねばならない

錨,錨鎖の検査 (渠底配列後)
舵の検査 (足場架設後,ピントルなど軸受部,カップリング・ボルトの状態などを調べる)
シーチェストの検査 (足場架設,グレーティング撒去,清掃後)
プロペラの検査および,船尾軸受の間隙計測 (足場架設後)
プロペラシャフト抜きのある場合,シャフト復旧後のプロペラ押込みの時
出渠前,塗装の仕上りと船底プラグの確認


写真6 プロペラ翼の曲り



写真7 ガードリングの落失
左側がボス右側ガプロペラでプロペラ軸を保護するリングが
無くなり光っているシャフトが露出している


7.2 外板の名称

 外板に異状が発見され,切替えまたは斬替えによる修理が必要な場合,ペンキで切り取る板の周囲をマークし,φや ⓧ の記号を記入することになる。そうして,その板の記録も取っておかなければならない。従って,船底の検査をするときに5回目で取り上げた外板展開図(She1l expansion plan,俗にシェルパンと呼ばれる)を持って行くことを勧める。ここでは参考までに,外板展開図における外板の名称のつけかたを説明することとする。簡単に云えば新聞に掲載されている将棋の欄に出てくる,「2三銀」の表し方と同じで九の行、囲碁では十九の行がkeelに相当し、9が船尾、1が船首と考えれば良い。外板展開図ではkee1はKの記号で表わされ,舷寄りに順次A,B,Cと記号がつけられる。それからビルジを経て垂直部分を上にあがり,上甲板と取合う最上部の船側外板(舷側厚板)はSheer strake の頭文字を取りS板と呼ばれる。なおA板(A-strake)から数えて9番目はI板(I is the ninth.)ということになるが,数字の 1 と誤るので I は用いられず、Kもkeelと混同されるため省かれる。従って,順序はK,A,B,C・・・G,H,J,L,M……Sとなる。これは,船体を輪切りにしたときの名称で,長さ方向は,船尾より船首にかけて,順次,数をつける。すなわら,A-8といえば,これは船尾から8番目にあるkee1の隣の板ということになる。ただ、船は船首尾が細くなっているので中央部より前後部では板幅が狭くなり、消されることになるので,船首尾部では,例えばE板の隣がFにならず,G板またはH板になったりするのが厄介である。また、船は左右対称なので、図面には片舷しか記載されてない。
 なお、ここで注意すべきことは、外板展開図は普通一般の図面と異なり横軸(長さ方向)と縦軸(幅方向)の縮尺が違うことである。例えば、長さ方向が1/100で幅方向が1/50 といった縮尺になっている。従って物差しで図面上の板の大きさを知ろうと思ったときには注意が必要である
最近,どういう理由か板番のない外板展開図を作る造船所がある。この場合はタンクの位置を基準にして,縦横の板数を数えるしかない。新造のときは良いかも知れないが後で外板展開に使う身になれば不親切な外板展開図といえよう。


7.3 ここは何番タンクだろうか?

 あるタンクの部分で,外板に異状があった場合,そこが何番タンクになっているのか、何番貨物艙なのかを知るには,両舷に分かれた二重底タンクでは,keelとA板の接手附近を前後に歩いて調べれば,必ず船底栓(Bottom plug)が見っかる。通常,この船底栓はタンクの後端にあるので,例えばその船底栓がNo.2バラスト・タンクだとすれば、No.2 バラストタンクの後方2mのC板に凹損ありということが判る。最近の大型船では,タンクの境界に当たる位置の外板にマークが記入され,船によっては肋骨番号も記入されているので一見してタンク名称が判るようになっている。


第3図 外板の名称



第4図 船底栓



第5図 船底栓配置例



写真8 船底栓
キール盤木の横のお椀型のもの 2個所



写真9 船底栓
右上油で汚れた円い部分が船底栓
お椀状のセメントは外れている



写真10 タンクの境界マーク


7.4 ここは何番艙だろうか?

 ドックの中から見て,外板に凹入が発見された場合,そこが何処であるかを知る必要がでる。この時は,船底にもぐって二重底タンクの位置から類推することができるが,また,ドックの壁端に寄って本船の上甲板の方を見上げると,マストの先端が見える。通常,マストやデリックポストは貨物艙の境界となる隔壁の上に配置されているので,凹入のある外板は,たとえば2番艙の前から6m附近のSheer strake (S板)の下の3枚目の板ということが判る。しかしドックの幅に比べ,船の幅が広い場合や,デリックポストのない船の場合は,この方法は役に立たない。この場合,若し外板に排水孔などが見つかれば,これから貨物艙の位置を推定することができる。一般に,貨物艙の境界になっている隔壁の個所は,隔壁と外板の溶接量が,普通の肋骨の部分より多いため外板に歪が出易く,じっくり眺めていれば,上下方向に僅に突出した感じの線が見つかり,これが隔壁の位置ということになる。なお,外板の損傷個所のスケッチを作った場合,後で見て右舷か左舷か,またどちらの方向が前なのか判らなくなることがあるので,スケッチを作ったら,その場で右舷,左舷の別と前後方向を矢印で記入しておくとよい。勿論、船名、日付けも忘れてはいけない。


第6図 不完全な損傷スケッチ
どの船の,どこの損傷か、後で外板展開図と比較することもできない。



第7図 誰が何時見ても判る損傷スケッチ
船名,日時,右舷か,左舷か,板の接手記号,
貨物艙又はタンクの位置が記入されている。




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