20.舵の損傷(2)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


何処が壊れ易いか(10)


8.7.3.2 舵針 (Pintle)

舵を扉に例えれば,舵針は蝶番のピンに相当する。ただ,この蝶番は,symp1ex rudderでは一材になっており舵柱がこのピンと同じ仕組みになっているが,A型の舵では,上,下各1個,B型では底部に1個のみ取り付けられている。C型の舵には舵針はない。舵針は,上を向いているものと,下を向いているものの二種類があるが,下向きのものを例にとり,その詳細を第1図に示す。回転部分には砲金製のスリーブ(Sleeve)が取り付けられており,摩耗すれば取り換えることができるようになっている。これは,底の無いものと,底のあるものとがあり,その内径は,舵針の径より僅かに小さく加工してあり,スリーブを加熱し,熱膨張によりその内径を大きくし,舵針にはめ込み,常温になったとき一体となるように工作される。これは、焼嵌め(shrinkage fit)と呼ばれる。底のないものは,下端で,砲金のスリーブと,鍛鋼の舵針とが海水中で直接,接触しているため,電気的に舵針が腐蝕し,将来スリーブの弛緩の原因となる恐れがあるので,舵針底面もそっくり包んだ,底付きのスリーブの方が良い。一般的な舵針の泣きどころには,次のようなものがある。


第1図 舵針 (Pintle)
テーパー部の両端にはPackingが挿入され,テーパー部に海水が入るのを防ぐ。
bushとs1eeveとの間隙は新造時0.5〜0.8 (直径で1.0〜1.5)程度である。
ナットには緩まないように廻り 止めが設けられている。



第2図 焼嵌め



(1) 舵針の折損、落失
舵針の大損傷としては,折損,脱落が考えられ,ナットが舵針の上部の設けられているものでは,ナットが弛緩してなくなれば、舵針が下に抜け落ちる可能性があるが,このような大事故は滅多になく、殆どの舵針は上向きに取り付けられている。


(2) ブッシュ (bush) の磨耗
舵針に直接取り付けられているものではないが,スリーブと直接接触するgudgeonのブッシュの損傷は,舵針部の損傷の中でもその半数以上に達している。これは,10,000トン以下の船の下部舵針に多く,その殆どはブッシュの脱落である。その原因は次のようなものが考えられる。

1) 舵軸の不整
  舵の軸は,操舵機の部分における舵頭材上端のベアリングの中心と各舵針の中心が同一線上になければならない。芯が狂っていると,舵軸が味噌摺り運動をし,ブッシュが偏摩耗し,ひどい場合には一部が写真1に示すように磨耗し,遂にブッシュが脱落するものと考えられる。


写真1 新品のブッシュ(左)と磨耗したブッシュ


この対策としては舵を取り外し軸芯の再調査をし,船尾骨材の項で述べたように軸受けを調整する必要がある。しかし,これには,入渠期間を含めて時間と費用がかかるので,入渠のたびにブッシュを新替えする方が安上がりという意見もある。当然のことながら舵の軸および軸受けを含めた船尾骨材の芯は何れも,前後方向と左右方向で一直線上になければならない。

2) 舵針部の間隙の過大
 芯が狂っていなくても,舵針のスリーブとブッシュの間隙が摩耗により増大すると,舵の振動などにより,ブッシュが破損し,脱落することがある。航行時,あるいは停泊中,舵が波に叩かれ,操舵機室で大きな音がすることがある。この原因は,ブッシュの極端な摩耗により・舵針部の間隙が大きくなり,舵針がGudgeonを叩くときの音であることが多い。このようなときは,次の入渠時に,スリーブとブッシュの間隙を調べ,ブッシュの新替えを予定しておくとよい。この間隙は,新造の場合,直径で1.0〜1.5伉度に仕上げられており,就航後ブッシュの摩耗により,これが6mm以上に達していれば,ブッシュの新替えが必要になる。たとえば,小型船で舵針の径(スリーブの外径)が100个両豺,間隙が6个冒えると,ブッシュを新替えせねばならず,大型船で,舵針の径が300个△辰討,間隙が6弌1/4“)以上になればブッシュが新替えされる。軸受けにリグナムバイタ(硬質の木材)を使用したプロペラ軸の場合,間隙の許容値は第1表のとおりで,径が太くなると,間隙も大きな値が許容されているが,舵では径の大小に拘らず6个箸気譴討り,一見合理的でないように考えられるが,昔から洋の東西を問わず,6mmという値が常識的にブッシュ新替えの許容値とされている。


