13.船側の損傷(1)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


何処が壊れ易いか(3)

8.5 船側外板 (Side shell)

 船底外板は,船がドックに入らないと見られないが,船側外板の損傷は,喫水線より上の部分に関する限り何時でも見つけることができる。ここでは,ドックに入った状態で船側外板全般についての損傷について述べることとするが,通船で本船から離れるときや,タラップを降り岸壁に上陸したときなど,水線上の見られる範囲の船側外板の状態に常時気を配っておくことが望ましい。






写真1,2,3 外板に現れた亀裂
この様な亀裂が一見して分からないようでは一人前ではない



8.5.1 船側外板の損傷はどうやって見つけるか

 船底外板の場合と同様に,局部的に汚れたところや、部分的に錆が個所には,往々にして亀裂が潜んでおり,これらについては既に取り上げたので省略し,次の二つの方法を追加しておく。


(1) ブルワークにもれたれて下を見透す

 船側外板の場合も、広純囲にわたるジワッとした凹損は,なかなか発見し難い。貨物艙に入り、隔壁 (bu1khead) や何本かの肋骨(frame)が曲がっているのを発見し,その部分の外板を外から良く調べると大曲りが生じていることが判ることがよくある。このような凹入は,ブルワーク(bu1wark)にもたれて,下の外板を見下ろすと,案外簡単に見つけることができる。また,岸壁についている場合,タラップを降りるさい,途中で足を止め,前後の外板を見透すと,今まで判らなかった凹入を発見することがある。


第1図 船側外板のジワッとした凹入



写真4 上から見下ろして判った外板の凹入



第2図 物が当たって壊れ易い所



(2) ドックの周囲を一周する

 上記のようにデッキの上から外板を見下ろしても見られるのは中央部のみであり,タンカーなどのように舷側が丸くなっている船(Round gunnel)では危なくて手摺から下を見通すことなど出来ない。また、入渠して渠底から外板を見上げても、20万徹幣紊料イ砲覆襪30mも上の方はよく判らない。
 あらゆる機会を利用して船の現状を把握する意味で,ドックの周囲を一周して,船側外板を調べておくことは重要である。これは,船の大きさにより,ドックの中段を一周した方が良いこともある。


8.5.2 物が当たってやられ易いところ

2回目で,船体の損傷につき,その原因別の分類を試みたが,船側外板のどの部分に,どのような損傷が生じ易いかを,原因別に述べることとする。第2図は一般貨物船の主として他物接触による損傷の出易い部分を表わしたもので,図中の数字は,以下の分類に対応している。外板の新替えや切替えを行うような大規模な損傷は,老令船における衰耗外板の新替えを除き,殆どが岸壁接触,浮遊物接触,衝突など他物接触によるものである。


1. 船側外板平行部の両端(R止り)

 港の状態と接岸方法により,損傷を受け易い個所は大体決まっているようで,普通,船体中央平行部の前後端に凹入を生ずる船が多い。この部分の損傷は外板のみの凹入のみならず,肋骨や外板面の隔壁の屈曲を伴っていることが多く,亀裂や掻き傷が生ずることは意外に少ない。したがって,毎年同じ個所の外板を新替えするような船もある。かって、セントロレンス運河が開通した頃、この運河を通過して五大湖に就航した船は運河の壁に船側が接触して毎回上甲板下の外板を新換えしていた。かなりの老令船で,全般的に外板が薄くなっていても,この部分だけは板厚が厚く不思議に思うことがある。これは,岸壁接触により過去何回か同じ部分の板を替えているためである。


2. 船体中央部のビルジ外板上縁

 ビルジキールが取り付けられているビルジ外板の上縁で,塗装が剥離し,鋲接の船では鋲頭が,溶接の船では溶接ビード,さらにビルジ外板自体にかなりの腐蝕が生じていることがある。原因はよく判らないが,接岸中,船が動揺した際,その部分が岸壁と摺れるからとも、長期間同じ場所に接岸している際,岸壁と船体の電位差により腐食するのだともいわれている。もっとも,後者の場合はビルジ外板のみならず,水線下の外板は一様に腐蝕し,また岸壁側の片舷のみに腐食が現われる。何れにしても大事故に至る程の腐蝕ではないが,前回でも述べたように,入渠の際はビルジ外板の上縁に注意を払う必要がある。


