11.船底の損傷(1)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


8. 何処が壊れ易いか(1)

8.1 船底検査の時期

 前置きが長くなったが,船底の損傷を発見するために先ず必要なことは,船底の清掃である。船底に“あおさ"や牡蛎が多量に附着していれば,凹入や亀裂を発見することは困難で,入渠直後,船体の清掃が終らないうちに船底を調べても無意味なことがある。また,時間も明るい昼間の方が良いことは当然である。しかしドックがドライになるのは往々にして夕刻になることが多い。暗くなっても,また清掃前でも,大きな損傷ならば発見は可能なので,底触などの報告を受けているときは,夜遅くなっても一応調査しておく心掛けが必要である。船がドックする場合は時問との闘いでもあるので,すぐ修理の手が打てるよう寸刻も惜しんではならない。深夜排水が終り,その時点で船底の大損傷が発見された場合,タンク内の水や油の対策はすぐに立てられ翌朝一番で材料や工員の手配,外板の型取りが出来るが,調査を翌朝に延ばすと、修理の手配が動きだすのは午後からということになり,半日は損をすることになる。ただし,夜半に清掃の終っていない状態で船底を調査し異状がなかった場合でも,船底が汚損していれば翌日清掃が終った状態で、塗装の状態も含めて再調査をしておく必要がある。


8.2 ドック内で発見される一般的な損傷

 どの船にも多かれ少なかれ生じている可能性がある損傷,異状には,次のようなものがあり,予め調査する部分が限定される。


8.2.1 なかなかお化粧をしてもらえない所
 船が入渠する際は,盤木の上に置かれることになる。従って,盤木の上にきた部分のkee1は盤木を移動させない限り塗装が不可能で未塗装のまま出渠し,次回の入渠までもちこされる。


写真1 盤木の上は塗装が出来ない


 そうして,次回入渠の際,また同じ部分が盤木の上に乗れば,また塗装ができなくなる。しかし,毎回ピタリと同じ部分が盤木の上に乗ることは稀で,幾分ずれることになる。面倒がらずに前後の盤木の間に入り,以前に入渠した際盤木の上になった未塗装の部分を調査すると,案外ひどい腐蝕を生じていることがあり、これは船首部において著しい。特にkee1相互の溶接ビードが深く溝状に腐蝕している例が珍しくない。この場合は,ショット・ブラストなどで塗装を剥し、直ちに溶接肉盛りを行い,特に念入りの塗装を施しておくのが良い。


8.2.2 凹み易いところ

 機関室や貨物を積んだ貨物艙の下部は,局部的に大きな重量がかかっているため盤木の配置が粗いと船体重量を支えきれず盤木が船底を突き上げるような状態で船底を凹損させることがある。渠中でdeep tankに水を゚補?,その部分の船底の支持が不完全であったため,無傷の船底をへこませてしまった例も往々にして起きる。止を得ず,貨物を積んだまま入渠する時は,事前に本船の重量配分を造船所に伝え,充分に盤木を配置してもらう必要がある。
 何れにせよ,機関室の下部など,重量がかかっている個所の船底は,局部的な凹入が生じる可能性があるので注意する。