第1表 プロペラ軸受け部の間隙


舵針部を例にとり,軸受け部の間隙の測り方を説明する。これには,舵を持ち上げて正確に計測する方法と,隙見ゲージ(サーチャー)による簡便な方法とがある。

a) 舵を持ち上げる場合
舵を持ち上げると,舵針部は第3図のようになり,パスで,同じ上下方向の円周に対して,前後(F〜A),左右(P〜S)の方向で,gudgeon内のブッシュの内径と,舵針のスリーブの外径とを測り,その各々の差を間隙とする。通常,舵針のベアリング面の上,下端部で測定し記録を取る。


第3図 舵針部の間隙の計測



舵を持ち上げは、第4図の様な過程で行われる。舵針の外径とブッシュの内径を直接測ることが出来る。


第4図 舵の持ち上げ



b) サーチャーによる方法
舵を持ち上げずに測る方法で,入渠しなくても,ダイバーにより計測ができる。


第5図 サーチャー
隙見ゲージFeeler gaugeとも呼ばれる。


サーチャーは,第5図のように,正確な厚さに仕上げた,厚さの違う短冊を束ねたもので,隙間に差し込んで,問隙を測る道具である。計測の様子を第6図に示す。前後,左右,4回差し込んで隙を測り,A,FとP,Sの値の和を間隙とする。B型舵の計測結果の例は第7、8図のとおりで第7図は,サーチャーによる計測結果で、第8図では,間隙は,舵を持ち上げて計測したものである。


第6図 サーチャーによる間隙の計測
右図の舵針では、底部からサーチャーを差し込めないので、
舵とGudgeon の間から差し込むことになり、
端部の間隙しか分からない。




第7図 舵針部の間隙計測結果(サーチャーによる)





第8図 舵針部の間隙計測結果
舵を持ち上げて舵針の外径とブッシュの内径を測ったもの



下から,サーチャーを差し込んで間隙を計測する場合,ブッシュが,舵針より長いときスリーブと接触していない部分のブッシュは摩耗していないので,第9図のように実際と違った,こぐちの部分の隙を測ってしまうことがあるので,このような場合は,スリーブが接触しない部分のブッシュを削ってから,サーチャーを差し込む必要がある。


第9図 誤った間隙の計測
実際の間隙はAであるが、ブッシュの下部は
磨耗していないので B を間隙と誤ってしまう



3) ブッシュの板厚不足,取付け不良
ブッシュの板厚が薄いと外れ易い。また,ブッシュは第9図のように一材で筒型に製作され,これをgudgeon内に圧入する方法と,桶のように,短冊状の木片を打ち込む方法が取られている。前者は材料の歩留りが悪く不経済で,後者の方法が多いが,短冊が正確に仕上げられ,十分に打ち込まれていないと外れる可能性がある。ブッシュを打ち込んだあとで,外れないように,ブッシュ押えとして,鋼製のリングが第3図のように取り付けられるが,舵針の砲金製スリーブの近くに位置するため,電気的腐蝕を受け易く,減失してしまう例もたびたび見られる。リングの取付けは,小さなネジによる場合と,軽い溶接による場合があるが,ネジの頭や溶接部の腐蝕は急速に進むので,ネジは止めて,十分な脚長で溶接した方が良い。リングの代りに第11図のように,四隅に孔をあけた円板のブッシュ押え(bush stopper)もある。


(1)短冊状型ブッシュ    (2)一体型ブッシュ
第10図 ブッシュの構造



第11図 円形のブッシュ押え
四周(前後左右)に小さな穴があり、そこからサーチャー
を差込み、舵針部の間隙が測れるようにしてある。



4) その他
上記の他,舵の振動,水中浮遊物との接触などにより,ブッシュが弛み,脱落することもある。いずれにしても,ブッシュの損傷原因は,以上の各原因が重なりあって起こるもので,ブッシュが無くなっている舵でも舵は正常に動いているようで,そのために操舵に異党を感じたという報告が少ないのは不思議である。次にブッシュの材料について簡単に触れることにする。 舵針部のブッシュは常に水中にあるため,油で潤滑することができず,普通は中米産の硬い木材であるリグナムバイタ(lignumvitae) (写真2参照)が専ら使用されていた。これは,硬度があり,有機物であるため,海水で潤滑することができる特性を有している。しかし,逆に海水にあまり浸されない,頸部軸受けなどに使用すると成績は良くないとされている。この他,スリーブと同じように,砲金製のブッシュを使う場合もあるが,このときは,スリーブとブッシュとは材質を変え,ブッシュの方を幾分軟かい材質とし,摩耗したブッシュを変えるようにしている。


