16.船尾骨材の損傷(1)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


何処が壊れ易いか(6)

8.6.3 船尾骨材の損傷

 泣きどころの少ない船尾骨材の異状として強いて取り上げれば,次のような例がある。なお、座礁などの異状事態によるshoe pieceの折損,屈曲などの大損傷については,後で取り上げることとする。


(1) Shoe piece と舵の位置関係

 船尾材を真横から眺めて,舵の下面と,shoe pieceの上面の間隔が第7図のように非常に少なく,10舒焚爾砲覆辰討い訃豺,sboe pieceが上に屈曲しているか,舵が下がっている可能性がある。普通この部分の問隙は25〜50伉度に設計されているので,これより少ない時は図面を調査する必要がある。始めから10伉度で建造されていれば,問題はないが,そうでない場合は,船尾骨材のshoe pieceが上に曲がっているかどうか調べてみよう。座礁,底触がない限り,この原因は,舵の重量受けが摩耗し舵全体が下がったことによるものである場合が多い。また,船尾に立ち前方向を眺め,舵の下面とshoe pieceの上面の間隙が,左右で違っていないかを調べてみよう(第8図参照)。この問隙が左右で違っていれば,shoe pieceが振れ,舵針(Pintle)が偏磨耗している可能性がある。


写真1 真後ろから見たShoe piece



第1図 舵とshoe pieceとの間隙 (1)
aの間隙が少なすぎると舵が下がっているかshoe pieceが持ち上がっている疑いがある。この種のG型船尾骨材の場合,当然のことながら舵が下がっていればcの間隙も小さくなり逆にbは大きくなる。



第2図 舵とshoe pieceとの間隙(2)
(真後ろから見たところ)
舵底面とShoe piece上面の間隙が,右舷(a),左舷(b)で異なっている場合はshoe pieceが捩れている可能性がある。



(2) 亀裂

構造上の不連続部は,どうしても応力集中が起こり,溶接の不良,鋳造の不良が,この部分に内在していれば亀裂に繋がる可能性がある。第9図の○で囲んだ部分は熟視し,他と比べ,濡れていたり錆が多量に発生していたり,青さが多く付着していたら亀裂の疑いがある。三叉部の亀裂は鋼板製船尾骨材には発生しないが,shoe pieceの栓溶接不良部に亀裂が生じ箱型構造のshoe pieceに海水が溜っている例がある。余談かも知れないが,shoe piece の溶接部が一部で黒く汚れており,調べてみると溶接部に亀裂が生じていることが判った。修理のため溶接部を削取った(ハッッた)ところ,コールタールが流れ出し,ドラム缶に2本近いタールが出てきたことがあった。鋼板製船尾骨材の箱型のshoe pieceは,水密構造の箱になっており,内部の腐食を防止する目的で,箱に孔をあけ,コールタールを流し込み,内面を塗装することが行われている。内面がタールで塗装された頃合をみて,余分のコールタールは,孔から外に出し,後で孔を填めることになるが,この船の場合,新造時にタールを流し込み,後で抜くのを忘れたものと考えられる。タールのタンクになっていた訳である。
 この他、舵と同様に Shoe pieceの栓溶接部に亀裂が生じていることがある。


写真2 Shoe piece の栓溶接の亀裂
亀裂が生じるとShoe piece内に浸水し、入渠時栓溶接の部分から逆に水が漏れ出るので亀裂があることが分かる。放置しても問題はないが、修理するときはセメントを除き、完全に排水してから再溶接を行い、修理後完全に修理が出来たかどうかを気密試験で確認する。


 この他、前回の第8図で取り上げたShoe piece のない船尾骨材を備えマリナー型の舵(舵の項参照)を備えた船でRudder horn の付け根に亀裂が生じている例が最近多くなっている。最初は特定の造船所で建造された船に限られていたが、その後他の造船所で建造された船にも現れ出している。Rudder hornは一種の片持梁のようなもので付け根には大きな曲げモーメントが掛かることと、板厚の厚い鋼板が比較的薄い船側外板と取り合っていることもあり、設計、工事に欠陥があると付け根に亀裂が発生する。マリナー型の舵を付けた船ではRudder hornの付け根を注意して検査する必要がある。


