24-1.艤装数,錨一般


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


2. 艤装品

 艤装(Equipment) という言葉は,元来,船に使われる言葉で,普通,広義と狭義の使い方がある。広義の艤装とは,船体に取り付けられる部材を意味し,甲板艤装として艙口蓋,係船装置,楊貨装置など,管艤装として各種の配管,弁関係,あるいは,機関関係の機関艤装、電気艤装などが,すべて艤装と呼ばれている。鉄道車両の工場でも,電気関係,座席など車体に部品を取り付ける工事を艤装工事と呼んでいるのは面白い。


写真1 車輛工場


 狭義の艤装となると,その内容は,次の4種に限定され,これらを総称して艤装品(Equipment)と呼んでいる。

(1)錨
(2)錨鎖
(3)曳航索
(4)係船索
大索
小索
Anchor
Anchor chain
Tow line

Hawser
Warp

 ここでは,狭義の艤装品を取上げることとする。これらの艤装品は,船の大きさにより,重量,寸法,数が決まり,それには,船の排水量,正面積,側面積が関係する。艤装品を定めるための値は艤装数(Equipment Number)と呼ばれ、次の算式で表される。

EN = W⅔ + 2hB + 0.1A

ここで、
W : 満載排水量(t)
B : 船の幅(m)
h =f+h’

f : 満載喫水線から最上層全通甲板の,船側における上面までの距離(m)
h’: 最上層全通甲板から,幅が1/4を越える船楼または甲板室のうち最も高い位置にあるものの頂部までの高さ(m)。
 判り易く表わせば,第2項のhBは船を正面から見たときの,満載喫水線上部の投影面積に相当する。(第1図の(2))
 A = fL+Σh"l から判るようにfLは,満載喫水線上の船体の側面積に相当する(第1図の(3))。Σh" lは,いささか,いやらしい式であるが,最上層全通甲板よりも上にあって,幅が,船の幅の1/4 を越え,高さが1.5m以上の船楼,甲板室又はトランクの高さh"と,それぞれの長さlの積の和 ()である。
 第1図の例では,(3)を意味し,上甲板上の船楼,甲板室全体の側面積ということにたる。なお,煙突,檣などは,どんなに大きくても算入されない。以前は,艤装数は,各船級協会によって取扱が異なり,ABの規則で建造された船を購入し,船級をNKあるいはLRに変えると,場合によっては,錨を大きなものに取替えたりせねばならない面例なことが起った。そこで,各船級協会が集まり(国際船級協会連合, International Association of Classification Society,IACSと呼ばれる),艤装数を統一する作業が行われた。これにより錨、錨鎖、索の規則はどの船級協会でも同じ取扱になった。上記の算式は一見すると頭が痛くなるような式であるが,模型化して表わせば,第1図のようなもので,錨泊時の潮流,風による船の抵抗を間接的に表わしたものと言える。


第1図 艤装数ENの意味
※画像をクリックすると拡大します。
EN =W⅔ (1)+2hB(2)+0.1A
A=fL(3)+Σh"l(4)
(1)〜(4)は図に対応している


 なお,参考までに、この統一規則が出来るまでは,艤装数は次の式で表わされていた。

EN = L(B+D) + 3/4Σ(hl) + 1/2Σ(h’l’)

 ここでは,L.B.Dは、それぞれ船の長さ,幅・深さで,第二項のhとlは,船楼の高さと長さ,第三項のh'とl’は,甲板室の高さと長さである。これを模型化して表わせば,第2図のとおりである。普通,艤装数と,それによって決まる錨、錨鎖など艤装品の数,大きさ,寸法は,中央断面図に記入されている。船体を補強して,喫水を増せば,長さが変ることは前に述べたが,当然船の長さ、排水量も増えるので,喫水を増せば,錨や,錨鎖を一段大きなものに変えなければなたらなくたる場合もある。ついでに,鋼船規則による艤装数に応じた錨、錨鎖、索の数量、大きさを規定した表を第1表に示す。


第2図 古い規則による艤装数
※画像をクリックすると拡大します。
EN=L(B+D)(1)+3/4Σ(hl)(2)+1/2Σ(h’l’)(3)


2.1 錨(Anchor)

 東京読売新聞写真クラブの2,002年度第一回月例会で最優秀賞を取ったのが次の写真である。


写真 2仲間に入れて!