写真2 リグナムバイタ


最近といっても20年以上前になるが,合成樹脂の進歩が目覚ましく,ブッシュにも,ゴム,ナイロン,テフロン,フェノール樹脂など合成樹脂のものが使用されるようになってきた。このなかで,水潤滑用ブッシュとして最も優れているのが,フェノール樹脂で,30年ぐらい前に舵針部にも試用され,リグナムバイタのように,植物としての材質のばらつきが無く,最大許容圧力も350kg/? とリグナムバイタの2倍以上あるため摩耗も少なく好成績をおさめている。今では,リグナムバイタのブッシュの方が珍しくなってきている。

5) ブッシュ新替えの際の注意事項
ついでに,ブッシュ新替えを行う際の注意事項を付け加える。

(a) gudgeonの内面を十分清掃する。
ブッシュの新替えが必要になるような場合は,ブッシュの外面に海水がまわり,gudgeonの内面が荒れ,錆が発生している。このまま,新しいブッシュを打ち込むと肌付きが悪く,じきに外れてしまう。gudgeonの内面は錆打ちをし,肌の荒れぐあいによっては,現場ボーリングで内面を仕上げる必要がある。

(b) ブッシュ受けは,しっかり取り付けられているか
ブッシュは,gudgeonの構造により,上から押し込む場合と,下から押し込む場合とがある。第12図の構造の場合,ブッシュを新替えするためには,舵を持ち上げ,舵針を外さねばならないので面倒であるが,磨耗したブッシュを外し新品を押し込む前にgudgeon内面の手入れができ,ブッシュ受けが,gudgeonと一体になっているので,ブッシュが抜け落ちる心配はない。

第13図のような場合は,舵を持ち上げなくても,舵針を外すだけで,ブッシュを下から押し込むことができる。しかし,押し込んだ後,ブッシュの受けがしっかり取り付けられていないと,前に述べたようにブッシュ受けが外れたり,板厚が薄いと腐蝕して消滅したりして,場合によっては,ブッシュが抜け落ちるおそれがある。第12図の構造のときは,ブッシュ受けが,しっかり取り付けられていることを出渠前に確認しておく。


第12図 ブッシュの押し込み(上から)



第13図 ブッシュの押し込み(下から)




c) ブッシュ新替え後の現場ボーリング
ブッシュ挿入後、舵の芯に合わせて現場でボーリングを行う。第14図はその例である。


第14図 Gudgeon内面の現場ボーリング
短冊状のブッシュを押し込み、内面を舵針の径に合うように
ボーリングを行っている様子を示している



d) ブッシュ新替え後の計測
新替え後,舵針のスリーブとブッシュの間隙を計測し,次回入渠の際の参考として,その記録を入手しておく。

(注) 昔は小型船などで,ブッシュに軸受け用合金のホワイト・メタルを使用した例が多く,ブッシュ新替えの際,古いブッシュを外し,舵針を付けたまま舵針の表面に紙を巻き、溶かしたホワイト・メタルを舵針と gudgeonの間隙の全周に流し込む方法が採られていた。簡単な修理方法であるが,その後の成績が悪く最近では減多に採用されていない。

(3) スリーブ (Sleeve) の損傷

ブッシュの損傷に次ぐのが,スリーブの損傷である。スリーブは前記のように,焼嵌めにより,物理的に舵針に取り付けられており,焼嵌めの工事が悪かった場合や,スリーブより軟いブッシュが磨耗して,舵針部の間隙が大きくなり,ガタが生じた場合には,スリーブが一部で肌浮きし,これが全休に及ぶと,スリーブが弛緩し,ついには脱落するに至る。人渠して,舵を調べたところブッシュは,後かたもなく消滅し,幾らかのスリーブの残片がgudgeonの中に残っていた例もある。先ず,ブッシュが摩耗しgudgeonから離脱し,次に,スリーブがgudgeonの内面で叩かれ,小さく砕かれ,舵と船尾骨材との間の35〜50mm程度の隙間から徐々に落失した結果と考えられる。スリーブの肌浮きの発見法は既に述べたが,第15図のように,指を当てて,テストハンマーでスリーブを軽く叩き,空虚な手こたえがあれば,その部分が肌浮きしていることになる。もし,肌浮きが認められても,その範囲がスリーブの長さの1/3程度であれば,次の1、2年は放置しておいても心配はないが,一応肌浮きしている範囲の記録を取っておき,次の入渠のとき進行しているようであれば,スリーブ新替えが必要になる。スリーブは砲金(BC2またはBC3)あるいはステンレスの厚肉の筒で,新替えするとしても,すぐには入手できない。したがっ.て,1/3程度肌浮きしているのが判ったならば,あらかじめ,スリーブの素材を手配して,本船に保管しておくとよい。


第15図 スリーブの肌浮き



第16図 スリーブの肌浮きの記録




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