18.舵一般


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


何処が壊れ易いか (8)

8.7 舵 (Rudder)

船体外部の最後としてこの章では,船尾に独立して取り付けられており,船体構造の中で唯一つの動く部材である舵に入ることとする。動くといっても,プロペラのように毎分100回転以上も廻るわけではなく,海上人命安全条約(SOLAS条約)により,普通の船では片舷一杯35°から反対舷30°まで28秒で動けばよいことになっている。回転はしないが,回転すると仮定すると,この速度は舵の大小にかかわらず毎分約0.4回転ということになり,時計の秒針の半分以下という超スローの回転である。

しかし,動く部材であるため.損傷にはいろいろの種類がある。大損傷としては,船尾骨材と同様,底触,座礁による舵の落失,舵頭材の屈曲,捩れなどが考えられるが,舵自体の普通の損傷で、操舵不能になった例は非常に少ない。従って,多少の舵の損傷については,それほど神経質になる必要はない。

舵は船の大小を問わず,商船では,船尾の船体中心線に1枚取り付けられているのが普通 で,2軸の貨物船は勿論,かつての4軸の豪華客船,クイーン・メリー号でも,舵は船体中心線に1枚しか設けられていない。稀な例として,2軸の小型船でプロベラの後に各1枚,2枚の舵を取り付けているものがある程度である。しかし,かっての載貨重量40万トン級のULCCで,2軸,2舵のものが出現している。



写真1 ULCC“UNUVERSAL KOREA”の複舵
舵自体はD型で写真では両舷の舵は内側に切られている。



大型艦艇では旋回性能の面と,一つの舵に被害を受けたときの予備としての面で,複数の舵を備えたものが多い。旧海軍の4軸の戦艦,重巡などでは,後部プロベラの後に,左右各1枚の舵が投けられており,米空母エンターブライスは,4軸で,各プロペラの後に1枚ずつ,合計4枚の舵が装備されている。



第1図 長門級戦艦の舵



変わった例として,大和級の戦艦は,4軸複舵ではあるが,第2図のように船体中心線の前後に主舵、補助舵と呼ばれるものが配置されている。何れにしても,商船では殆どが単舵であるので、以下,船.尾骨材の例にならって,単舵の種類、構造、損傷例とその修理方法を取り上げることとする。




第2図 大和級戦艦の舵



8.7.1 舵の種類
 

便覧などを見るとよくもこんなに多くの舵が考案されたものだと感心するほどである。しかし,一般に使用されている舵の種類は極めて少ない。


8.7.1.1 単板舵

コロンブスが乗った長さ約26m, 100総トンの“Santa Maria" は,現在は残っていないが、この実物大の復原が1951年に建造され、スペインのバルセロナ港に係留されている。当時の帆船の舵は第3図のように大きな木材を数枚、鉄のバンドで継いだ縦長の単板舵である。



第3図 コロンプスの旗艦“Santa Maria"の舵





第4図 単板舵(不平衡舵)
single plate rudder(unbalanced rudder)


舵板には左右交亙に舵腕が取り付けられており、その前端は舵針を介して 船尾骨材の壷金と取り合っている。この例では舵針は5本ある

また,ロンドンの郊外,グリニッチに実物が保存されている,長さ280ft(85.34m), 963G/T,最高17.5ktの速力を出したと云われる19世紀後半の“Cutty Sark" の舵も,外側は銅板で包まれており,内部の構造は判らないが,やはり木材を組み合わせて作った縦長の単板舵である。この種の縦長の単板舵 (普通不平衡舵、 Unbalanced rudderと呼ばれる)舵は,その後,第二次大戦前まで続き,横浜港に係留されている氷川丸にもこの種の舵が採用されている。ただ,材料が木から鉄に変わっただけで,形は,第4図のように幅が狭く,今から考えると,この種の単板舵は,さぞ効率が悪かったのではなかろうかと考えられる。現在稼動している商船で,このような舵を備えた船は,よほどの老令船でなければ,お目に掛ることはできない。