第3図 Rudder horn基部の亀裂



(3) 三叉部の鋳巣(Blow hole)と亀裂

 これは鋳鋼製船尾骨材のみに発見されるもの一で,製造時に表面に現れなかった欠陥が就航後出てくるものである。場所としては,shoe pieceとPropeller boss下の三叉部(第9図参照)が殆どで,プロペラのボスから上でこの種の損傷が報告された例は聞いていない。鋳鋼製船尾骨材を有する船では,入渠の際この部分を注意して睨む必要がある。もし,表面に亀裂らしい筋とか,小さな孔あるいは,他と比べ肌荒れがひどい所が見つかったら,詳細に調べておく。


第4図 船尾骨材の構造上の不連続部
AはGudgeon 部、Bは三叉部


 方法としては,次のようなものがあげられる。なお,この方法は鋳鋼に限ったものではなく,鋼板構造部にも応用できる。

  1. グラインダーで表面を滑らかに磨いてみる。傷が消えれば問題はない。

  2. ガスで疑わしい個所を少し加熱すると亀裂が判り易くなることがある。

  3. 浸透探傷を行う。これは,俗にカラーチェックと呼ばれており,表面に顔を出している欠陥の大きさが,はっきり識別できる。これは鋳肌に直接行うよりも,前記(a)により,肌を滑らかにしてからチェックした方が効果は上がる。前記(b)により加熱した場合は,温度が下がってから行わないと薬液が充分傷口に浸透しない。

  4. 小さな孔が見つかった時は,細い針金を差し込んでみる。孔は意外に深く,内部で拡がっているのが判る。

  5. 肌が荒れていて砂咬の疑いがある個所は,テストハンマーの尖った方で,砂を叩き取る。砂の塊がごそっと落ちて鋳鋼の肌がごっそりえぐれることがある。

  6. 磁気探傷により,さらに細い表面の傷が発見できるが,カラーチェックの方が簡便であるので,現場ではあまり行われない。

  7. 超音波探傷により,鋳鋼内部の傷の拡がり,大きさを知ることができる。ブラウン管に表われた反射波により,内部に大きな空洞があることが判ったならば,この修理のため,ドック期間は最低一週間は延びることを覚悟しなけれぱならない。

  8. 傷の部分を,タガネ,ガスまたはアークで掘ってみる。掘りながら,カラーチェックを行い,傷が消滅したかどうかを確認する必要がある

(4) 腐食

 船尾骨材の腐食と言うと笑われるかも知れない。確かに、他の船体構造部材と異なり、板厚が厚いので腐食しても全然問題にならない。ただ、プロペラ後部にある部分、即ち、舵のガッジョン(Gudgeon)部とShoe piece の先端では、複雑な水流が当たるため、エロージョン(Erosion)により鋳鋼部においてすら,海綿状に,ザクザクな状態の腐蝕を局部釣に受けている場合がある。はなはだしい場合は深さが20伉に達することがある。
 強度上も何となく不安になり,海綿状の部分をハッリ取って溶接肉盛りをしたり,腐食部に二重張りを施したり,あるいは,セメント,デブコンなどをかぶせたりして修理が行われる。しかし,数年するともとどおりになってしまう。エロージョンによる腐食は,水の流れを変えない限り防止することはできない。見た目は悪くても放置した方が良さそうである。ただし,鋼板の部分であれば,孔があく時期を遅らせる意味で,上記の処置を講じ様子を見ることになる。


(5) 船尾骨材への付着物

次の点に注意を払う。

  1. 保護亜鉛が消耗していれば新替えする。なお,ドック内で新替えし,出渠前に船体の塗装を行う際,新しい保護亜鉛も同時に塗装してしまうことがある。亜鉛が塗装されれば当然効果はなくなるので,造船所に連絡しドック注水前に塗装を剥させる処置が必要である。

  2. プロペラのガードリングが落失していたり,シャフト部にロープなどが捲きついていたりすることがある。

  3. プロペラのボス部より,シールの油が洩れていたり,海水がしたたり落ちていることがある。この場合は,上記(b)の場合も同様,ただちに機関長に報告し必要な処置を講じる必要がある。

