17.船尾骨材の損傷(2)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


何処が壊れ易いか(7)

8.6.5 船尾骨材の修理

(1) Shoe piece の軽微な曲り、捩れ

 Shoe pieceの曲がりや捩れの量が少ない場合,大袈裟な曲り直しをせず,Hee1 piece部のgudgeonを再ボーリングすることにより修理が可能である。第1図のように曲り量が少なく,正しい舵の芯がO'であるとき,O'を巾心にしてO'Pの半径で再ボーリングを行う。当然Gudgeonの内径はOO'だけ大きくなるので,その分だけ厚めのbushを挿入して完全修理とすることができる。この場合,Gudgeonの肉厚tは舵針の径の35%程度あることが必要である。舵の芯の狂いが若干大きく,再ボーリングした時のGudgeonの肉厚t が,舵針の径の35%を切る場合は,第2図のように,偏心と反対側のgudgeonの内面に溶接で肉を盛り,O’ を中心として,前と同じ程度の径でボーリングを行う。このときは,以前とほぼ同じ大きさのbushを使うことができる。なお,肉厚の異なる偏心bushを用いて舵の芯を調整する方法もあるが,偏心bushを用いることは好ましくないとされている。


第1図 ボーリングによる舵軸の修正



第2図 溶接肉盛り後ボーリングによる舵軸の修正



第3図 鋳鋼船尾骨材現場曲り直しの加熱部
加熱後外力を加えて曲りを直す。この例では舵針部の狂いは左舷側に5,前方向に6个任△弔拭



第4図 3図で示した鋳鋼製船尾骨材の現場曲り直し
後の温度降下曲線、急冷は避け除冷する。



(2) Shoe piece の甚だしい曲がり

現場曲り直しによる修理

1) 鋼板製船尾骨材の場合

shoe pieceの現場曲り直しは,第3図に示すように鋳鋼製船尾骨材に対しては,昔から行われており目新しい修理方法ではない。


写真1 Shoe piece の曲り


 しかし,中が空洞になっている現在の組立型shoe pieceに対し,鋳鋼と同様に局剖を加熱し、外力を加えて行う現場曲り直しが可能か否かは疑問が持たれていた。曲り直しを行うよりも、屈曲した部分を切断して,鋼板で新しく造ったshoe pieceと取替えた方が容易なように考えられる。しかし,長さ122.80m,約7,000総トンの貨物船が岩磐に座礁し,板厚35mmの鋼板で組立てられた長さ約3mのshoe piece が,端部で右舷に400mm屈曲するという大損傷を受けた。このとき,鋳鋼に対して行われたのと同様な現場曲り直しによる修理を行い成功した例があり,shoe pieceの現場曲り直しは,鋼板製のshoe pieceにも適用できることが実証された。


第5図 座礁により船底全般に大損傷を蒙ったA号
128.80×19.00×/10.80-8.302, 7,186.75G/T, 11,200D/W 修理期間76日
損傷の概要は次の通りである
  1. FPTから機関室中央部までの船底の破口、凹損
  2. 船首材からNo.1 Hold後部までの船側外板下部の破口、凹損
  3. 船尾骨材Shoe piece 先端が右舷に400 屈曲
  4. 舵頭材が舵との継手より頚部軸受までの間で212亢曲
  5. 舵針屈曲
  6. プロペラのNo.1,2翼先端が幅950,長さ280,170仞效罵郤此他の翼は先端屈曲
  7. ブロペラ軸屈曲
  8. 船尾管軸受破

 この曲り直しの作業は,外板などの曲り直しと違って,特別な大工事であるので,経験のある造船所に修理を発注しないと、逆に状況を悪くする恐れがある。また,局部的に大容量の加熱をするため,曲り直し後,鋼材の材質に悪影響を及ぼし,せっかく曲りは直ったものの,後で加熱部に亀裂が入たり,折損する恐れもある。作業の内容はshoe piece の大きさ,曲りの状態,鋼材の種類などによって異なるので,冶金関係の専門家の助言を得て実施する必要がある。
 以下,鋼板製のshoe pieceの現場曲り直しの概要を述べることとする。なお,この作業は当然のことながら舵とプロペラを取り外してから行うことになる。

<1> 加熱炉の作成

 加熱温度は900℃程度で曲った部分を均一に熱する必要があり,修理後の熱処理をも考えると,加熱のための炉を予め造る必要がある。熱源としては,コークスまたは木炭が用いられるので,これを入れる容器を鋼板で造り,内部に耐火煉瓦を貼ることになる。これに,加熱用の圧縮空気を送る装置と,温度測定のためのサーモカップルを配置する。これは故障が起こった時のことを考えて,少とも2個所に配置するとよい。炉の大きさはshoe pieceの大きさ,曲りの範囲によって決める。第6図に炉の一例を示す。


写真2 加熱炉



第6図 加熱炉の概略
下半部のBをShoe piece に下からはめ込み,Aは後で取り付ける。 Shoe pieceは中央の開口の中を貫通することになる。鋼板で組立て, 内部に煉瓦を巻く。設置が終わったらコークス又は木炭を入れ加熱する。aよりcompressed Airを送る。tは温度計測用のthermo-coupleである。