写真2 “Cutty Sark” の舵
外板は修理中
 





第5図 “Cutty Sark"の舵

外面は銅板で包まれている。下の3個のgudgeonは舵の重量を支える働きもする。上の鎖は舵を外すときに使われるものと考えられる。





写真3 Nelsonの旗艦 “VICYORY”の舵  





写真 4 氷川丸の舵 



8.7.1.2 複板舵

現在の船は,小型船を除き殆どが複板舵で断面は流線形をしており,高さと比べると,幅が広くなっている。昔の舵と比べると,舵針が少なくなっている点ではシンプルであるが,舵自体の構造は複雑である。しかし,舵効きは良くなっており,流線形になっているので,船の推逃効率もかなり改善されている。第6図に現在最も多く使用されている舵を便宜上A,B,Cの順でその種類を示す。この中で,A型とB型が最も普通で,大ざっぱに見て5,000 G/T以上の船はA型,それより小さい船ではB型が多い。船型の痩せた高速の船では,舵板の下端を支えるshoe pieceを設けることができないので,プラカードを逆さにして吊り下げた,C型またはD,E型の舵が使用され,C型は例えば,捕鯨船など小型商速船に,D,E型は,大型の高速船に用いられている。



↓第6図 一般的な複板舵(Double plate rudder)の種類

(A) 上下に舵針がある
(B) 舵針は下部のみで、舵頭材は頚部軸受けから上は細くなっている。

(C) Hanging rudder と呼ばれ舵針はない。この為下部舵頭材は太い。

(D) A型の下部舵針を中央付近に
移したもの。
(E) B型の下部舵針を中央部付近に
移したもの。


(A)〜(E)は便宜上つけたもので一般的な名称ではない。(D)〜(E)は一般にマリーナー(Mariner)型と呼ばれている。             


各種の舵の構造上の特徴は次のとおりである。

(1) A型

舵本体に働く舵圧は,上,下の舵針 (pintle) で支えられているため,舵頭材(Rudder stock)は主として,操舵機より舵柄(Tillar)を介して舵頭材に加わる力と,それに対抗して舵板に加わる水圧による捩れのみを考えて設計すれば良く,次のB型,C型と比べれば,舵頭材の径は細くすることができる。A型の舵に働く力を第7図に示す。なお,垂直方向に舵の自重と浮力が働くが,図では省いてある。




第7-1図 A型の舵に掛かる力 (1)





第7-2図 A型の舵に掛かる力 (2)
舵針の位置で捩じりが増えるのは舵針の摩擦によるものである
 




(2) B型

構造はA型より簡単であるが,舵頭材に働く力としては,舵本体に働く舵圧のほぼ半分の力(曲げ荷重)と,A型と同様の振りの力が加わるため,舵板からの立上部の舵頭材は,太くなる。B型の舵には,第8図のような力が働くことになる。




第8-1図 B型の舵に掛かる力 (1)





第8-2図 B型の舵に掛かる力 (2)


(3) C型

この舵は,下の支えがなく,上から吊ってあるのでハンギング・ラダー(Hanging rudder)と呼ばれている。舵頭材には,舵圧による曲げの力が全部加わり,この他に捩じりの力も加わるため,舵頭材の径はB型よりも更に太くなる。したがって,大型の高速船では,舵の面積が大きくなり,舵頭材は樽のように太くなってしまう。このため,考案されたのが,D,E型である。C型の舵に働く力は第9図のようになる。




第9-1図 C型の舵に掛かる力 (1)





第9-2図 C型の舵に掛かる力 (2)



