19.舵の損傷(1)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


何処が壊れ易いか (9)

8.7.2 舵の構造と名称

舵は,舵板本体と舵頭材及び舵針 (Pintle)から成り,舵頭材と舵本体とはボルトで締め付けられているのが普通である。A〜C型の舵を例にとり,各部の構造と名称を第1〜3図に示す。




第1図 舵の構造と名称 (A型)



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第2図 舵の構造と名称 (B型)



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第3図 舵の構造と名称 (C型)



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捕鯨船などはC型の舵で舵心材と舵頭材は一材である。 舵板は下の方が薄く小さくなっている。


舵頭材は鋳鋼の場合と鍛鋼の場合があり,最近は大多数が鍛鋼である。以前は製造が簡単な鋳鋼製のものがかなりあり,出来が悪いと舵板との取付け部フランジ付近に鋳巣や亀裂が発生したことがあった。いずれもフランジの部分と軸受けの部分は機械加工が施される。

舵板本体は,舵頭材の取付け部と,舵針取合部に鋳鋼を配した溶接による鋼板の組立構造物であるが,船体構造と特に異なっている点は舵自体の厚さが薄いため,中に人が入って内側の溶接が出来ないことである。このため,片側の舵板の取付け方法に種々の工夫がなされている。第4図は,戦時中考案され,1960年頃まで各造船所で採用された方法で老齢船の舵はこの方法で舵板が取り付けられている。舵骨に耳をつけて工事を行い,この耳が犬の耳に似ているので,Dog earと呼ばれている。しかし,この方法は,耳と舵板の孔に精度を要し,溶接も不完全であるため,就航後, Dog earの部分の舵板に亀裂が頻発,現在はこの方法は廃止されている。




第4図 Dog ear による舵板の溶接

片側の舵板の上に舵骨を置き、舵板と舵骨を溶接する
反対側の舵板にDog ear のピッチに合わせたスロットをあける
舵板をDog ear にはめ込み、Dog ear の穴を利用して楔を打ち込み、舵板と舵骨とを密着させる
Dog ear の周囲を溶接し、溶接後Dog ear を切り取る


  

現在は,船尾骨材のShoe pieceの項で取り上げたのと同様な栓溶接による方法が専ら採用され,舵板の亀裂は従来と比べ非常に少くなってきている。栓溶接による舵板の取付け方法を第5図に示す。



第5図 栓溶接(Slot weld)による舵板の溶接

舵骨には、予めT 字型になるように平鋼材 (Flat bar)を取り付けておきその上にボルトを溶接しておく。舵板の上に舵骨を置き舵板と舵骨を溶接する。
反対側の舵板にボルトのピッチに合わせてスロットを明ける。
舵板のスロットにボルトを通し、舵板を乗せナットを掛けボルトを締めて舵板と舵骨とを密着させる。
舵板が密着したらナットを一つずつ外し、スロットの周囲を溶接し、溶接が終わったらボルトを切断しスロット部をセメントなどで埋めて平らにする。    
この際、大事なことは Flat bar に乗せるスロットを明けた舵板がFlat barに密着していることである。隙間があるのに無理して栓溶接をすると溶接が不完全になり後日栓溶接のところに亀裂が発生する。






写真1 栓溶接部の亀裂(1)




写真2 栓溶接部の亀裂(2)



8.7.3 舵の損傷

前にも取り上げたように,舵の損傷としては舵板と舵頭材とのボルト取合が外れ,舵が落失するような重大な損傷で,船は航行不能になる。しかし,このような例は非常に稀で原因としては,底触や,水中の大きな異物に舵が接触したような時,たまたま舵頭材取付け部のボルトが弛んでいた時や,舵頭材の材質が不良であった場合に起こる。Hanging rudderを備えた捕鯨船で,舵に頻死の鯨が撃突し,舵頭材が折れ,舵板を南氷洋の底深く沈めた例があった。




鯨の逆襲



また,ある船では,航海中,急にショックを受け速力が落たちので,主機やプロペラを調べたが全然異状はなく,舵を訓査したところ舵本休前縁で,舵板の溶接が切れ,第6図のように,舵板が剥れこれがブレーキになっていたという話もある。これは,舵板が舵の先端で溶接されており,この溶接が不完全であったため溶接が割れたのが原因であった。現在、舵の先端部で左右の舵板を溶接することは許されていない。




第6図 舵板を先端で継ぐのは良くない


このような大損傷は,すべて特異なもので,普通に起こる舵の損傷により操舵不能になるようなことはない。しかし,舵針など舵回転部の軸受けの摩耗が進み,ガタがひどくなると舵が振動し,操舵機に悪影響を及ぼすことがあるので、軸受けの間隙についてはかなり厳しい基準が設けられている。 以下、典型的な舵の泣き所と修理手順を取り上げる。


