15.船尾骨材一般


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


何処が壊れ易いか(5)

8.6 船尾骨材 (Stern frame)

 船の最後端をまとめ,プロペラと舵を取り付ける船尾骨材は,船首材やビルジキールなどと比べると非常に重要な部材である。ドックに入った状態で,船全体として眺めると・プロペラと舵のみが目にっき,縁の下の力持ちである船尾骨材はどういう形をして、どんな構造になっているのか判り難く,影の薄い存在である。したがって,今回は先ず,船尾骨材はどんな構造になっているか,その代表例を取り上げ,続いて損傷例、座礁などによりShoe pieceが屈曲した場合の修理方法等を述べることとする。


8.6.1 船尾骨材の名称と構造

 船尾骨材はプロペラ,プロペラ軸および舵を支えており,それぞれの軸芯が狂い、プロペラが横を向いたり,上を向いたりして取り付けられたり,舵が傾いていたりすると,他の部分がいくら上手に造られていても,船としては成り立たなくなる。この意味で,船尾骨材は,船体構造の中で最も精度を要する部材である。構造としては,鋳鋼で一体として鋳造されるものと,板厚の厚い鋼板で組立てた鋼板製のものの二種類がある。この他,第1図に示すような,鍛鋼製のものがあり戦前は殆どが鍛鋼であったが,現在はすっかり姿を消してしまっている。船尾骨材の名称は第1図の通りである。


第1図 船尾骨材の名称



8.6.2 材料による船尾骨材の種類

(1) 鍛鋼製船尾骨材

最近の新造船では見られなくなったが、古い船の船尾骨材は殆どが第2図に示すように長方形の断面で舵柱を持った鍛鋼製で、大型船では二材又は三材で造り鋲で接合されていた。第2図で示したものは、三材よりなりプロペラボスの下と舵柱上部で鋲接されている。横浜に係留されている氷川丸は鍛鋼製船尾骨材が採用されている。


(2) 鋳鋼製船尾骨材

 その後、流線型の断面をした船尾骨材が現れた。これを製造するためには大きな鋳造設備が必要となる。先ず,10トン以上もの鋼を製鋼するための大きな電気炉などの製鋼設備と,10m以上の船尾骨材を鋳込む鋳造設備がなければ製造することはできない。
 製造の手順としては,初めに木で実物大の船尾骨材の型(木型)を作り,これを基にして砂型を作り,これに,炉で製鋼された1550℃〜1600℃の鋼の湯を注いで鋳造が終わることになる。鋳放しのままでは製品の組織が粗いので,この後熱処理を施し軸受部の機械加工をして製品となる。しかし,当時の大型船で,長さ200m程度になると,船尾骨材も大型化し,一体で鋳込むことは不可能になり,プロペラのボス部を境にして,上,下に分けて鋳造し,後で鋲または溶接で継がれ船台に運ばれた。一般的な鋳鋼製船尾骨材の構造を第2図に示す。当時,船体各部の接手は鋲によっており,図の船尾骨材と外板との取合も鋲接になっている。


写真1 GudgeonのないC型船尾骨材
3,000G/Tぐらいまでの船に使用されており,これは一体鋳造による鋳鋼製である。プロペラ取外し中



写真2 GudgeonのあるG型船尾骨材
大型貨物船は殆どがこの型で,外見からでは判り難いが、これは鋼板製である。ブロペラは全面にわたってカラーチェックが行われているため真白になっている。



写真3 ノズルを有する船尾骨材
プロペラの周囲にノズルが取り付けられており複雑な外観をしているが,基本的にG型船尾骨材である。舵を外し,プロペラ軸を外に抜き出し中。



写真4 特殊な船尾骨材
Twin screw, Twin rudder (プロペラ2個、舵2枚)の船、反対舷にも同じ構造のプロペラと舵があり, どこが船尾骨材なのか判り難い。



第2図 鍛鋼製のO型船尾骨材
Rudder postとLower propeller post部で2材に分けて製造され,Scarph jointにより鋲で結合されている。各部の断面は長方形で、流線型ではない。



