21.舵の損傷(3)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


何処が壊れ易いか(11)


8.7.3.2 舵針 (Pintle)

(3) 舵針の亀裂

 ブッシが脱落していたり,スリーブが広範囲にわたって肌浮きしている場合は,スリーブの止リの部分で,舵針に微細な亀裂が生じていることが多い。これは肉眼では判らず,カラーチェックで判る程度で,これが原因で舵針が折損するような例は少ないが,やはり修理をしておく必要がある。軽微な場合は,グラインダーで亀裂部を削り取れば良い。削った部分は後で表面が滑らかになるよう摩いておく。スリーブを新替えせねばならないほど肌浮きが甚だしいときは,この亀裂もある程度深くなっていることが予想されるので,新しいスリーブを焼嵌めする前に,亀裂部をハツリ取り、溶接で肉を盛り,機械加工をし,健全な舵針に復旧させておく必要がある。


第1図 ナットの回り止め


(5) 舵針の腐蝕

スリーブが砲金製であるため,スリーブの止りの個所で,写真1のように舵針が円周状に腐蝕する例が多かったが,これも,スリープの止りの部分にパッキングを嵌める方法が採用されるようになり,腐蝕はかなり少なくなってきている。ただし,小型船で,舵芯材と下部舵針が一体になっている舵では,パッキングをはめることができず,塗装により防蝕を施す以外に手がないので,この種の舵針は多かれ少なかれ腐蝕は免れない。また,スリーブの止り部分の他に,ナットのかかる下のテーパー端部にも腐蝕が生じることがある。新造時にテーパー部の仕上がりが悪くテーパー部が舵本体と密着していないと,そこに海水が入り,腐食の原因となる。この防止策として,ナットが掛かる部分にも,パッキングが入れられるようになってきている。

(1) 右舷側
腐食部を磨きカラーチェックしたら小亀裂が生じている
(2) 左舷側
(3) 前面
テーパーの上端にも海水がまわり腐食の兆候が見られる
(4) 後面 
スリーブが半分ぐらい肌浮きしている


写真1 舵針の腐食



第2図 Oリングの挿入



第3図 舵針部の問題点


8.7.3.3 碁石 (Heel disk)

 舵全体の重量はデッキで吊り下げているのが普通であるが、小型船では、第3図の様に舵の重量を,shoe pieceで受ける例が多い。舵の重量は舵針下面の球面と,Gudgeon 内に設けられた球面によって支えられる。これは,碁石(Heel disk)と呼ばれ,焼入れをした一対の硬い鋼材が使われている。しかし,船が古くなると,碁石が磨耗し,舵が下ってくる。既に述べたように,舵下面とshoe pieceとの間隙が少なくなっているのが判ったら,碁石の摩耗と考えられ,碁石を新替えする必要がある。ただし第3図のように舵針の下面を球面に仕上げ,碁石兼用にした設計の舵は,碁石のみを新替えすることができない欠点がある。
 摩耗が少なければ,舵針を外し端部に溶接で肉を盛り機械加工し,焼入れをすれば良いが,はなはだしい場合は,舵針自体を新替えせねばならないことにもなりかねないので好ましい設計とは言えない。


第4図 碁石の磨耗による舵の垂下



第5図 碁石を兼ねた舵針


8.7.3.4 舵頭材(Rudder stock)


 舵頭材は既に述べたように,舵の種類により,一様な径のもの,上部と下部とで径の違うものがあり,操舵機からの力を舵板に伝える軸の一種である。他の部材と比べると,弱点は少い方で,考えられるものとしては,振れ,曲がり,折損といった程度で、腐食で問題を起こすことはない。以下、順を追って舵頭材の損傷の状態,修理方法などを取り上げることとする。

(1) 捩れ

 船尾の操舵機の個所では舵が中央の位置にあるのに、ドック内で舵を見ると例えば右舷に10度振れているような場合、これは舵頭材材が捩れたことによる現象である。この原因は,すべて他物接触によるものである。座礁,底触をして,離礁をあせるあまり,舵が重いにも係らず,無理をして舵を取ろうとすると,舵板は海底の岩や泥などで固定に近い状態で,操舵機よりの力が加わるので,舵頭材を捩ってしまう結果となる。この他,流木,水中浮遊物の接触により,捩れが生じる例も時々ある。2~3度程度の捩じれであれば適当に当て舵をしてあまり問題にならないが、5度以上捩れると操船に影響を及ぼす。