8.7.3.1 舵板

(1) 舵自体の落失  

C型の舵を付けた捕鯨船が南氷洋で舵に瀕死の鯨の一撃を受け、太さが300个發△訛鋲材材が折損し舵を落失させた事故に就いては前に取り上げたが、A型の舵を備えた船で航行中突然舵が効かなくなり、調べてみたら舵が無くなっていたという事故も稀に報告されている。Cutty Sark が中国からの復航中、アフリカ東岸で舵を失い、予備の帆桁で仮の舵を作り何とか帰航出来たと言う話を聞いたが、現在の大型船ではそんなことは出来ず、航洋の曳船に来てもらい曳航されることになる。




写真3 失われた舵(1)




写真4 失われた舵(2)




写真5 残存していた切断した下部舵針



この重大損傷は A型の舵を備えた2隻に発生しておりB型の舵には生じていない。普通、舵板は第1,2図 に示す様に少なくとも2点で支持されており、この2個所が同時に切断しない限り舵板が外れて海没することはありえない。残存部は写真の通りで2隻とも下部舵針が切断し、上部舵針付近で舵板が切断している。何れも同じぐらいの大きさの撒積貨物船で事故発生時の船齢はそれぞれ10年、7年と所謂、老齢船ではない。両船の要目は次の通りで船名は仮にA丸,B丸としておく。    


A 丸
162.00 x 24.80 x 14.00 - 10.18
16,124.99 G/T
撒積貨物船

1972年5月 幸陽ドック建造
1976年4月 事故発生
B 丸
162.00 x 24.30 x 14.00 - 10.
15,760.00 G/T
撒積貨物船

1970年3月 函館ドック建造
1982年12月 事故発生



一体何故舵が無くなってしまったのか?を考えてみることとする。両船とも気がついたら舵がなくなっていた、とのことで大時化に遭ったわけでもなく、何かが船尾に当たったとの報告もない。従って、残った物の状態で類推するしかない。残存部分は舵板上部のGudgeonから上の部分と、切断した部舵針だけである。どちらかが先に切断し、二次的に他方が切れて舵が海没したと思われる。   

下部舵針はB型の舵にも備えられており、A, Bいずれの場合も海水が舵針の隙間に入りスリーブが銅合金であるため、電気的腐食によって極端に痩せ細っていた例は数多く報告されている。しかし、舵針が切れるほど大きな亀裂が生じていたという報告は見当たらない。このことからすれば、最初に切断したのは上部舵板の個所ではないかと想像され、整流箱の取り付け不良部から舵板に亀裂が発生していたと言う事実は、時々報告されている。この2隻の場合亀裂が進展して舵板後端まで達し上部がぶらぶらになり、二次的に下部舵針が切断、舵が海没したと考えるのが妥当なように思われる。入渠検査の時に整流箱の取り付け部に注意を払う必要がある。また、初期亀裂が生じている場合には当然舵の中にも浸水している筈である。  


(2) 舵板の亀裂

Dog earで片側の舵板が取り付けられている古い船では,相変らず舵板の亀裂が多い。入渠したときに舵板を眺め,舵板の一部が漏れていたり,青サが付着しているのが見つかったならば,亀裂の疑いがある。テストハンマーで舵板を叩くと,重い手ごたえがして亀裂個所から舵の内部に浸水していることが分かる。大型のドックでは盤木の高さが高く,舵の下部が2m以上もあり,背伸びをしてもテストハンマーが屈かない。このときは,渠底に落ちているボルトとかスクラップなどを投げて,舵板にぶつけ,その音で舵板への浸水の有無を碓認することができる。




物が当った時の音で舵内部の浸水を判断する


舵板を叩くことにより,舵内部への浸水が判り,舵板の何処かに亀裂があることが予測されるので,入渠したときの舵板のハンマーリング・テストは欠かしてはならない。亀裂は, Dog earまたは栓溶接のような片面溶接の側に生じる例が多く,第8図のように水平方向すなわち,水平舵骨の位置に生じるのが普通で,上下方向の舵骨のある位置の亀裂は比校的少ない。




第8図 舵板の亀裂は水平方向に生じる例が多い


修埋としては,先ず舵の底板のプラグを外し舵板内に入った海水を完全に排水してから,亀裂部を掘って再溶接するか,その部分に二重張りを設ける方法しかない。しかし,十分な修理方法とはいえず,亀裂再発の例が多く,入渠の度に修理が必要になる。完全な修理をするには,舵を外し,舵板を撤去し,新替えする以外方法はないが,舵の取外しにかなりの手間がかかり亀裂の多い片面のみの舵板を新替えすると,溶接の影響で舵の芯が狂うこともあり,この修理法は滅多に行われない。亀裂により,舵板に水が入っても,舵の浮力がなくなる程度で問題はないが,内部よりの腐触が進行することと,亀裂を放置して,それが進行して舵板の一部が外れたりすることがあるので,無関心で良いともいえない。

