12.船底の損傷(2)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


何処が壊れ易いか(2)

8.3 船底

8.3.1 船底の損傷にはどんなものがあるか

 前回で述べた損傷は大体の位置が予想できるので,その部分を重点的に調べればよいが,一般的な傾向のない損傷を発見するのは経験と勘しかなく,詳細に目で調べるより手がない。船底の損傷として考えられるものは,次のとおりである。


1) 摺過傷(Bottom scratch)

 止を得ず浅瀬を航行して船底が海底と摺れた時や,水中の浮遊物に船底が触れた場合に船底の塗料が剥れた状態を摺過傷と呼んでいる。お化粧が一部落ちた状態を損傷といえないかもしれないが,あったものが海難によって失われた意味で,海難損傷ということになる。広い意味での船底の損傷で一番多いのが,この摺過傷である。普通、船首部から後方に生じており,途中で消えている場合が多いが,船尾まで続いている例や,途中で摺過傷が凹入に変わり,さらに複雑な亀裂につながる不幸な例もある。凹入や亀裂を伴わない単なる摺過傷であれば,修理としては再塗装をすれば充分である。ただし,残存している傷んだ古い塗料は完全に除去し完全な下地処理をしてから再塗装しないと折角塗った塗料も効果がない。このために摺過傷の状況によりその部分のスクレープ(Scrape)またはショット・ブラスト(shot b1ast),グリット・ブラスト(grit b1ast),サンド・ブラスト(sand blast)などにより完全に塗装を剥がすことが必要になり,摺過部の面積が広ければ,再塗装の下地処理にかなり日数がかかり,ドック期間も長くなる。古い摺過傷の場合,塗料の剥がれた部分の外板は錆が生じ腐触しているはずである。特に溶接線の腐触は他より甚だしいので,注意してビードを調べ,腐触が著しい場合は再塗装前に溶接肉盛りをする必要がある。ただし,溶接補修をする際は,その個所が燃料タンクであるかどうかを確かめ油タンクであれば,油を他のタンクに移し,ガス・フリー(タンク内の爆発性ガスの排出)をしてから溶接肉盛りをしないと,タンクを爆発させる危険がある


写真1 船底摺過傷



写真2 摺過により傷んだ塗料



写真3 船首部の凹損



写真4 じわっとした船底の凹入



写真5 凹損部の燃料タンク内部の損傷



第1図 二重底の損傷
船底外板のA-strake が45ミリ持上がり、
内底板も20ミリ突き上げられている。


2) 凹損(Indent)

 前回 8.2で述べた以外の凹損は,座礁,底触、水中浮遊物の接触によるものが殆どで何処に生じるか見当がつかない。ただ筆者の経験では船体中央部(Midship)より前部に凹損が生じている例が圧倒的に多く,多かれ少なかれ,船底摺過傷を伴っている。船尾部船底の損傷は稀で.ある。シャープな凹入は容易に発見出来るが,広範囲にじわっとした凹損は見落し易い。前に見落す程度の凹損はそれ程心配することはないと書いた。しかし、写真4に示すように,外から見ると殆ど判らない様な広範囲のなだらかな凹損部の二重底燃料タンクに対し,念のため残油を他のタンクに移して内部検査を行った結果、写真5のように船底縦肋と内底板縦肋骨を継いでいる支柱(Strut)が屈曲し、船底縦肋骨もじわっと大曲りし、さらに内底板も持ち上っているのが判った。摺過傷のあるなしにかかわらず、広範囲なじわっとした凹入が認められたときも,できる限りその部分のタンク内部も調査しておくことが望ましい。


3) 船底全体にわたる歪

 船底が,例えばホギングの状態に歪んでいる場合、入渠したときの様子を強調して表わせば,第2図のようになっており,船底の持ち上った部分のkeelと盤木との間には間隙が生じる。