舵頭材材の捩れは自転車のハンドルの捩れと同じである
前輪が舵に相当し、ハンドルが舵柄 (Tiller) に相当する

 航海中,ある時、突然に舵の効きがおかしくなり,従来と比べ,当て舵の量が多くなったような場合は,舵頭材が捩れている疑が強い。ただ,捩れの角度が小さいと,操舵にはほとんど異常はなく,舵中央の状態でドックに入り,船底を調査する際,前に述べたように,船の真後に立って眺めると,舵がどちらかに振れており,舵頭材の振れに初めて気がつくこともある。(第4図参照) 振れの角度は,どういう訳か15度までのものが多いが,底触により50度もねじれ,同時に屈曲も生じた例もある。捩れた舵頭材を,もとに戻すのは不可能に近く,一端を固定して,他端を逆に捩って修理すると,却って材質を悪化させる恐れもあるようである。ドイツの船級協会 (Germanischer L1oyd) の規則では,舵頭材が振れた場合,捩れの角度が10度を超えた場合は,舵頭材を新替えするよう定めている。単純に10度の捩れといっても、短い範囲で捩れているのか、全長にわたって捩れているのかかでは材質の与える影響は違ってくるので単純に10度と規制するのは不合理と考えられる。何れにしても,舵頭材の新替えといっても,予備品があるわけでなく,新たに製造する必要があり,このためには何十日かの期間を要する。この間,船を遊ばせておくことも出来ず,応急処置として,舵頭材の上端部で,操舵機の舵柄 (Ti1lar) 取付部に掘ってある舵頭材のキー溝で細工する方法が取られる。これには捩れの角度により,次の二つの方法がある。


第6図 舵頭材材の捩れ



写真2 捩れて曲がった舵頭材材


1) 振れの角度が比較的少ない場合

 第4図に示すように,舵頭材と舵柄のキー溝の一方を削り,大きなキーを作製し打ち込む。なお,操舵機の種類によっては,キー溝に細工はせず,そのままの状態にしておき,捩れの角度に応じて,操舵機の位置をずらして完全修理とした例もある。



第7図 キーの調整
捩れの角度が小さい時は、舵頭材と舵柄のキー溝を削って 広げ、大きなキーを打ち込み舵頭材の捩れを調整する。


2) 捩れの角度が大きい場合

 キー溝を細工するだけでは処置できないほど振れた場合は,舵頭材のキー溝を全部溶接で埋め,超音波探傷などにより,溶接部に異状のないことを確認した後捩れに合わせて新しくキー溝を削り直し,捩じれたまま舵頭材を使用する方法が行われている。



第8図 舵頭材の捩れの修理
古いキー溝(実線)を溶接で埋め,舵の捩れ角度θに合わせて 新しくキー溝(点線)を掘り,舵柄の位置を舵に合わせる。


 ただ,この場合,捩れにより,舵頭材に目に見えない亀裂が生じている可能性があるので,超音波探傷,磁粉探傷,または染色探傷(カ.ラーチェック)などの非破壊検査により,異状の有無を調べ,細い亀裂などがあったら,その処置を講じておく必要がある。この方法は,応急修理と考えられ,その後,新しい舵頭材を入手して新替えすることになるが,このままで異状がなければ本修理としている例もある。10度以上捩れた損傷例を第1表に示す。この中で,S丸は1年後に舵頭材は新替えされているが,最も捩れの甚だしいH丸とO丸は,振れはそのままにして,上記 2)の修理で完全修理としている。損傷の状態と,修理後の経過は,次のとおりである。



第1表 舵頭材の振れの一例
※表をクリックすると拡大します。

(1)H丸 貨物船
主要寸法 98.00×15.00×7.70m
建造造船所 佐世保船渠
完成年度 1960年10月
舵頭材の径 180
舵頭材の材料 鍛鋼
舵の型式 B


 本船は,1962年8月18日夕刻,秋田港内において離岸に際し,後進取舵一杯で左回頭中,船尾に衝撃を感じ,その後,舵が効かなくなり,前進面舵一杯でも左転し,操舵不能になったものである。揚荷後,函館ドックに入渠し,舵を取り外して調査したところ,舵頭材が第6図に示すように,約40度左舷に捩れていることが判明した。まず,古いキー溝は,染色探傷により,舵頭材の他の部分は,超音波探傷により異状のないことを確認し,旧キー溝を溶接で埋め捩れに合わせて新しいキー溝を削り舵頭材は軸芯調整のため,上部を全周にわたリ溶接肉盛り削正し,スリーブを新替え,中問軸受部のスリーフレも新替された。修理後,舵の芯出しを行い,軸芯は,次の通りであった。工事は8月30日開始,他の工事が少なかったため,9月6日に完工している。


