22.舵頭材,軸受け


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


何処が壊れ易いか(12)


8.7.3.3 舵頭材 (Rudder stock)

(2) 舵頭材の曲りと折損

 普通の運航状態が続けば,如何に船令が古くなっても,舵頭材が曲ることはない。曲る原因としては,底触,座礁などによるものが殆どで,この場合は,多かれ少なかれ捩じれを伴うものである。稀な例として,舵頭材最頂部の軸受けと,操舵機の舵柄までの距離が長いと,操舵機の力で,軸受けから上の舵頭材が曲げられることがある。これは設計不良によるもので,最近の舵では,舵柄は,軸受けの直上に取り付けられているので,この種の損傷は起こっていない。底触などにより,舵頭材が曲ったときの修理としては,振れの項で述べたように加熱して,プレスなどで圧して矯正することが普通に行われている。加熱温度,加熱範囲,支持点、外力の加え方とその大きさ,曲り直し後の熱処理など,具体的な方法については,冶金の専門家の指示を受ける必要がある。これらのうちの一つを誤っても曲り直し後,材質の変化,残留応力などにより,折角直った舵頭材を切損することもある。
3万トンのタンカーM丸は,完工後の第2航でペルシャ湾に向かって航行中、アラビア海で船尾に衝撃を感じ,急に船体が左舷に回頭しはじめた。ただちに主機を停止して調査したところ,直径460个梁鋲材が完全に折損し,舵は左舷に振り切っているのが判った。応急処置として,舵板にワイヤーロープを取り付け,係船機で操舵を行いカラチ港に到着,そこで,仮修理として,折損部全周に,深さ50个粒先を掘って,溶接で切断した舵頭材を継ぎ,その上に,短冊状の二重張りを施し,日本まで自航した。折損の原因は完全につきとめられなかったが,舵頭材の履歴を調査したところ,舵頭材の製造時に,次の手直しが行われたことが判明した。  まず,舵頭材を鋳造し,加熱鍛造後,芯を調べた結果,曲りが発見された由である。このため,炉内で局部加熱を行い,プレスで曲り直しを施行,焼なましとしては,曲り直し後に,温度870℃、10時間保持,炉中冷却が行われている。折損個所は,曲り直しを行った位置と一致しているようで,プレスによる曲り直しに何等かの無理があり,高い残留応力が残ったことと,局部加熱による材質の劣化が,折損の原因の一つではないかと推定された。このように,専門メーカーで行われた曲り直しにおいても,切損の原因となるような欠陥を内在させたと思われる節があるので,舵頭材の曲り直しは,経験のない工場で安易に行うのは危険である。


第1図 M丸の舵頭材の折損


第2図 折損した舵頭材の仮修理


写真1 舵頭材の切断面


(3) 舵頭材の腐蝕

 舵頭材が,Rudder trunkの中で,海水に接する部分の軸受け部で,舵頭材に腐蝕が生じることがある。舵は、強度上は,C型のHanging rudderでは,2点,その他の舵では,3点で支持されれば十分であるが,舵頭材が特に長い場合や,舵の振動を少なくする目的で,支持点(軸受け)を増し,中間軸受け(Intermediate bearingまたは(Steady bearing)を設けたものがある。舵頭材が腐触するのは,この中間軸受け部と頸部軸受け部で,その個所の舵頭材にスリーブを設けずに径を太くしたままの舵頭材では,往々にしてはなはだしい腐蝕が起こることがある。これは,船をドックに入れて,舵を第4図のように持ち上げないと発見は困難である。
 なお,舵の種類によりC型,マリーナ型 (D型,E型)では,持ち上げずに下げることになる。これは,鍛鋼または鋳鋼の軸と,銅合金系のブッシが,海水を媒介にして起こる電気的腐蝕で,海水に接する軸受けの部分は,舵頭材にスリーブを巻くのが常識と考えられる。修理方法としては,程度に応じて,防蝕剤を塗布したり,舵頭材を取り外し,腐蝕部を溶接で肉盛りする方法が行われている。しかし,最近, 溶射(Melta1izing)の技術が進み,メタライジングによって修理する例も見られる。メタライジングとは,溶けた金属を圧縮空気によって霧状にし,それを物体の表面に吹きつけ,表面に金属の被覆をつける作業のことである。これは、舵頭材の腐蝕個所を削り取り,深さ1.0伉度の溝を溶射部に多数掘って表面を粗くしてから鋼や,ステンレスなどを吹きつける方法が採られる。ただし,溶射の技術が悪いと,溶射した膜が剥離することがあるので,十分に経験のある業者に作業を依頼する必要がある。