第2図 船底の広範囲にわたる歪み
keel と盤木の間が空いている。このような時は
喫を隙間に打ら込んで船体を支える。


 したがってkee1が全長を通じて一様に盤木に乗っているかを調査し,もし,ある範囲で隙間があれば,船底が歪んでいる疑いがある。これを修理することは不可能であるが,一応歪の量の記録を取っておき(この際,計測時の各タンク内の水または油の量も記録しておく必要がある),以後の入渠時の歪みの参考資料としておくことが好ましい。このような歪は,新造時の工作精度の不良や座礁などで船底の大修理が行われた後に生じる。もっとも,最近の大型船では新造の時点で計画的にホギングの状態で建造される船もある。一方では,ドックの盤木の高さも,定期的に調整されているが,材木の強弱もあり,常時平坦ではないので,盤木の不揃いを船底の歪と見誤ることがあり,また,浮ドックでは船体の歪に合わせてドック自体も撓むことがあるので,実際に船底が歪んでいても判らないこともある。船底の歪は計測した日時において,計測時のタンクの状態で,何ミリ撓んでいるということである。したがって、タンクの状態が変われば,この量も変化し,一方、出渠して浮いた状態では船底はどう撓んでいるのか,ダイバーを入れて精密な調査をしなければ判らない。座礁,底触による船底の歪は、摺過傷により塗料の剥離を伴う場合は別として,塗装の状態は正常で,船底が長い範囲で歪んでいる場合,その量がベラボウに大きくない限り,それ程心配はない。
 Y丸は1959年9月完成した長さ105m, 4,226総トンの貨物船である。処女航海に出帆後問もなく台風15号(伊勢湾台風)に遭遇,9月26日伊勢湾に座礁してしまった。年が明けてやっと離礁に成功し,翌1960年2月はじめ修理のため大阪の造船所に入渠した。船底は全長にわたってめちゃめちゃに破損しており最大1.5mも持上がる大損傷を受けており,船底外板だけでも100枚以上,内底板も含めた大修理が行われた。約3ケ月も掛かって4月30日完工,処女航海のやり直しに木津川を出ていった。


第3図 Y丸
105.00 x 15.40 x 8.30 x 6.85
4,226.56 GT , 6,254.1DW, Cb=0.748、
主機 : KAWASAKI MAN G6Z 50/90 2,700HP x180r/m


 同年秋,再び入渠したときの記録によると,船底大修理による歪発生の兆候が現われはじめ,僅かであるが,中央部の船底が10弌〇上っているのが発見された。そうして修理後約1年半たった1961年秋の入渠においては,船底の持上りは40个冒加している。この歪は年々増えるかに見えたが,1962年,1963年の入渠記録には歪のことは何も報告されておらず1964年の報告では,歪は殆ど消滅し,船首から船尾にかけて,kee1は,まともに盤木の上に乗っていたとされている。ところが,1966年秋,修理後6年半目に入渠したときには,再び船底の歪が認められ,第4図のように船体中央部は64仍上っているのが発見された。不思議なことは,この歪は1968年秋には48个妨困,1970年7月,売船のために入渠したときには,船底の歪については一言も触れられていない。すなわち歪は再度消滅したものと考えられる。売船後の記録はない。入渠時、二重底タンクの状態の記録はないが、1963年と1967年度の入渠は本船の定期検査の時期に当っているので,バラストタンクは勿論,燃料タンクも空であった筈だが,これらの年は船底の歪は報告されていない。不可思議としか云いようはないが,この船の場合,船底の歪は現われてみたり,消滅してみたりで,売船になるまで11年間これによる事故は起きていない。Z丸も同様,座礁による船底の大修理が行われ,Y丸と同様,船底に溶接による歪が発生,最大60mm,船休中央部の船底が持上ったが,この歪は増えも減りもせず,持上ったままの状態で無事に船令を全うした。このように,船底の全長にわたるような持上りは、後々それが原因で大事故に繋がる恐れはないようである。


第4図 Y丸の船底の特上り(単位)
11966年9月の計測記録


4) 歪の計測

 船底に限らず,船側外板,甲板,隔壁などの歪を計測し記録する場合は,タンクの状態をも含めて,同じ条件で同じ位置を測らないと意味がない。第7図で判るように基準点が変われば計測値も大きく変わるので,船の状態と基準点および計測位置(例えば,A-strakeとB-strakeの継ぎ目から左舷に500亟鵑辰唇銘)をも記録しておかなければならない。


第5図 船底歪の計測(1)
1張糸による方法



第6図 船底歪の計測(2)
トランシットによる方法



第7図 歪の計測方法
P点の凹入量を測る場合,A,Bを基準にとれば凹入量はPQである。翌年入渠の際,誤ってA,Cを基準にとり同じくP点の凹入量を測ると PRになり年間に凹入量はQRだけ避行したような誤りをおかす。外板の場合,基準点A,Bは船底外板ではタンクの仕切りの位置, すなわち水密肋板の所,船側外板では隔壁の位置にとるのが好しい。


5) 亀裂

 底触や座礁の場合を除き,船底に亀裂が生じる例は極めて稀である。新造時,船底ブロックの現場溶接が不良であったため,溶接線に添って船底に亀裂が生じた例,二重底内部の部材の溶接が悪く,内部の骨の亀裂が外板に及んだ例があったが珍しい事故である。何れにせよ,船底に亀裂が生じていれば,内部に浸水するので、定期的なsoundingで発見できるし,ドックに入れば,亀裂部より,中に入った海水が逆に流れ落ちるので容易に発見できる。