第1図 盤木の上の船体



8.2.3 波に叩かれるところ

 船尾にかなりトリムした状態(船尾の喫水が船首の喫水より深い状態)で荒海を全速で航行すると,波により船首船底部が叩かれ,船首艚(Fore Peak Tank)からNo.1〜2 TankにかけてのKeelおよび偏平部の船底外板に凹損を生じることが多い。これは,スラミング(slamming),またはパンチング(panting)による凹損として知られている。自由に船首吃水の調整ができない一般貨物船では,船底の損傷で最も発生率が高いものが,このスラミングによる船首船底部の凹入で,船底損傷件数の過半数を占めている。この対策は既に30年以上前に大幅な構造規則の検討が行われており,船の長さと速力により,凹入し易い個所を想定し,速力と船底の形状により損傷が発生しないように,二重底の構造とその部分の外板の板厚,あるいは荒天時の最小吃水を定めている。この規則が出来て以来,スラミングによる損傷件数は減り,凹損の程度も改善されて来ていることは事実である。しかし,予想以上の波の力により,あるいは,吃水の調整も間に合わない突発的な波により,この種の損傷は未だに終りを告げておらず、最近は高速冷蔵運搬船で船首部船底の凹損が発生している。したがって,貨物船の場合,入渠したらまず船首船底部の状態を調査する必要がある。スラミングによる凹損は普通両舷対称の位置に生じており,塗装の剥離はあまりない。A板のように平らな板の凹入は発見し易いが,kee1の次の次に当る曲り外板であるB板,その隣のC板では往々にして見落すことがある。もっとも見落す程度の凹損はそれほど心配ではない。凹損が発見された際の修理方法としては,凹入量がその部分の板厚未満で,板相互の取合が,鋲でなければ放置しても危険はないが,次回入渠までには凹入がさらに進行することは覚悟しておかなければならない。凹入の範囲により一概には言えないが,板厚の1.5倍程度の凹入であれば現場曲り直しが可能で,3倍以上の凹入であればタンク内の肋板(Floor)あるいは桁(Girder)も屈曲している可能性があり,外板の切替または新替,ならびに二重底内部々材の修理が必要になる。外から見て,凹入は外板のみで,内部の骨はくっきりと凹んだ板から突入しており,内部はいかにも異状ないように見えていても,タンクに入って見ると肋板,桁が屈曲している例があり油断はできない。現場曲り直しにしても,外板の新替を行うにしても,現状復帰の修理では,今後,同様な損傷が生じる可能性が大きいので,内部に補強の骨すなわち,外板防撓材(shel1 stiffener)の増設補強を施しておくのが常識である。なお,船底外板を切替えまたは新替する場合,往々にして工事中,肋板に溶接による歪がひき起こされる。外板の凹入は直ったが,今度は肋板に歪が生じる結果になることが多いので,凹入した外板を撤去したら,直ちに肋板に歪防止用の防撓材 (Stiffener)を,第2図中,一点鎖線で示したように水平方面に取付けておくと良い。このstiffenerは修理工事完了後取り外しても良いし,そのままにしておいても良い。スラミングによる凹損対策としては外板の板厚を増すよりも,she11 stiffenerを設けて,板のパネルを小さくする方がずっと有効である。つまり障子の桟を多くして枡目を小さくした方が,桟を少なくして枡目を大きくし,厚い障子紙を貼るより丈夫であるのと同じである。姑息な方法ではあるが,凹入はそのままにして凹入に合わせて内部にshell stiffenerを設けて補強し,凹んだ状態でその部分を固めてしまう修理方法も行われているが,外見は凹入したままになっているので格好が悪く,この間の経緯を記録に残しておかないと,後日、その船の売買の際に、事情を知らない売主と買主との間で,トラブルの原因になることがある。スラミングに限らず,船底に凹損が発見され,修理を行うことが決定した場含,その部分が水タンクのときは直ちに水を落し,油タンクのときは,油を他のタンクに移す段取りを講じる必要がある。一番厄介なのは,油が低温で固まりシフトが困難な,冬期の油タンク部の損傷である


第2図 肋板の歪防止



8.2.4 皺が出ているところ

 船も年をとると船底に雛が生じることがあるがこれは,ホギングの頃向の多い,横肋骨式構造の船の中央部船底外板に発生する。皺は肋板間に横方向に生じ両舷とも,ほぼ対称の位置に認められる。原因は船底の座屈強度不足によるものと考えられ,これら皺状の凹入は航海中,ホグ,サグにより,船底が特定の部分でペコペコするために生じるもので,凹入の位置も入渠毎に変化する例もある。この種の凹入部は,塗装を完全に落し,鋼板の肌を見ると,横方向にスダレ状の腐蝕が現れているのに気がつく。これは,ホグ、サグの繰返しにより塗装に横方向の細い割れが多数生じ,ここからの海水により鋼板がスダレ状に腐蝕するものである。 最近の船は船尾機関のものが多く,船底の構造も縦肋骨構造になっているので,この種の損傷はあまり見られなくなった。横肋骨構造の古い船では,このスダレ状の腐蝕が亀裂に発展することもあるので,初期の段階で,she11 stiffenerなどをタンク内に設け補強しておくと良い。


写真2 船底の皺状腐食



8.2.5 内側から叩かれてばかりいるところ

 船底に孔があき,燃料タンク内に海水が混入するとのことで,急拠ドックに入れて調べてみると,丁度,測深管(Sounding Pipe)の下の位置に親指の頭ほどの孔があいているのが発見された。測深管の下は,常時sounding rodの先にぶら下った円錐状のおもりで叩かれるので,年の経過とともに鋼板がえぐられて行き,遂には外面にまで達し孔があく。“点滴岩をも穿つ”の諺通りである。これを防ぐため測深後の錘りが当る所の船底板には,当て板が施してあるか,管の下を塞ぎ,直接おもりの先端が外板に当らないように工夫されている。何らかの原因で当て板や塞ぎ板が外れたりすれば意外に早く船底に小さな孔があくものである。この部分はドックで外側から調べるよりも,タンクに入って直接, 測深管の下部の当て板を調べる方がてっとり早い。普通,測深管はタンクの後部にあるので,老令船では船底栓のあるタンク後部の外板に気を配っておくとよい。穴が開いている場合がある。また,この部分は,タンクの吸引のためのベルマウス,ローズボックスもあり,ベルマウスの下の船底外板も内部からの腐食が早いので,同じく老令船では一応の注意が必要である。若し測深管の下部で外板に孔があいていることが判ったら、ダイバーにより,外側から木栓を打込んでもらえばよい。木栓は底触でもしない限り,一年ぐらいは充分に有効である。