8.7.3. 軸受け

(1) 構造と種類

 舵の軸受けは,既に述べたように,舵針,頸部軸受け,中間軸受け,頂部軸受け(これは,ラダーキャリヤーと一体になっているものが多く,キャリヤー軸受けとも呼ばれ頂部軸受けという言葉は,あまり使われない)の4種類がある。舵頭材は,船体を貫通するので,推進器軸と同様,海水が船体内部に浸入しないよう,水密を保つためのグランドが必要で,これは軸受けの中に組み込まれている。舵針については,既に取り上げているので省略するが,各種の軸受けの構造例を第3図に示す。軸受けに必要な潤滑は,頸部,中間軸受けでは,舵針と同様,海水による潤滑が行われており,中間軸受けは,位置によりグリスで潤滑されるものがある。キャリヤーベアリングは,グリスか一般の潤滑油が使用される。


第3図 舵軸の支持方法
※画像をクリックすると拡大します。


第4図 舵の持ち上げ(扛挙)
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第5図 Rudder carrier の一例


第6図 Rudder carrierの構造


第7図 パッキングの無い頚部ベアリング(Neck bearing)


第8図 Stuffing box 兼用の頚部ベアリング(Neck bearing)


第9図 中間軸受け(Intermediate bearing)

(2) 軸受けの損傷

1) 破損

 軸受け本体は,鋳鋼で作られており,座礁で船尾部に大損害を受けた場合でも,下からの突上げにより軸受けが割れるようなことは減多にない。もし,割れた場合は新替えするより他に方法はないが,新しく軸受けを作るのには 時間が掛かるので応急修理として,メタロックによる修理が考えられる。メタロックについては,第4回で取り上げたので'参照願いたい。写真2は,タンカーの荷物油ポンプのケーシングに生じた亀裂をメタロックによって修理した状態を示したものである。


写真2 タンカーの貨物油ポンプケーシングの亀裂に対するメタロックによる修理


写真3 主機 Crosshead bearing のメタルの剥離


写真4 主機 Crosshead bearing の焼損


写真5 発電機ターボチャージャーの Thrust bearing の焼損

2) 軸受けの磨耗
 
  主機や補機のように連続して高速回転する軸の軸受け部には焼損,メタルの剥離などの損傷がしばしば発生する。しかし,舵の軸受けでは,このような損傷は減多に起きない。舵の軸受けの場合は,ブッシまたはスリーブが摩耗したり、ブッシが落失して,舵頭材との間隙が大きくなるための舵の振動,グランド押えが舵頭材に接触することによる舵頭材の摺り傷発生などの事故がある。舵頭材の軸受け部の間隙は,舵針の項で述べたような画一的な基準はなく、状況に応じて,ブッシュまたはスリーブの新換えが行われているのが実情である。
 頚部軸受け,中間軸受け,キャリヤー・ベアリングにつき,軸受け部の間隙の実例を第11〜13図に示す。
 これは,船の大小,船令,船の種類には無関係に,約160隻を無作為に選び前後方向、左右方向の間隙を示したもので、中間軸受け,頸部軸受けの点が少ないのは,160隻のうち,中間軸受けを有するものが53隻,頸部軸受けを有するもの(B型,C型の舵)が80隻であったためである。また,問隙は,一応:,軸受けの下部での値を示している。一般に,下部の間隙の方が上部よりも大きいのが普通である。間隙が大きくても,修理が行われていないのは,上部から測った値が小さかったり,過去の記録から見て間隙の増加の割合が少なく,まだ数年はブッシの新替えの必要はたいと判断されたものである。

a) 頚部軸受け(Neck bearing)