写真6 浸水したタンクから流れ落ちる海水


6) 漏洩

 タンクの漏れは,タンクに水を゚補?(空気管の頂部まで)水圧試験を行うか,空気管や測深管などタンクの開口部を全部塞ぎ,圧縮空気をタンク内に送り,タンクを加圧(0.1〜0.24/㎠)し,板の接手など漏りそうな個所に石鹸水を塗り,泡が発生するかどうかを見る気密試験を行うことにより発見するのが一般である。しかし,水または油が積んであるタンクでは,入渠した際,船底を調査しただけで漏れが判ることがある。勿論,破口が大きく,水や油が流れ落ちている場合は誰にでも漏洩が判るが,小さな亀裂や,鋲構造の船底で,鋲接手または鋲頭からの僅かな漏れの場合,入渠して船底を調べている時,船底が乾いているのに一部が湿っているのが見つかったら,漏洩の疑いがある。ただし,梅雨の時期などで湿度が高いときは,外板一面に露が付き,これと漏水とを区別するのは,なかなか困雛である。疑わしい所があったら,そこをしばらく睨み,一カ所だけ水滴の生長が早いところがあれば漏洩の疑いがある。この際,ウエスなどで露を拭うと,全体がビショビショになってしまい,却って漏れは判らなくなる場合がある。油タンクの場合は,外仮の一部に油による汚れが認められたならば,漏れの疑いがある。しかし,ドック内に浮いていた油が,ドックの排水の際,船底に附着し漏油と誤ることがある。このときは,テストハンマーの先で,汚れた部分のペイントを剥がし,それでも依然として油が認められれば,タンクよりの漏油はほぼ間違ない。


7) 腐蝕

 昔は毎年入渠して,船底の塗装を行わないと,ペイントが持たなかったが,最近では塗料が格段に良くなってきているので,船底外板の腐食は非常に少なくなっている。船底の腐蝕については何回か取り上げたが腐食し易い所をまとめてみると次のような場所が考えられる。

(1) 船首船底
(2) 船首部のチェイン摺れの部分
(3) 前回入渠の際に盤木の上に乗り塗装が出来なかった部分
(4) 以前に新替を行った部分の溶接ビード
(5) 中央部のビルジ外板
上記(2)、(4)については,船側外板の項で取り上げることとする。これらの中で、(3)に補足する。

 滅多に無いことであるが、船底を調べていて、これはひどい亀裂だと吃驚することがある。写真7を見ると、知らない人は誰でも亀裂と思ってしまう。修理のために、当然、その部分をハツリ取ってみると、亀裂と思われた個所はすぐに消えてしまいほっとするもので、細い針金を亀裂と思われる部分に差し込んでみると深さは2~3mmしかない。
 実は、亀裂と間違えたのは溶接線の両側の所謂熱影響部(Heat affected zone, HAZと呼ばれる)の腐食なのである。その部分を切り出してマクロ写真を撮ったものが写真8である。


写真7 溶接線に添った外板の腐食



写真8 断面のマクロ写真と説明図



写真9 健全な溶接部のマクロ写真


 写真7を良く見ると、左側の板は表面の状態から新しい板であることがわかる、腐食の原因は板を新換えした時の溶接部の塗装が不十分であったために生じたものと考えられる。
 対策としては、腐食の深さが1〜2mm程度であれば腐食部をワイヤーブラッシで清掃して丁寧に塗装すればよい。それよりも深い時にはガウジングで掘って再溶接することになる。何れの場合もA/C塗料を3回塗りとすることが望ましい。


8.4 ビルジキール(Bilge keel)

 ビルジキールは船体の横揺れを少なくするため,船底の両側に取り付けられるもので規則上必ず付けなければならないものではなく,船によっては全然ビルジキールがないものもある。
 調べてみるとコロンブスの“Santa Maria"、1588年6月29日早朝スペインの無敵艦隊を破った英艦隊の旗艦“Revenge",有名な“Cutty Sark"など帆船にはビルジキールは無い。時代が新しくなり,1898年5月1日,米西戦争の際、マニラ湾でスペイン艦隊を破った米国アジァ艦隊の旗艦“O1ympia"にもビルジキールは付けられていない。新しいところでは、1957年建造された載貨重量21,430トン,長さ168m、Block Coefficient 0.77のタンカー F丸は,ビルジキールがないが、乗組員の話では,特に揺れがひどいと感じたことはないとのことであった。一方,長さ145m, Block coefficient 0.58の高速貨物船を通常の形状のビルジキールを取り付けたところ,横揺れが甚しく,幅を2倍以上にした軍艦型の大きなビルジキールに改造した例もある。ビルジキールの損傷には次のようなものがあり,次の4)以外は,そのために船の安全性が脅かされることは殆どない。