<2> 治具の準備

 曲りを直すための外力は,普通,油圧ジャッキによって加えられるが,曲りの程度,shoe piece の大きさによっては,チェンブロック等も使用できる。右舷側に屈曲している場合は,右舷のドック.サイドの壁より,坐屈しない支柱,例えば,大型のH型鋼などをshoe pieceの先端まで水平に配置し,先端に油圧ジャッキを取り付ける。なお,油圧ジャッキにより, shoe piece に横方向の大きな力が加わるので,船尾部が横に移動し盤木上を動く恐れがあるので,反対舷のshoe piece 基部にもドック・サイドよりの強固な支柱を設けておく方が良い。治具の配置の一例を第7,8図に示す。


第7図 Shoe piece現場曲り直しの治具(1)



第8図 Shoe piece現場曲り直しの治具(2)


 Shoe pieceが上方に曲った場合は,油圧ジャッキでshoe pieceの先端を押し下げることになるが,C型の船尾骨材では,第9図のように,取り外した舵の頸部輔受けのボスを支持点にして,支柱をかませ,下端に油圧ジャッキを設けて,上から押しつける方法が採られる。


第9図 C型船尾骨材の持上りの修理


 この場合,反力で頸部軸受を介して船尾が持上ることが考えられるが,実際に持上った例は聞いていない。G型の船尾骨材のように,上方に適当な支点が取れない場合は,shoe pieceをまたぐ形で門型の枠を造り,これにジャッキを配置することになるが,この治具は渠底に強固に固定しておく必要がある。Shoe pieceの捩れを修理する場合,振れの量が少なければ加熱による修理は行わずに第10図のように,舵の軸芯に合わせて舵針の孔を大きく再ボーリングし,舵針のブッシュを厚いものと代えて完全修理とすることが出来る。捩れ量が多い場合は加熱して捩れを戻す必要がある。筆者はこの修理の経験はないが,修理を行うとすれば,第12図のような装置でshoe pieceに逆方向の捩じりを加えれば良いと考えられる。


第10図 捩れが少ない場合の修理



第11図 Shoe piece の捩れの現場曲り直しの一例
Shoe pieceを加熱し、2基の油圧ジャッキを用いて捩れを与え曲り直しを行う。両舷の○の長さが同じ値になるようにする。


<3> 曲り直し

 予め屈曲の量を正確に測定しておき,加熱部が均一に加勲され,温度が900〜950℃程度に達したら,ジャッキで徐々に力を加える。力は常時一定方向に加え,shoe pieceに捩れなどが生じないよう注意する。加熱範囲が少なかったり,力の加え方が不適当であると,第13図のように,先端のみが旧位置に戻り,舵の芯が狂ってしまうことがある。


第12図 不完全な曲り直し
加熱の範囲、外力の加えかたが悪いと先端のみが旧に復し途中は曲ったままになりGudgeonの中心は前にずれる。


 曲り直しは、第11図に示すような舵の芯とpropeller 軸の芯の戻り量の計測及び温度の測定を続けながら慎重に行う。先端が旧位置に戻っても、更に力を加え、僅かに戻し過ぎ気味にしておくと、後で冷えたときの戻りが相殺される。


第13図 舵とPropeller軸芯の計測


<4> 後処理

 曲がりが直っても、加熱炉や治具は暫くそのままにしておき、温度が650℃ぐらいまで下がったら,木灰や砂などを炉に加え急冷しないようにし、shoe piece の大きいさによるが10時間以上かけて徐冷する。冷えた状態で、曲りが残った場合は、再度加熱し曲り直しを行うこととなる。曲りが戻り冷えた後で加熱しなかった部分も含めてカラーチェックを行い亀裂が生じていないことを確認する。また、下手に曲り直しを行うと、加熱、冷却の影響で鋼材の組織が変わることがあるので工事完了後加熱部と熱しなかった部分の硬度を測りあまり差の無いことを確認しておくのも一方法である。曲り直し後のshoe piece 各部の硬度計測結果の一例を第14図に示す。


第14図 現場曲り直し後の硬度
熱の影響を受けていないShoe piece先端部の硬度と熱影響部の硬度を比較したもの。括弧内は反対舷の値を示す。



写真3 曲り直し完了直後
Propeller軸計測用治具、Dock sideよりのsupport, ジャッキによる加圧部は撤去せずまだ残っている。


2 鋳鋼製船尾骨材の場合

 修理方法は前記鋼板製船尾骨材の場合と同様である。Gudgeonの中心が右舷側に6,前方に5亢覆辰臣鮃歙汁ト骨材のshoe pieceに対し,現場曲り直しを行った際の加熱位置と,曲り直し後の温度管理図を第4図に示す。