舵板の修理が終わったら,底板のプラグを利用して舵板内に圧縮空気を送り,内部を 0.2/㎠ に保ち,修理個所やその他の疑わしい個所に発泡液(石鹸水のような液)を塗り,水密性を確認する。若し,修理が不完全であれば,蟹が泡を吸くように,溶接のブローホールなどより泡が出てくる。この場合,再度修理が必要になる。また、舵板の後端が第8図のような構造の舵では完全な溶接が困難であるため,就航中溶接が切れ,上下方向に亀裂を生じる例がある。このような設計はよくないとされており,第9図のように,丸棒などのEdge barを介して溶接すると,損傷は少ない。




第9図 舵板後端の構造(1)
後端の溶接が外れやすい





第10図 舵板後端の構造(2)
丸棒を介して後端を纏めた例


(3) 腐食

老令船で外板が衰耗して薄くなるように舵板も腐食により薄くなる。しかし,舵板を切替えたり,大きな二重張りを行うと,溶接の歪みにより,舵板の芯が狂うので慎重な工事が必要で、修理後舵の芯の調査が必要になる。芯が,前後方向,左右方向の何れかに狂っていても良好な舵の動きは得られない。写真6に示すように,舵の組立中においても,常時芯の狂に注意が払われており,完成後は舵自休は勿論,舵頭材,舵針を取り付けた状態において舵の芯を調べ軸受けに当る部分が一線上にあることを確認しなければならない。写真7は舵完成後の軸芯の計測状況である。また完成後行った芯出しの結果例を第11図に示す。




写真6 舵の組立
組立中も随時芯の計測を行う





写真7 舵の芯出し
定盤の上に立ててトースカン(height gauge)で定磐から舵の軸芯を測定しているところ





第11図 芯出しの結果


最近,船令2年ぐらいで,舵の上,下部のGudgeon附近に,おびただしい腐蝕が発見される例がある。これは,高速の痩せた船の舵やマリナー型の舵 (D型,E型)に多いようである。これは,エロージヨン(Erosion)と呼ばれ,プロペラの回転によって生じる水流が局部的に速い個所で,流れに泡が発生し,この泡が舵に当ると消滅するが,この際に,ミクロ的に大きな衝撃を舵の局部に与え海綿状に腐蝕させるものである。表面がエロージョンで荒れると,さらに腐食が進行するという,たちの悪いものである。反動舵 (Reaction rudder)では,舵の上下方向で舵板前端を捻った部分にも,エロージョンによる腐食が生じる。これも、完全な対策はなく,舵板については溶接肉盛りや,二重張り, Gudgeon 部のような鋳鋼部は,セメント,デブコンなどで覆う方法が採られるが,船尾骨材のところで述べたように完全なエロージョン防止方法はない。ただし、かなりエロージョンによる腐食が進行しても、舵の強度に大きな影響を及ぼすことは少ない。

また、舵と舵頭材を継ぐボルト(Coupling bolt)や、上部舵針のナットにもエロージョンが生じるので、この部分を予めセメントで包んでいる船もある。





第12図 舵の腐食し易い部分





第13図 エロージョンによる中央交叉部の腐食





写真8 セメントで覆われた舵針のナット
整流箱(Portable box) の落失はこの状態で容易に発見できる。 また、プロペラ翼端の曲がりの有無も調べておく





第14図 マリナー型の舵の一例
Pintleは上,下2個所にある。回りを斜線で囲んだ箱の部分は 取外しが出来 Pintle など Bearing部の状態を調べる時はこれを取外し,舵を持ち上げれば,下図の状態となり,pintleの sleeve、gudgeon の様子を調べることが出来る。マリーマ型の舵を備える船の船尾骨材(Gudgeon 部)は角の様に突出しているので Rudder horn と呼ばれている。(太線で表した部分)



(4) 整流箱 (Portable box)の落失

原則として、船は5年間に少なくとも2回ドックに入れ,船底、プロペラ、舵など通常水面下にある部分の検査を受けなければならない規則になっている。  この際、一般には舵はその構造によって持ち上げるか、下ろすかして、舵針、軸受け の部分の検査が行われる。

A型,D型およびE型以の舵は Gudgeon があるので、舵板がそれにつかえて持ち上げや、下ろすことが出来ない。このため、この種の舵では、舵板の先端の一部が取外せるようになっている。

この部分は、整流箱または Portable boxと呼ばれ舵本体と独立して作られており,溶接個所を切れば簡単に取り外すことができる。第14図はE型の舵の例で,整流箱を外して舵を持ち上げた状態を示している。舵針や軸受け部の検査が終われば舵を復旧してこの整流箱を溶接で取り付けることになる。再度の取付けの際,出渠を急ぐあまり不完全な溶接が行はれたり,航海中、水中浮遊物がこの部分に当ると整流箱が外れて水没してしまう。落失しても操舵には影響はないが,舵のバランスがくずれ,舵頭材に幾分無理がかかることになるので,整流箱が落失しているのが判明したら,次のドックの際に新しく作って復旧しておくのが良い。また,落失していなくても,溶接が切れて落失寸前の状態になっている例をよく見かけるので,入渠した際は足場に登ってこの部分を注意して調べる必要がある。なお舵の持ら上げ方法については後で取り上げることとする。



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