1) 離脱

 座礁,底触,水中浮遊物接触などにより,ビルジキールの一部または全部が離脱することがある。この場合は、ビルジキールが取り付けられているビルジ外板にも,それに付随した損傷が生じていることがあるので注意を要する。修理方法としては,切替えまたは新替えを行うことになる。


2) 屈曲

 上記損傷の軽微なもので,原因も座礁,底触などがあるが,木材運搬船によく見られるのは、水中の木材と接触したためと考えられる。
 ドック内でビルジキールの端部に立ち他端を見透せば屈曲は容易に発見できる。軽微な屈曲の場合は放置しておいても問題はない。甚い場合は現場曲り直し,または切替により簡単に修理ができる。


(1)鋲で固着したもの。ビルジキール自体は鋼板と半丸鋼を溶接したもの。


2)溶接構造のもの。ビルジキール自体は鋼板と平鋼を溶接したもので,バルブ・プレートを使ったものもある。また,ビルジキールは前端から後端まで連続せず途中で切れた断続型のものがある。

第8図 ジキールの例



第9図 軍艦型ビルジキール
内部は水密になっている、損傷を受けたときの修理が面倒である。



写真10 ビルジキールの屈曲





3) 鋲の弛緩

 ビルジキールに損傷が起きた場合,これを取り付けているビルジ外板に損傷が及ぶのを防ぐために,ビルジキールと外板との取合いは,直接溶接で取り付けることを避け,鋲で固着する方法が多く採られていた。この鋲はビルジキールの端部で,数を増し,丈夫な固着になっているが,鋲の弛み易いのはこの端部である。端部の鋲頭は一応念のため,テストハンマーで叩いて弛みの有無を調査しておくのが良い。最近の船体構造は100%溶接になってしまい.造船所には鋲打工が姿を消してしまっている。したがって,鋲の弛緩が発見された場合,その部分の鋲の打替えは不可能である。修理としては,この場合は鋲はおかまいなしに溶接で固着すれば良い。


4) 亀裂

 ビルジキールのみの亀裂では,船体の安全上問題にすることはないが,これが外板に波及すると危険である。これには次の二つの例がある。

(a)端部の亀裂
 最近の船のビルジキールの構造は第8図のようになっている。船体への取付けは,ビルジキールを直接ビルジ外仮に取り付けず,細長い平鋼を外板に取つけ,その上にビルジキールを固着し,端部は,必ず内部に骨のある所で止めるのが常識である。しかし,第10図のように稀にビルジキールを直接外板に取り付けた例を見掛ける。この場合,先端または後端でビルジ外板に亀裂が入り,船内に浸水する例が多かった。この事故に鑑み,現在の船は,平鋼を介してビルジキールが設けられているのでこの種の損傷は減ってきている。しかし,端部に二重張りが施してあっても二重張り端部の隅肉溶接部で外板に亀裂が生じることがある。ビルジキール端部に位置するタンクで測深(Sounding)のさい異常が感じられたら,ビルジキール端部の外板に亀裂の疑いがある。

(b)ビルジキールの接手の亀裂
 ビルジキールの接手は第12図のようになっており,この位置は普通ビルジ外板の継手の位置に近接している。この部分はビルジ外板の接手を溶接するため、ビルジキール取付け用の平鋼は省かれている。従って、ビルジキールの溶接接手に亀裂が発生してもその亀裂は外板の溶接継手には及ばないようにしてある。しかし,それでいても,ビルジキールの継手の亀裂が外板に及び,貨物艙内に浸水して沈没した例も報告されているので、ビルジキールの継手の部分は注意して亀裂の有無を調べる必要がある。


第10図 外板に直接取付られたビルジキール



第11図 ビルジキール端部の亀裂



第12図 ビルジキールの接手


5) ビルジキールを修理するときの注意

 ビルジキールに損傷が発見された場合,新替え,切替え,あるいは現場曲り直しにしても,独立した部材なので他の損傷と比べ,容易に修理ができることは事実であるが,注意すべき点は,修理個所が燃料タンクにかかっているかどうかを確めることである。燃料が入っているのを知らずにビルジキールの修理のために火をかけると,タンク爆発という大惨事を起こすことがある。船底外板の腐蝕を溶接肉盛りで修理する場合にも述べたが,油タンクの部分またはその付近で火を使う修理を行うときには,油のシフト,ガスフリーを忘れてはならない。



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