  後面 左舷 前面 右舷
キャリヤー軸受 0.18 0.20 0.16 0.15
中間軸受 0.10 0.26 0.35 0.20
頚部軸受 0.50 0.85 0.36 0.45
底部舵針 0.80 0.82 0.70 0.68


その後の検査における舵の状態は次の通りで異常はなく、舵頭材は捩れたままで完全修理されたことになっている。ただし、本船は売船され別の船級協会に移ったため1971年以降の記録はない。


1962年中間検査 舵良好
1963年中問検査 舵良好,軸受部の閉隙は次の通りで、
キャリヤー部 F〜A=0.47、 P〜S=0.48
頸部軸受   F〜A=0.80  P〜S=O.77
底部舵針   F〜A=5.00  P〜S=3.50
1964年定期検査 底部舵針部のブッシの摩耗が進行し間隙が次のとおり5.5个砲覆辰討い燭里,ブッシを新替えした他は,異常なし。
頚部軸受   F〜A=1.39  P〜S=2.35
底部舵針   F〜A=5.50(1.20)  P〜S=2.50(1.20) 括孤内はブッシ新替え後の間隙を示す、
1965年中間検査 舵良好
1966年中間検査 底部舵針のブッシ摩耗のため,新替えした他は良好
1967年中間検査 舵良好
1969年定期検査 舵良好
1970年中間検査 舵良好
1971年中間検査 舵良好、各軸受の間隙は次のとおり
キャリヤー部  F〜A=1.40   P~S=3.19
頚部軸受    F〜A=1.90 P~S=2.96
底部舵針    F〜A=1.50   P〜S=1.00




第9図 H丸舵損傷図


(2) D丸タンカー
主要寸法 69.00×11.70×5.85m
建造造船所 四国ドック
完成年度 1961年11月
舵頭材の材料 鍛鋼
舵の型式 B


 本船は,1963年4月,川崎港,東港出口附近の浅瀬に座洲した。日立造船神奈川工場で入渠の上調査したところ,舵頭材は,約50度捩れ,キャリヤー軸受から上部が左舷側に75,船尾側に17亢曲,キャリヤー取付部の甲板が,下から突き上げられているのが判明した。また,操舵機も,追従装置のレバーが屈曲し stopperが押し倒されていた。修理は,同工場において行われ,屈曲した舵頭材を加熱により曲り直しをした後,古いキー溝を溶接で埋め,舵頭材の振れに応じた位置に新しいキー溝を削正した。他の工事も含め,修理には2週間掛かり,1973年4月24日完工した。その後の経過は,次のとおりで,捩れたままの舵頭材を使用しているにもかかわらず,異状なく航行を続けている。


1963年11月 中間検査  舵には異状はなく,軸受部の間隙は,次のとおりであった。
頸部軸受      F〜A=1.30   P〜S=2.00
底部舵針      F〜A=1.30   P〜S=1.70
1964年11月 二種中間検査  舵良好
1965年10月 一次一種定期検査  舵に異状なく,軸受部の間隙は次のとおり
キャリヤー部軸受    F〜A=0.67   P〜S=0.12
頸部軸受       F〜A=0.56 P~S=0.80
底部舵針       F〜A=1.90 P~S=2.20
1966年9月 二種中間検査   舵良好
1968年2月 一種中間検査   舵良好
軸受け部の間隙は次のとおり
キャリヤー部軸受   F〜A=0.35   P〜S=0.37
頸部軸受         F〜A=1.30   P〜S=1.90
底部舵針       F〜A=2.80   P〜S=4.10
1969年2月 二種中間検   前年の検査記録では,底部舵針の間隙が比較的大きくなっているが、この時の計測ではP〜S方向で,その値は減少している。一般に,舵やプロペラ軸の間隙の計測値は測定した位置,方法によりこの程度の相違がでることは普通である。
キャリヤー部軸受    F〜A=0.95    P〜S=0.63
頸部軸受        F〜A=1.06    P〜S=2,40
底部舵針        F〜A=3.00    P〜S=3.00
1969年8月 一次二種定期検査  舵良好
1970年7月 二種中間検査     舵良好
1971年6月 一種中間検査  底部舵針部のリグナムバィタ・ブッシの摩耗が進み,間隙が大きくなっていたので,ブッシを新替えした他は,すべて良好,新替え後の各部の問隙は,次のとおりであった。
キャリヤー部軸受  F〜A=1.40     P〜S=3.90
頸部軸受       F〜A=1.90     P〜S=2.96
底部舵針       F〜A=1.50 P〜S=1
1972年8月 二種中間検査 舵良好,本船は売船されシンガポール籍となる。
1973年10月 一次三種定期検査 舵良好
1974年9月 中間検査 舵良好
1975年8月 中間検査 舵良好
1976年9月 中間検査 舵良好
軸受部の問隙は,次のとおりであった。
頸部軸受    F〜A=0.4   P〜S=0.4
底部舵針    F〜A=0.4   P〜S=0.4
1977年7月 中間検査 舵良好
1978年10月 中間検査 舵良好
1979年1月 船底検査 舵良好
軸受部の間隙は,次のとおりであった。
頸部軸受    F〜A=0.5  P〜=0.5
底部舵針    F〜A=0.5  P〜S=1.0
1979年10月 中間検査 舵良好
1979年12月 船底検査 舵良好
軸受部の間隙は,次のとおりであった。
頸部軸受    F〜A=0.8,  P〜S=1.20
底部舵針    F〜A=0.5  P〜S=0.57
1980年10月 中間検査 舵良好
軸受部の問隙は,次のとおりであった。
頸部軸受    F〜A=0.9  P〜S=0.7
底部舵針    F〜A=0.4  P〜S=0.5