(3) 再溶接

亀裂や,鋳巣の修理として行われる。

1) 鋼板製船尾骨材

 鋼板製の場合は,普通,亀裂が生じる例は殆どなく,shoe pieceの頂板または底板の栓溶接に亀裂が生じshoe piece内に浸水している程度である。修理としては,栓溶接の亀裂部をハツリ取り,内部に溜っている海水を排出してから再溶接をすれば良い。溶接量は少ないので,修理後shoe pieceに対する熱処理の必要はない。ただし水密を確認するために,shoe pieceの水圧試験を行う。


写真4 Shoe piece の栓溶接部に生じた亀裂


2) 鋳鋼製船尾骨材

 鋳鋼製船尾骨材に特有な亀裂,鋳巣を,どのようにして発見するか,内部の欠陥がどの程度の範囲に広がっているかの調査法については,既に取り上げた。この様な損傷が発見された時の修理方法としては,程度に応じて,溶接肉盛りと,欠陥は残しておき,外部から補強を施す方法の2つが考えられる。


第15図 Shoe piece の二重張りによる補強
鋳鋼製船尾骨材で内部に大きな鋳巣のあることが分かったら、その位置と大きさによっては、空洞はそのままにして表面のみを溶接で補修し、二重張りを両側或いは下側に設け完全修理とすることが出来る


 甚しい場合は,新替えまたは切替えということになるが,これらは後で述べることとする。溶接補修を行う際,古い鋲構造の船で船尾骨材に使用されている鋳鋼の炭素含有量が0.25%以上の場合,普通の溶接補修をすると,逆に溶接部附近で亀裂が進行することがある。従って,老令船で,船尾骨材と外板が鋲で取り付けられている船では,鋳鋼を少し削り取って,化学分析を行い,成分を調べておく必要がある。もし,炭素の含有が多い場合は船尾骨材の新替えを考えなければならない。鋳鋼製船尾骨材の亀裂や鋳巣を溶接で修理する際のフローチャートを第16図に示す。溶接補修を行う場合の注意事項は次のとおりである。


第16図 鋳鋼製船尾骨材の修理の流れ図
大亀裂、鋳巣が発見された場合


(1) 歪みの発生を抑える
溶接量が多いと熱によってshoe pieceに歪みが生じるので,この量を少なくするため現場曲り直しの項で述べたようにshoe pieceの先端をドック壁からの支柱などにより動きを拘束しておく必要がある。

(2) 溶接前の予熱
溶接部の亀裂防止のために,溶接部は予めガスバーナーで100℃程度に予熱をする。

(3) 溶接棒の選定
溶接量が多い場合は,ビードの水素割れが生じ易いので,低水素系の溶接棒(Low hydrogen E1ectrode)を使用する。

(4) 溶接順序
溶接は左右対称に行う。片舷に生じた亀裂の補修は当然その部分だけ溶接されることになるが,例えば補強板を,shoe pieceに取り付ける場合は反対側にも取り付ける必要がある。この時は,右舷側と左舷側は同じ寸法の補強板を取り付けることとし,その溶接は,左右同時に同じぺ一スで溶接を続け,溶接による歪みを極力少なくするように心掛ける。

(4) 予備試験を行う
経験のない造船所で修理を行う場合は,例えば,第17図に示すような実際に近い模型を用意し,実際の修理における溶接が水平溶接であれば,閉先が水平の位置になるように設置し,同じ条件で予行演習を行うことが望ましい。溶接が終わったら,溶接部のX線検査,引張り,曲げ,および衝撃試験を行い,その条件で満足な修理が可能であることを確める。もし,結果が悪ければ,溶接の開先を変えるとか,溶接棒を変えるかなどして,再度試験を行う必要がある。


第17図 溶接施行試験
船尾骨材の修理に際し、経験の乏しい造船所の場合は実際の溶接継手と同様な模型を作り、実際と同じ条件で溶接を行い溶接後、溶接部の機械試験を行い実施される溶接方法が妥当であるかを予め確認しておく。



(4) 新替え

 shoe pieceが折損,海没した場合は,当然その部分の新替えが必要になる。ダイバーにより,折損位置は予め調査できるので,海没した部分と同一のものを,新造時の図面を基にして製作しておき,本船が入渠したら直ちに修理が出来るようにしておく。修理は,新しく作った部分を溶接で取り付けることになり,この作業は既に述べた修理方法に準じて行われることになる。


第18図 鋳鋼製船尾骨材の切替え
鋳鋼製船尾骨材のprope11er postのボス下部を新替えする場合, Postのrib部分を利用して溶接で継ぐ,開先の型状はPrope11er post の大きさにより決める。開先角度は25°〜30°,あまり大きくすると溶接量が増え歪みも大きくなる。


 座礁,底触による船尾部の大損傷は,船尾骨材のみならず,舵,操舵機,プロペラ,プロペラ軸およびそのシール部にも及び,修理には少なくとも2〜3ケ月は覚悟しなければならない。船尾に底触を感じた時は,水深,海底の状態により,あまり無理な舵を取ったり,やみくもに前後進をかけると,舵やプロペラをも巻き添えにしてしまう可能性がある。



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