写真3 測深管 (Sounding pipe)



写真4 ベルマウス(Bell mouth)



写真5 測深管直下で穴のあいた外板
穴のあいた個所を切り取ったもので丸い穴があいている



8.2.6 外板開口部

海水吸入口(Sea chest)など外板開口部は,外板に孔があいているため開口部の周囲は二重張りで補強が施されている。しかし構造が不連続になっており,また,吸排水管に連なっているポンプの振動などにより,開口部の奥の部分や,開口部の隅に亀裂が生じていることがある。これはsea chestを完全に掃除しないと発見できないが,修理法としては亀裂部を溶接補修後,図の点線のようにsea chestの壁に防撓材を取付けることにより,以後の再発は防止できる。またボイラの蒸気噴出口(Blow pipe)などのように,外板に突出部のある個所では,航海中,その部分で水の流れが乱され,気泡発生などによる腐触(erosion)が生じ,開口附近の外板が局部的に腐食することがある。同様にsea chestに取付けられている格子(Grating)のヒンジ,ボルトが腐触していたり,ナットや自体が脱落していることもあり当然修理が必要になる。この場合、一応機関室に入りそのパイプの外板への取り付け状態を調べパイプが外板に直接取付けられているようであれば、補強のブラケットを取付けておくと良い。


写真6 Sea chest



8.2.7 石炭庫(Coal bunker)

 石炭庫などと書くと時代錯誤といわれるかも知れないが,オイルショックの時代には石炭を燃料とした船も現れ、最近の省エネブームや油による海洋汚染問題で,石炭焚きの船も再再登場する可能性もある。1,500総トンの戦時標準型貨物船が入渠し,船底検査中,何げなくと言うか、長年の感によると言うかテストハンマーで機関室部の船底を叩いていたら突然孔が開き,その附近を叩くと,また孔が開き、驚いたことがあった。この船の機関室は単底構造であったため穴から機関室内部が見えた。10ミリ程度の厚さの船底外板が消滅し錆とペイントだけでもっていたことになる。知らずに放置しておけば,遅かれ早かれ機関室に浸水,沈没は確実と考えられる。調べてみると第5図のように孔のあいた所は石炭庫の下部で,内部からの腐触が原因であることが判った。当然その付近の薄くなっていた外板は新換えしてもらった。これからまた石炭船が現れた場合,大昔のように石炭庫の部分には注意が必要である。
 ついでながら、船が非常に危険な状態であったのを救ったことになり船主は喜んで感謝すると思っていたら、船底外板の工事のために工期が長くなり、次航の貨物が取り消しになったと、不満を言われた。


第5図 石炭庫底部の外板の腐食
石炭の種類にもよるが,一般に石炭庫下部の腐食がひどい。
石炭庫の隔壁の防撓材は石炭庫の外側に付けた方が良い。



8.2.8 船底構造について

 なお、貨物船の船底構造には、板を横方向の骨で支える横肋骨構造(Transverse system)の船と、板を長さ方向の骨で支えた縦肋骨構造(Longitudinal system)の二種類があるのでその相違を追加しておく。以前は長さが100メートル程度までの船は前者が採用されていたが、最近では、ほぼ50メートル以下の船にしか後者は採用されていない。


第6図 横肋骨構造(Transverse system)の二重底
この図は肋骨心距(Frame Space)毎に実体肋板(So1id Floor)があり,その間は組立肋板(Open F1oor)が設けられた構造の一例で,Open Floorがなく,総てSolid floorのものもある。長さ方向の部材中心線桁板(Center girder)と側桁板(Side girder)のみで,船体の長さ方向の力には弱くF1oor間に船底の凹入,雛が時々発生する。現在は Girder 間の船底に縦通材が要求されるようになっている。



第7図 縦肋骨構造 (Longitudinal System)の二重底
船底外板と二重底内底板には,この図では長さ方向に3条ずっの縦肋骨が通っており長さ方向の強度は横肋骨構造と比べ,かなり強い。最近の船は50m以下の小型船を除いて殆どが縦肋骨構造である。




トップページへ このページの先頭へ 次のページへ