8.6.4 船尾骨材の大損傷

 座礁,底触による損膓が船首部のみに限られていれば,その修理は時間の間題である一。破口,亀裂,凹損の生じた船底を切り取り,新しい鋼板を損傷部の大きさに合わせて切替え,曲り外板であれば板曲げをし,溶接で取り付ければ修理は終わる。しかし,損傷が船尾に及ぶと,この様に簡単にはいかず,問題は大きくなる。阿故ならば,船尾骨材船尾部の損傷には,多かれ少なかれ,舵やブロペラの損傷を伴うからである。舵の折損,舵頭材の屈曲、操舵機の破損,プロペラ翼の切損、屈曲、船尾軸の屈曲など,どれが併発していても簡単に修理することはできない。相手が鋳鍛鋼品であったり,特殊な大型銅合金であったりするので代替品の入手に手間取り,完全修理には数ヶ月を覚悟せねばならず,場合によっては,最寄りの造船所で応急修理を行い,設備の整った遣船所に回航後本修理ということになり,何れにしても長期間稼動は不可能になる。


8.6.5 Shoe piece の損傷

(1) 屈曲

 座礁などによって船尾骨材に屈曲が生じる部分は,当然のことながら,後方に突出しているshoe pieceである。この屈曲は二次元のもの,三次元のものおよび,振れの三種類がある。


1. 二次元の屈曲

 これには,propel1er postから後部のshoe pieceが上下方向に屈曲する例と,右舷又は左舷の水平方向に屈曲する例の二種類の損傷がある。前者は,単に船尾が突き上げられた場合に起こり,shoe pieceは上方に曲がり,併発症として,舵を支える舵頭軸受,舵取機の損傷を受ける。Shoe pieceが,下方に屈曲する例は,座礁,底触では起きないが,造船所で舵の取外し,持上げの工事中,誤って舵を落下させ,shoe pieceを折ったり,下に曲げてしまった例があり,これは特異なケースである。後者の水平方向の屈曲は,座礁,底触した際に舵を切っていると起こるもので,shoe pieceは,左舷または右舷に屈曲する。この場合の併発症としては,舵板の損傷の他,舵頭材の屈曲,振れが起こり,舵取機にも何らかの損傷を受ける。


写真3 二次元の屈曲(鋼板製船尾骨材)
shoe pieceは右舷側に380mm屈曲、プロペラ翼も屈曲している。舵も損傷を受け、修理のために取外してある。



2. 三次元の屈曲

上記の,上方向と水平方向の屈曲が同時に起こったもので,座礁による損傷では,shoe pieceが上に持ち上り,左舷または右舷に屈曲する例が殆どである。


写真4 捩れを伴った三次元の屈曲(1)
shoe piece右舷側に80mm 屈曲し、上方に205mm持ち上がり、更に反時計方向に15度捩れている



写真5 捩れを伴った三次元の屈曲(2)
舵頭材も屈曲,操舵機も大破したが、不思議なことにプロペラは90度以上振れた舵に翼先端が触れて、多少曲がった程度であった。



3. 振れ

舵板に水平方向に大きな力が加わると,shoe pieceに振れが生じる。この場合にはプロペラや舵本体にも大きな損傷が生じる。Shoe pieceが二次元の屈曲をし,更に振れたりすると,修理はいよいよ面倒になる。捩れの発見法については,前述したとおりである。


(2) 亀裂

 前述したように,船尾骨材の亀裂は,主として鋳鋼製船尾骨材の不連続部に生じ,鋳造や材質の不良に起因するのが殆どで,座礁,底触により,船尾骨材に亀裂が発生する例は珍しく,上記の屈曲は著しい場合は折損ということになる。
 しかし,shoe pieceの屈曲が大きい場合は目に見えない亀裂が生じている可能性はあるので,修理に先だって,カラーチェックなどで亀裂の有無を調べておく必要がある。


(3) 折損  船尾骨材の折損はshoe pieceの先端が殆どで折損すればshoe pieceは海没してしまうがこの様な損傷は効いたことはない。ただ、鋳鋼製船尾骨で,座礁により,プロペラ・ボスの下端でプロペラ柱が折損したという例があり残存部を調査したところ,材質不良が発見されたと報告されている。詳細は不明である。



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