(4) D,E型

D型はA型の下部舵針を舵の中央部に設けたもので,E型はB型の下部舵針を巾央部に設け,何れもshoe pieceを廃し,中央部の舵針を支える部材として,プロペラの後にぶら下った,ラダー・ホーン(rudder horn)が設けられている。この種の舵は,高速の冷蔵運搬船,自動車専用船,コンテナ船等に多く採用されている。


8.7.1.3 特殊な舵

前記の舵の他に種々雑多の舵があるが,時々見かける特殊の舵としては次のようなものがある。

(1) シンプレックス・ラダー (Simplex rudder)

A型の舵の上,下舵針を1本の太い丸棒で継ぎ,上端を船尾骨材にボルトで取り付けたものである。1950年頃までの大型貨物船にしばしば使用され,舵針に相当する部分の面積が大きく取れるため,舵針の単位面積当りの舵圧が少なく,ブッシュの磨耗率は,A型と比べ2倍以上も長く,舵のメインテナンスは楽である。しかし,一旦,ブッシュを変えるような場合,舵の取外しが面倒である。以前、三井造船で建造された船に採用されていたが、最近は滅多に採用されていない。



第10図 シンプレックス舵 (simplex rudder) 舵柱が舵を貫通している。


(2) 反動舵 (Reaction rudder)

A型またはB型の舵の前縁で舵の上下方向の中央部,プロペラの真後ろで,舵の前緑を上,下逆方向に捻った舵である。舵を中央に保った状態で、舵板は上下で航空機の翼のように迎角がついた形になっているため,プロペラの後流により舵板に揚力が生じ,その分力が推力として作用し,推進効率が向上する。30年ぐらい前の高速貨物船に広く採用されていたが,その後はこの種の舵を用いた船は減ってきた。しかし最近の省エネブームで,また,反動舵を装え.た船が増えて来ている。



第11図 反動舵 (Reaction rudder)


(3) その他

旋回性能の向上を目的とした特殊な舵が曳船,漁船などにしばしば用いられている。第12図はプロペラをノズルで囲み,ノズルを回転させることにより,プロペラの水流の方向を直接右舷または左舷に変えて操舵するものである。



第12図 コルト・ノズル式舵
Propeller の周囲のノズルが回転する。
 



第13図は,アクティブ・ラダー (Active rudder)と呼ばれるもので,舵板の中央部に電動機を備え,後縁に小さなプロペラを取り付けた舵である。電源は中空の舵頭材の中を通したケーブルにより給電され,舵板は両舷各々90°回転出来るようにしてある。舵を90°に切って,舵に取り付けられたプロペ回転させると,船首を中心にし,船の長さを半径とした回転ができる。また,前進時に推進用プロペラと併用して舵のプロペラを回転されると,船速は数パーセント増え,一方,主機停止の状態で,舵のプロペラのみを回転させると,微速前進が可能である。




第13図 Active rudder

舵頭材材は中空になっており,その中を電線が通っている。 舵中央部のふくれた部分にモーターが入っていて後部のPropellerを回転させる。



第14図は,フラップ (Flap)付の舵で,舵の後縁に航空機の補助翼のようなフラップを取り付けたもので,舵を切ると,舵頭材とのリンク機構により,フラップが同じ方向に2倍ぐらいの角度に切れ,航空機の離着陸時にフラップを出し,揚力を増すのと同じ理屈で,舵の揚力が増え,小さな舵面積で,大きな操舵性能を得ることができる。ヨーロッパでは,長さ120mぐらいまでの商船にかなり装備されており,日本でも,この種の舵を備えた貨物船が増えてきている。



第14図 フラップ付舵
 




写真5 フラップ付舵 (Becker Ruddeer)  

これは、ドイツの Willi Becker 社が開発した舵で Becker rudder と呼ばれ、中島プロペラ蠅 Becker 社と提携して販売しており、舵自体は尾道にある尾道産業蠅製造している。特殊なリンク機構により舵を切るとこれに連動してフラップが舵角の2倍の角度で動くようになっている。




写真6 フラップを下げ着陸  




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