  本船は,1982年11月で船令21年になるが,上記のとおり,舵には異状はなく,シンガポールを中心として稼動していた。1971年以降,底部舵針部の間隙が殆ど進行していないのが不思議である。原因としては,1971年にブッシを新替えしたときにリグナムバイタの代りに,摩耗の少ない、合成樹脂製のものが採用されたことと,売船後の本船の稼動率が低かったことが考えられるが推測にすぎない。
 捩れたままの舵頭材材を使用したこの実例は,名医と言われる老練の検査員によって,舵頭材が捩れた時の処置がなされたものであるので,この例によって,同様なすべての損傷に対し,舵頭材の振れの限度を40度あるいは50度までと認めるには,いささか不安がないとは言えたい。しからば,何度以上振れたならば,舵頭材の新替えが必要になるかということが,常に問題になる。ドイツの船級協会GLのように10度を限度としても,これは,どの程度学問的に研究されたか不明で,一概に10度の振れといっても,舵頭材の全長,例えば3mの範囲で一様に舵頭材の.全長にわたって舵頭材の一部で一様に捩れた場合と同じ舵頭材での一部で捩れた場合とでは、損傷の程度は大きく異な、前者は単位長さ当たり10/3度捩れたのに対し、後者では第7図のように、6倍以上も捩れたことになり、対策も当然異なってくるべきである。



第10図 舵頭材の捩れの状態
捩れの角度は同じでも,舵頭材の一部で振れた方がたちが悪い


 しかし,実際の舵頭材では,新造時に軸に基準線は書かれていないので,全体のどの範囲が振れているのか調べようがなく,この辺に捩れの許容限度を決められない理由の一つがある。  船令が若い場合は,新造時に舵の芯出しを行った際の罫書き線が,舵頭材の前後,左右方向に残っていることがあり,スリーブの部分を良く調べれば,前後左右を示すポンチ・マークが残っている可能性もある。新造のときに軸の基準線をあらかじめ刻印しておけば,将来,案外役に立つことがあるかも知れない。
参考までに,鋼索の試験について付記するが,鋼索の試験には,索自体の切断試験の他に,鋼索をバラバラにして,その素線に対して行う捻回試験と,捲回試験とがある。このうち稔回試験は,その素線の1本ずつに対し,その一端を固定し,他端を回転させ,素線を捩り,規定の回転数未満で素線が切断すれば,如何に索自体の引張り強さが大きくても,その鋼索は不合格になるという,素線の捩り強さを判定する試験である。マストのステーなどに使用される3号索(6x19)で,径が53个里發里鯲磴砲箸譴,素線1本の径は4.0个,これの一端を掴み、長さ400mのところで捩り,捻回試験機にかけたとき,切断するまでの回転数は17回以上と定められている。すなわち,直径4.0个旅欹用鋼線は,長さ400个糧楼呂17回(17×360°= 6,120°)未満の捩りでは切断しないことになっている。舵頭材と鋼索用素線とは材質が異なり,表面の肌も違うので,簡単に比較はできないが,360°あるいは720°ぐらい捩っても切断したりする恐れはないのではなかろうかとも考えられる。




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