写真5 ビルジ外板上部の腐蝕



3. 曳船が押す部分

 出入港時に曳船が押す部分は,船の大きさ,港の状態によって異なるが,最近は曳船の馬力が大きくなっているので,押された部分の外板にフェンダーの形をした凹入が認められることがある。大型船では曳き船により押される部分の外板を補強しその位置にマークを塗りその部分意外は押さないようにしている船もある。馬力の強そうな曳船に押された際は,出来れば,後刻その部分をデッキ上から見下ろすか,空船時に船内に入り,その部分を内側から調査しておいても無駄にはならない。


4. 船首材 (Stem)

 岸壁との接触,浮遊物との接触などによる船首材の屈曲も案外多い損傷である。これは,10回目で取り上げたように,船の真正面に立って船首材を眺めると,横から見て判らなかった屈曲や凹入が姿を現すものである。


第3図 海の交通事故による船首の損傷
速力が急に落ちたので調べてみると船首に鯨を抱えていた
と言う話を聞いたことがある。

 最近の船は,球状船首 (Bulbous bow)を採用したものが多いが,この種の船の船首部の損傷として,次の二つが新しく登場している。

(a) Fashion plate (船首材上端の板)の凹入
 波浪に叩かれて生じる凹入で,甚いものは50〜100mmにも達し,船首楼,船首艚 (Fore peak tank) に入ると損傷の大きさに喫驚する。これは第4図のように,船首部の張出し(f1are)の大小と,球状船首の形状とによるものと考えられ,損傷した板と骨を切替え,さらに内部に大規模な補強を施すか,改造により船首の形状を改めないと,再発の恐れがある。

(b) 球状船首の凹損
 船体の揺れが多いときに,投錨し,運悪く錨が球状部に触れて,凹損を生ずることがある。この種の傷は局部的なもので程度も軽微なもので、大がかりな修理を要する例は少ない。


第4図 船首部の断面


(c) 船首材の先端は船の一部か?
 これは本稿の内容から逸脱するかも知れないが序に取り上げてみる。AB船級のギリシャ船が衝突で船首材先端を潰してしまった。特に航行に支障はないとして,そのまま就航を続けていた。しかし,ドック検査の時期がきたのでいやいやながら造船所で入渠した。損傷は写真3のとおりで派手に凹んでいる。ドックの先端が道路りに面しているので,毎日その前を通る。そのうち足場を作り修理が始まると思っていたが,一向に足場屋は現われない。検査のため渠底に卸され,配列されていた錨鎖も数日後収納され、隣のドックの船も修理が終わって出渠して行った。それでも潰れた船首材はそのまま。ある朝,やっとクレーンで吊ったゴンドラが船首に配置された。こんな足場でどのようにして修理をするのかと興味を持ったが,そのゴンドラは塗装のための足場で,潰れたままの状態でお化縦が終わり,結局何の修理もせず、鼻ペチヤの厚化粧といった感じで出帆してしまった。写真4と5は入渠の直後と出帆前の状態である。その気で修理をすれば工事期間は充分あったはずなのに何故修理をしなかったのか? 衝突は明らかなので,修理費用は保険会社から支払われると考えられるが,何等かの理由で保険金が出なかったのだろうか? 後で,ABの検査員に聞いて見たら,船主いわく、この損傷は航海には支障はない,船の安全にも問題はないとの一点張りで,頑強に修理を拒否したとのことであった。世の中には変わった船主もいるものだ