評として次の文章が掲載されている。
“停泊中の船のイカリに止まって羽を休めるカモメの一群。仲間に加わろうとはばたきながら様子をうかがう一羽のカモメが絶妙のタイミングでとらえられています。黒いバックが効果的です。”

 日本では年々船に対する関心が薄れてきており、著名な書店に行っても船舶関連の本は片隅に追いやられ2~3段ぐらいしかない。しかし、この写真はどう見ても鎖(錨鎖)にカモメが止まっているもので、大型船のイカリのシャンクに止まっているとは思えない。いくら何でも大新聞の記事でイカリと鎖の区別が分からないとは情けない時代になったものだ。そうして中国などの安値攻勢により、日本の錨製造業の殆どが廃業に追い込まれてしまったことも大変残念なことである。さて、蛇足が先になったが、ここでは、錨に就いて取り上げることとする。

2.1.1 種類と構造

 錨も,舵と同様,多くの種類があり、ロンドンの科学博物館には世界各地の錨の模型が展示されており、高松にある四国村の漁民の家では各種の小型船用錨を見ることが出来る。
 錨には色々な特許も登録されている関係もあるのか国際規格(ISO,International Organization for Standardization, 国際標準化機構)には錨鎖の国際規格はあるが、錨の国際規格は無い。しかし、日本ではJISに錨の規格があるのは不思議なことである。
 現在、最も普通に使用されているのは,無銲錨(Stockless anchor)で,船首の両舷にぶら下っているのは,殆どが,これである。この他、特定の港に寄港する船で中錨(Stream anchor)として、有銲錨(Stock anchor)を船尾に備える船もある。最近,海底への定着が良いとされる,高把駐カ錨(High holding anchor、AC-14型とも呼ばれる)が,大型船に採用されるようになってきている。この錨を用いると,錨の重量は25%減量できる利点がある。つまり艤装数により,20tの錨が必要な場合,高把駐カ錨を使用すれば,15tのもので良いことになる。一般的な錨の構造と各部の名称を第1~3図に示す。船のシンボルとしての錨は色々なマークとして使われている。典型的なしるしは帝国海軍の帽章で、これは有銲錨をかたどったものであるが、三次元的な有銲錨を平面で表すことが出来ないのでストックを90度回転させ平面で表しており実際にこのような形状の錨は存在しない。


第3図 有銲錨(Stock anchor)



第4図 無銲錨(Stockless anchor)



第5図 無銲錨の構成



写真3 高把駐カ錨



写真 4帝国海軍の帽章
上の横棒(ストック)は面に垂直に貫通しているので平面では表せない


2.1.2 錨の歴史

 古代の錨は大きな石であった。石を綱で固定し綱の他端を船に固定しておき、石を海中に投げ込み船を固定させた。しかし、流れが速かったり風が強かったりすると、石の重さだけでは石が曳きずられて錨の役目をしなくなる。このために、第4図のような木の根が使われる例もあった。これだと枝に相当する部分が海底に突き刺さり石よりも強い把駐カを得ることが出来た。何れも小型船に対するもので、船が大型化するにつれて木の根でも不十分であることが分かり改良が行われた。既にギリシャ、ローマ時代には第5図の様な現代の錨の基礎になるような形の錨が出現している。時代が進み大航海時代の錨は第7図の通りでローマ時代とは基本的に変っておらず現在の有銲錨に至っている。
 錨の重さも錨鎖の長さ、径もその船の艤装数によって決定されるが、参考までに載貨重量48万トンの日精丸の他、代表的な船の錨の重さと,錨鎖の径を第1表に紹介する。


第6図 古代の錨(木材)



第7図 ローマ時代の錨



写真 5元寇の役に来襲した元の船の碇石
箱崎神宮に次の説明文とともに展示されている。

蒙古軍船碇石
福岡県 文化財
 文永11年(西暦1,274年)10月20日蒙古軍3万は、九百隻の艦船に乗って博多に迫り、終日わが軍と激戦を交え、本宮も兵火によって、焼失したのであったが、翌21日朝には、意外にも湾内から姿を消してしまった。世上これは神風によるにのだという。
古来博多付近には蒙古軍船の碇石と称するものが十数本あり、肥前から壱岐にかけても五本ほどあって、いずれも海中から引揚げられたものであるが、場所がら歴史的記念物あるとして珍重されてきた。
 この碇石は博多港中央波止場付近の海中から引揚げられた六本中の一本であって、石質は赭色凝灰岩である。この種の石材は蒙古軍の造船地であった朝鮮全羅南道長興南方の天冠山に求めることができる。