 第12 図から,間隙は,前後方向より左右方向の方が大きく,間隙が4.0mmを超えると,急激に左右方向の摩耗が進むことが推察される。間隙の限度としては,3.0舒焚爾任△譴侈簑蠅呂覆,3.0〜4.0个注意信号で,4.0个鯆兇┐譴,赤信号で,ブッシの新替えが必要になると考えられる。


第10図 ブッシュ磨耗によるスリーブの傷

b) 中間軸受け (Intermediate bearing Steady bearing)

 中間軸受けは規則では要求されず,最近は,これを省略した船が多い。したがって間隙が大きくなっても心配する必要はない。
 間隙が大きくなり,その部分で,舵頭材の腐蝕が進行し,また,舵針の間隙も大きくなり,ドックのたびに,舵針部のブッシを新替えしていた船があった。思い切って中間軸受けのブッシュを撤去し軸受けの機能を失わせたら,その後,舵針の間隙の進行もおさまった例がある。

c) キャリヤーベアリング (Carrier bearing)

 舵頭材の最上部で腐蝕も受けないため,間隙は,老令船になっても,殆ど増加せず,2.0舒焚爾砲さまっており,前後,左右とも同じ様な間隙を保っている。2.0舒米發安全圏,2.0〜3.0个要注意,3.0个鯆兇┐討い譴,要修理と考えてよいようである。

第11図 中間軸受けの間隙


第12図 頚部ベヤリング(Neck bearing)の間隙


第13図 キャリヤーベアリング(Carrier bearing)の間隙

8.7.4 ラダー・キャリヤー(Rudder carrier)

 操舵機室の甲板にボルトで取り付けられ,舵頭材の最上端を支えると同時に,舵の重量を支える推力軸受け(Thrust bearing)をも兼ねており、船外からの海水が船内に浸入するのを防ぐためのパッキンをも併せて備えたものもある。主機の推力軸受けと同様な働きをするが,主機の場合はプロペラより推力を受け,前進,後進の水平方向の力を支えるが,ラダー・キャリヤーは,舵自体の重量,すなわち,垂直方向の力を支えるものであるため,主機の推カ軸受けとは,かなり異なった構造をしている。小型船では.既に述べたように,舵針の上または下に碁石があり,これで舵の重量を受けるものがあり,この場合は,ラダー・キャリヤーはなく,単なる軸受けが備えられているだけである。


第14図 ラダーキャリヤーによる舵の重量受け
舵はラダーキャリヤーでぶら下がっている


(1) 構造

 本体は普通,鋳鋼で作られており,上から順に、舵の重量を受ける,砲金製の重量受けの円板(carrier disk, thrust disk),舵頭材の横方向の動きを支える軸受け,その下にパッキン,最下部には舵が上に飛び上るのを防ぐための飛び上り止め(Jumping stopper)の4つの部分から成り立っている。構造の一例は第5, 6図のとおりである。飛び上り止めが,舵本体とgudgeonの間に設けられているものは,飛び上り止めは省略されておりB型の舵で,頸部軸受けにパッキングが設けられているものは,パッキンは省略されている。なお,重量受けに,軸受け専門メーカーのスラスト軸受けを使用したもの,パッキンの代りに,シール専門メーカーのオイルシールが使用されているものもある。

(2) ラダー・キャリヤーの損傷

1) 据付けボルトの弛緩

ラダー・キャリヤーの据付け方法には次の二つがある。
a) リーマーボルトで,甲板に締めつける。
b) ボルトで甲板に取り付け,楔で固定する。
ラダー・キャリヤーの取付けボルトまたは,楔をテストハンマで叩き,空虚な音がするときは,弛んでいる証拠であるから,増し締をしておく必要がある。
なお、楔は第15図の様に同じ方向で打ち込むと舵軸の回転により緩むので右図のように打ち込む。楔を用いる場合の利点は、各楔の打ち方によりキャリヤーの位置が自由に調整でき、舵の芯出しが容易に出来る点である。