第3図 鋳鋼製G型船尾骨材
Gudgeonが上に1個所しかなく舵柱(Rudder post)はない。上下を逆にするとGの型をしているのでG型と呼ばれる。鋳鋼なので断面も流線形になっている。



第4図 溶接による船尾骨材の接手の一例



(3) 鋼板製船尾骨材

 船尾骨材は形が複雑で,鋳鋼製の場合、外板との取合部は肉が薄く,第3図の例では船側外板と取り合う個所が40mm,であるのに対して、Shoe piece は400x330mmと鋼の塊になっている。一つの製品で肉厚の差が大きく形が複雑であるため鋳造が難しく、往々にして鋳巣や亀裂が発生したものである。一方、価格、納期の面でも問題があり、1950年頃から欧州の造船所では鋼板で組立てた船尾骨材が姿を現した。この出現の背景には、材料の安定した厚板が得られるようになったことと、溶接技術の進歩が見逃せない。第5図に鋼板製船尾骨材の一例を示す。
 プロペラのボス部と舵の軸受部は鋼板で組立てられない程の肉厚が要求されるので鋳鍛鋼製になっているが、鋼の塊であった Shoe piece 部は鋼板による箱型構造になっている。
 鋼板で組立てられるようになり、鋳鋼にしばしば発生していた鋳巣等による欠陥がなくなり、船尾骨材の信頼性は大きく改善された。日本でも1955年頃から日立造船、川崎重工などで鋼板製船尾骨材が造られるようになり、その後、鋼板製は順調に増え、かって、鍛鋼製船尾骨材が鋳鋼製に駆逐されたように、鋳鋼製船尾骨材は鋼板製に席を譲る結果となった。
 鋼板製船尾骨材は,第6図に示すとおり,小間切れの厚板を多層の溶接で継いだもので,船体構造の中で,単位重量当たり最も溶接量の多い部材である。従って、溶接による熱応力が残留し,船が完成してから、船尾骨材に歪が生じ,プロペラの芯や,舵の軸が狂うことが懸念され、当時は残留応力を除去するため,溶接で組上がった大きな船尾骨材全体を焼鈍することが行われた。


第5図 鋼板製C型船尾骨材の例
灰色で塗りつぶした個所は水密構造になっている。Propeller postは後端に丸棒を用い両側に29.5个糧弔溶接してある。Shoe pieceは厚さ35mmの板による箱型構造になっている。斜線部は鋳鋼である。



第6図 鋼板製船尾骨材shoe pieceの組立て例 (1)
Side plate, top p1ate,Ribを溶接で固着し第5図のような蓋のない箱を作る。



第7図 Shoe pieceの組立て(2)
箱には人が入れず底板の内面の溶接は出来ないので,蓋のない箱に底板をかぶせる。底板の両側を受け板 Chill plate)にわかし込みで溶接,底板の楕円の孔の周囲を ribの受け板に溶接する。溶接後,楕円の孔の部分はセメントなどで埋める。


 また、従来の鋳鋼と比べ重量が軽くなったため、船尾振動によるプロペラや舵の損傷も予想された。しかし、残留応力による歪の発生も,プロベラの損傷もなく,現在では船体構造の中で,一番損傷の少ない優等生ということになる。ただし,座礁ともなれば鋳鋼でも鋼板でも大きな被害は免れない。なお,shoe pieceのみを鋳鋼で造り,他は鋼板で組立てた折衷式の船尾骨材もあり,溶接により箱型のshoe pieceを造るよりは経済的ではないかと考えられる。最近,コンテナ船,冷蔵運搬船など20ノットあるいはそれ以上の高速船が珍しくなくなっている。これらの船は,船体祇抗を少なくするため,船体は痩せたスマートな形になっているため,船尾部で舵を支えるshoe pieceを設けることができなくなった。このため第7図のようなshoe pieceのない船尾骨材も多く見られるよようになっている。この種の船尾骨材は座礁をしてもshoe pieceがやられる心配はないが,もろにプロペラをやられることになる。


第8図 Shoe pieceのない船尾骨材
マリナー型の舵を採用した船の船尾骨材にはShoe piece がない。マリナー型の舵に就いては舵の項を参照のこと。




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