写真6 衝突による船首の損傷
左舷側のFairleader部も破損している。



写真7 船首の損傷入渠直後



写真8 船首の損傷
修理をせず,壊れたままで塗装をし,出渠直前の状態。


 脱線に脱線を重ねることになるが、この部分は規則で定められた船の長さからはみ出している部分なので船全体の強度には関係なく、煙突の様なものだと考えることも出来る。
 煙突に大きな穴があいてしまった場合、中の排気管も破損していたり、機関室の天井が抜けてしまっていれば別であるが、煙突を付けろと言う規則はないので検査員が修理の要求が出来る対象であるかが問題になる。船主が頑強に修理を拒否すれば壊れたままの煙突で、そのまま放置しても問題はないのかもしれない。この意味で,修理をせずに出帆したギリシャ船の船首部は,法規で規制される長さから逸脱した部分であるために、船の一部でありながら、船ではないという論法も成り立つ。しかし、写真からも分かる様に、左舷のFairleader も破損しており、この個所は出入港の時に一等航海士が立ち操船を指揮する場所でもあることから航海に支障はないとは言えない筈である。船が沈没するような危険はないが、出入港には不便で、事故の原因にもなりかねない。理由はどうであれ、やはり、修理は行うべきであろう。


5. Bel1 mouth付近

 錨鎖を捲き上げ収錨する際,錨鎖に弛みがなく,ストッパーにかかり,錨が三点で Bell mouth に接触すれば、三脚の椅子がガタつかないように錨はぴったり収納される。このような状態で収錨できるよう造船所では新造時に苦心しているが,船が古くなり,錨鎖や錨柄が摩耗したりすると,収錨した際,錨がガタつき,Bell mouth付近の外板に,錨の爪が当たって局部的な凹損を生じ,甚しい場合は破口を生じる。これもFore peak tankに入るか,Bo'sn storeでHawser ropeなどをどけて錨爪の当たる部分を内部から調べた方が発見し易いが,注意すれば外部からでも充分発見できる。


写真9 錨爪が当たる部分の外板の凹入



6. 船首部船側外板

 船首部の船底は,既に述べたようにスラミングで凹損を受けるが,船側外板は,chain摺れにより塗装が剥離し,無塗装で裸になった外板に腐蝕が生じる。鋲構造の船では,僅かに突出している鋲頭が腐蝕し,溶接構造の船では,盛り上った溶接ビートが腐蝕する。これにより直ちに船の安全がそこなわれるようなことはないが,放置しておくと腐食はどんどん進行する。修理方法としては,腐蝕部に対する溶接肉盛りが行われ,鋲の場合は,程度により鋲の打ち替えか,蟹の目玉のようになった鋲頭に溶接で肉を盛ることになる。しかし,投揚錨を頻繁に行う船では再び錨鎖が同じ個所をこするり,同様な腐触を繰り返す。したがって恒久的な対策として。摺れ易い個所に,第8図のように半丸鋼を取り付け,外板を保護する方法が採られる。半丸鋼を取り付けると丁度,泥鰌の髭のような感じになり,船令の若い処女に髭を生やすのは,格好が悪いと嫌う人もいる。


写真10 チェイン摺れによる溶接ビードの腐食



写真11 チェイン摺れ防止のための半丸鋼



第5図 チェイン摺れ防止のための半丸鋼



7. 隔壁部の外板

 船体に横方向の波が撃突した場合,隔壁の部分は波の力をガッチリと受け止めるが,その池の部分は,第9図の点線のように,瞬間的に凹むような状態になり,逆に波の谷に来ると,圧力が負になり,場合によっては貨物の内圧も加わって,隔壁の前後で外板が膨れるようになると考えられる。このため,隔壁のすぐ近くの外板は,常時,瞬間的な凹入と膨出の状態を繰り返し,Г良分は,疲労や塗装の剥離による腐触を受け,他よりも早く衰耗する。これは,船令が15年ぐらいまではさほど心配する必要はないが,船齢が20年を越えると局部的に板厚が半分以下になり,場合によっては,隔壁に添い上下方向に亀裂を生じるようになる。船令の古い貨物船では,隔壁近傍の外板の状態には充分注意をする必要がある。
 以上,波も含めた他物接触により損傷の起き易い個所を思いつくままに取り上げたが,第2図の,船首部の,鉢Δ良分は,ぼりばあ丸,尾道丸の様な船首部切断の例もあるので,古くなった船では眼光紙ではなく鋼背に徹するような調子で熟視する必要がある。