2) 重量受け円板 (carrier disk, thrust disk)の焼損

 ラダー・キャリヤーの損傷の中で,最も頻度の高いもので,円板には,写真6に示すような摺り傷が生じる場合と,一様に摩耗して厚さが薄くなり,その分だけ舵全体が下に落ちる場合とがある。原因は,潤滑不良によるものが普通で,グリス・ニップルが詰っていて,グリスが十分にまわらない場合やグリスの補充を忘れた場合に生じる。このため,最近では,グリスによる潤滑を止め,ディスク面を潤滑油の中に沈める構造のものが採用されるようになっている。  なお,普通に潤滑を行っていても,ディスクに傷が生じることがある。これは,鋳鋼製の舵軸受けの摺動面に砂噛みなどの欠陥があるためで,舵軸受けの摺動面に傷などが発見されたら,削り取って平滑に仕上げると,ディスクの損傷は止る。ディスクが摩耗して薄くなっていたり,ひどい傷が生じているのが発見された場合,ディスクを新祷えする必要があるが,銅合金のディスクを製作するのには時間が掛かる。応急手当てとして、ディスクの下に摩耗した分の厚さのライナーを挾む方法,局部的に深い傷が生じているときはディスクの裏表反転させ、新しく油溝を掘って使用する手法がとられる。


写真6 注油不足による Carrier disk の傷
油溝は完全に消滅している



写真7 Carrier diskの摺傷


第15図 舵を持ち上げた状態でのキャリヤー
舵を持ち上げるとCarrier disk の面と舵頭材のスリーブの肌を調べることが出来る



第16図 Carrier disk とブッシュ
(B)のように一体になっているのは好ましくない。一般にdiskの方がブッシュより磨耗しやすい。Disk が磨耗した場合、 (A) ではdisk のみを新換えすれば良いが、(B)では一体になっているのでブッシュも同時に新換えすることになる。


3) 軸受け部の摩耗

 軸受け部の摩耗については,軸受けの項で取上げたので省略する。軸受け部のブッシの摩耗がひどくなると,第10図のように鋳鋼製のブッシ受けや,パッキン抑えが,舵頭材のスリーブと接触して,舵頭材に傷をつけ,スリーブの新替えが必要になることがあるので注意を要する。

4) 飛上り止め (Jumping stopper)

 何らかの原因で舵が下から突き上げられた時に、舵取機を保護するために舵が上に上がらない様に飛び上がり止めが設けられている。これはキャリヤーの下に取り付けられている場合と Gudgeon に取り付けられている場合がある。飛び上がり止め自体の損傷は例を聞いていないが,飛び上がり止めとキャリヤーとの間隙が大きくなっていると、何らかの原因で舵取機を破損させることがある。ラダートランクに入り,飛上り止めとラダー・キャリヤーの間隙を調べておくと良い。


第17図 飛び上がり止め(Jumping stopper)
舵が突き上げられたとき,AがBに当り操舵機を保護する。AとB の間隙は2mm以下とされている。ディスクがまたは碁石が磨耗すると,舵が下がりAとBの間隙が大きくなる。逆に.A,Bの間隙が大きいときは,ディスクまたは碁石が磨耗している疑いがある。
面倒でもRudder trunkの中に入って飛び上がり止めの間隙を隙見ゲージで計っておく。


 この隙間は,新造時2舒焚爾砲さえられており,この間隙が大きすぎれば,舵は下がっていることになり,キヤリヤー・ディスクあるいは,舵針の碁石が摩耗して薄くなっていることが間接的に判る。ラダー・キャリヤーを調べる際に,ついでに,操舵機のラムからの油漏れを調べておくと良い。往々にして,ラムのグランドの締付けボルトが弛んでいたり、ラムの摺り傷が発見されることがある。

 また,ラダー・キャリヤーのライナーが,第18図のように甲板の上に乗っておらず,甲板に差し込んで,隅肉溶接で取り付けられている船で,ライナーと甲板との溶接が切れて,ラダー・キャリヤーが,落ちた事故があったので附記しておく。


第18図 キャリヤーのデッキへの固着





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