第8図 蒙古軍船碇
上記説明文に記載されている図をもとに作図したもの



第9図 大航海時代の錨
Stock は木製、錨体は錬鉄で5〜6丁も積まれていた



写真6 日清戦争当時の清国戦艦“定遠”の錨
岡山郊外の鼻くり塚に保存されており製造時の刻印もはっきり残っている



写真7“定遠”の錨に刻まれた刻印の一部


第1表 錨の重さと錨鎖の長さ、径


 古代より錨に対する考え方は変っておらず,現在の錨と比べ思想的には大差はない。科学技術の進んだ現代においても,錨は最も進歩の遅れた物の一つと考えられる。もし,画期的な錨を発明したならば,間違なく大金持ちになるであろう。

2.1.3 錨の製造法と検査

 現在,最も普通に使用されている無銲錨を例に取れば,第5図からも判るように,錨冠(crown)と錨柄(Shank)が,錨の主要部分になっている。これらは,別個に鋳造される。鋳造後,熱処理が施され,材料試験と化学成分の分析が行われ,材質が確認される。これに合格したcrownとshankに対して,続いて,落下試験(Drop test)と鎚打試験 (Hammering test)が行われる。これは,第6図のようにcrownとshankに対して行い,クレーンで4mの高さまで吊り上げ,深さ1mのコンクリートの上に設けられた,厚さ75个旅殀彎紊僕邁爾気擦觧邯海,鋼盤に落下撃突した瞬間は火花が飛び地響きがして、出来が悪ものは、この落下試験で折れたり、亀裂が入り不合格になることは言うまでも無い。


写真8 落下試験
CrownとShank とは別々に落す。出来が悪いと衝撃で折れることがある。今は操業を辞めてしまった尾道錨にて撮影



第10図 落下試験


 この試験に合格したものは,もう一度吊り下げられ,3〜7kgのハンマーで,除夜の鐘のように打たれる。落下試験で,目に見えない亀裂の生じたものは,この鎚打試験によりコロッと割れて落ちることがある。


写真9 錨の槌打ち試験


 以上の試験でも不十分で,錨は,まだいじめられる。CrownとShankを結合し,最終的な完成状態で,重量の計測が行われ,規定の重量より軽ければ不合格になる。最後に耐カ試験(Proof test)が待ち構えており.これに合格して,はじめて,一人前の錨となり,船に搭載される。
 耐力試験は,第6図のように,爪の先から1/3のところを支え,リングに規定の耐カ試験荷重をかけて引張る試験で,これは,錨の両面に対して行われる。錨の大きさにより,耐力試験の荷重が決められているが,一例を示せば次のとおりである。


第2表 錨の耐力試験荷重


 この荷重は,後で取り上げる錨鎖の耐力試験荷重,切断試験荷重と比べるとかたり小さい値になっている。1,000kgの錨につく錨鎖は普通28个任海良添燭梁冦六邯害拿鼎37.2t,錨の荷重の54%増,10,000kgの錨につく錨鎖は錨の荷重の2.9倍,30,000kgの錨の錨鎖では13.6倍もの耐力荷重が要求されている。つまり、もろに引っ張る場合,錨は錨鎖と比べると,大きくなる程弱いことになる。錨のCrown pinやAnchor ring pinが切れて,錨が破壊することはないが,錨が海底の何物かに引掛っているときに,無理に収錨を試みると,錨鎖は切断しないが,錨の爪が曲ったり,切断したりする例が,大きな錨に見られるのは,このためと考えられる。それでは,錨の爪をもっと強く設計すれば良いことになるが,無銲錨の構造,第9図に示す力の掛り方から見て、錨の構造を大幅に改めない限り困難である。


第11図 錨の耐力試験


錨の製造過程における各種検査のフローチャートを第12図に示す。


第12図 錨の検査のフローチャート



写真10 タイタニックの錨
20頭の馬に曳かれた台車の上の錨
(Madison Press Books 社の”Titinic”より)




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