第6図 隔壁付近の外板の変形



写真12 隔壁に沿った外板の亀裂



船の長さについて

 船の長さを測る場合,その先端は,普通,満載喫水線上の船首材の前面ということになっており,各国,各船級協会の構造規則も,この測り方による長さを基にして構造寸法を決めている。これは垂線間長さ (Lppと表わされ ,Length between perpendicular)と呼ばれている。
 次に,国籍証書に記載される長さは,第7図に示すように,上甲板梁上において船首材の前面までの長さで、垂線間長さより若干長くなる。この他満載喫水線の全長,つまり満載喫水線長や,国際満載喫水線条約による長さ,さらに、一番長いものとして,船体の最後端から最前端までの全長 (Loaと表わされ,Length overal1)がある。全長は規則で規定または制約される長さではない。この意味で、修理をせずに出帆したギリシャ船船首部は法規で規制される長さから逸脱した部分であるため船の一部でありながら、船ではないという論法も成り立つ。ギリシャ船主が修理を拒んだ場合、船の安全に支障はないことと、損傷個所は船ではない部分なので修理の強要は出来ないのかもしれない。


第7図 船の長さ
普通,船の長さと云えば,1の垂線間長を云う。この後端は第8図のように舵柱(Rudder post)のある船ではその後面,舵柱の無い船では舵軸中心が垂線間長および登録長の後端である。なお3の水線長の96%がLppより大きい場合は。水線長の 96%をScantling 1engthと呼びLppの代わりにする。. また、Lppの後端は後部垂線、(Aft perpendicular)と呼ばれ, APで表され、前端は前部垂線(Fore perpenicular)と呼びFP と表わす。Lppの中央は船体中央(Midship)と呼びⓍの記号で表わされる。



第8図 長さを測る時の後端
1〜4は現在普通に見られる船で、舵柱が無いので舵軸中心が長さを測る時の後端 (AP)となる。つまり、身長を計るときの踵と言うことである。5は横浜に保存されている氷川丸のように舵柱がある船でその後面が後端となり舵軸中心ではない。但し、この種の船は現在では殆ど見掛けなくなっている。



写真13 氷川丸の舵柱のある船尾



第9図 長さを測る時の前端
一般に船の長さを表す垂線間長さの前端、つまり身長を測る時の頭の天辺に相当する所は船に計画通りの最大の貨物を積んだ時の喫水線(満載喫水線)に於ける船首の位置である。従って、船首の形状によって変わってくる。(1)はタイタニックの様なかなり古い船の船首で、その後船首の形状は(2)の様に変わってきており、現在では、(3)の様な戦艦大和に見られる水線下が突出した球状船首になっている船が殆どである。 (1)の場合は喫水が変わっても前端位置は変わらないが、(2)では、喫水が深くなると前端の位置は前に移り船の長さは長くなり、喫水が浅くなると船は短くなることになる。



第10図 船が伸びてしまった
最初は喫水がdでLppがABだった船の喫水を増しd'にすると水線長はAB'になり同じ船なのに長さが長くなる。しかしこの場合, 船尾が長いと水線長L’wlの96%がAB'より長くなるのでこの長さが船の長さになる。例えばLpp=100mの船があり喫水をd'とした時の水線長が125m になったとすると,喫水を増したことにより同じ船でありながら長さは125x0.96=120mになる。ただし登録長及び全長は変わらない。船は計画された喫水とそれに応じた長さを基にして設計されているので, 完成後、貨物を沢山積もうと、途中で喫水を増すには予備浮力を大きくする為の工事、船体強度を増す為の工事が必要になり, 簡単に当初計画した喫水を増やすことはできない。




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