24-2.錨の損傷


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


2.1.4 錨の損傷

(1) 錨柄(Shank), 錨腕の亀裂、切損

錨の致命的な損傷は,落失海没は別としてshankの折損であろう,錨鎖を捲き込んだら,shankだけが上がって来たという例は,稀に聞くが,この場合,残存部の破面を調べると,鋳造時の不良組織が見つかることが多く,異状な外力が錨に加わったことと,厳重な検査に合格していても,材質に不良部分があったこと,また,当時、高把駐力錨の錨柄の断面が亀裂発生につながり易い形状であったことなどが原因とされている。錨に損傷が発見され,急拠,造船所に入り,予備錨と取替えた船があった。調べてみるとshankのcrown寄りに写真7,8のように全断面積の半分以上に及ぶ亀裂が生じているのが判った。収錨時に乗組員が発見したとのことで,デッキの上から見て,よくそこまで気がついたものだと感心すると同時に前回検査を行った者がどうしてこの兆を発見できたかったのか、多分,いい加減な検査を行ったと言われても仕方ないことと思われる。


写真11 Shank の亀裂



写真12 亀裂の詳細



亀裂部のスケッチ


 普通,錨に異状な力が加わった場合,shankが折損するよりも,腕やShankが曲がる例がずっと多い。

錨鎖を巻き上げたらシャンクだけが上がってきた

 いずれにしても,Shankの折損は,予想もできず,対策も立てられない。検査時に詳細な目視検査を行い,必要に応じて,超音波探傷などにより,初期欠陥の発見に努める以外に手はない。


写真13 Shankの折損(1)



写真14 折損部の破面(1)



写真15 Shankの折損(2)



写真16 折損部の破面(2)



写真17 Shankの折損(3)



写真18 折損部の破面(3)



写真19 Arm(腕)の折損



写真20 折損部の破面


(2) Shankの磨耗

 収錨した場合,ベルマウス(Bell mouth)への収まりが悪いと,航海中,錨がガタつき,ShankのCrown寄りの方がベルマウスと擦れて摩耗する。これは,新造船に比較的多く,時間がたつにつれて,適当に馴染むと,摩耗は,もはや進行しなくなる。特にはなはだしい場合は,摩耗した部分を溶接で肉盛りをすればよいが,あまり気にする必要はない。


第13図 Shank(錨柄)の磨耗
船齢8年のN丸の Shank, 反対舷の錨も同様に磨耗していた


(3) 錨腕、錨柄の曲り

見るからに丈失そうな錨の腕が曲がるようなことは,考えられないので,曲がっていても案外気がつかないものである。錨腕や錨柄が曲がると,収錨した際,錨の収まりが悪くなり,また錨の把駐力も弱くなる。従って,曲りが甚だしい場合は,錨を新替えした方が良い。腕の曲りは,極く軽微な場含を除き,一般に曲がり直しを行うことは,非常に困難で,折角,加熱曲がり直しを行っても,第12図のように,先端のみ矯正され,完全な修理は不可能なことが多い。曲がりの程度によって新替するか,放置するしかない。軽微の場合は現状のままとしても良いし、予備錨と交換しても良い。腕の曲がりは,ちょっと眺めただけではなかなか判り難いが,錨を平坦な場所に置き,地面から,左右の爪先までの距離を測り,違っていれば,どちらかの腕が曲がっていることになる(第13図参照)。またShankの曲りは,前に述べたようにAnchor ringの先に立ち,長さ方向を見透せば,容易に発見できる。


第14図 Armの曲がり直し
左図のように曲がった腕に対し、曲り直しを行っても爪の先端のみが矯正され、右図のような状態になることがある。



写真21 Armの屈曲
右側の腕が先端で300mm 屈曲している。これは,普通型の無銲錨である。



第15図 Armの曲がりの発見法
a , bの距離が違っていれば、どちらかの腕が曲がっている。


(4) Anchor ringの摩耗

 錨の先端には,錨鎖を継ぐための大きなシャックルが取り付けられている。昔の錨は第10図に示すようにロープを縛りつけるための丸い環が付けられていた。これはAnchor ringと呼ばれていたので,現在の錨の先端に固定されたシャックルもAnchor ringと呼ばれている。ただし,Anchor D shackleと呼ぶこともある。
 このringはanchor shack1eを介して,錨鎖に連結され,常時,錨の重量が掛っており,.摩耗し易い。通常,両端をカシメたボルト(Anchor ring pin)の摩耗の例が多く,気づかずに放置すると錨を落すことにもなる。したがって,Ring pinの両端が擦り減っていたり,Pinが摩耗して細くなっているのが判ったら,早めにpin を新替えしておくと良い。pinを新替えしたときは,正式には錨全体の耐カ試験を行う必要があるが,この試験は,設備の関係で,錨の製造所へ持っていかなければ出来ず,材料の素性のわかった規格材(鋳鋼または鍛鋼材)を使用してpinを新替したときは,錨全体の耐力試験は省賂が認められている。また,pinの両端のカシメ部が緩んで,ガタついている例もよくあり,この際は,端部を焼いて叩き,締め直しを行う。錨鎖の使用頻度の少ない大型タンカーや捕鯨船などを除き,頻度の多い小型船では4〜5年でpinの新替え,摩耗郁の溶接肉盛り,両端の締め直しが必要になり,10,000総トン程度の貨物船では8〜10年で何らかの修理を要する例が多い。


第16図 Anchor ringの損傷


(5) Crown pin(Anchor head pin)

 Shankとcrownをつなぐ,Crown pinは,径が太いので,摩耗で径が減っても問題にならず、一生使えるものである。しかし製造時の誤作により,第15図および第16図のようた例があったので錨を調べるときは,泥をよく落して,ShankとCrownの取り付け部をも調べておくと良い。


第17図 Crown pin止めブロックの誤作
ブロック(A)が短かったとめ、Crown pin が偏よった例、ブロックはCrown pin が抜け落ちないようにCrown の穴に差込み、外側をCrownに溶接して固定する。ブロックを用いず(A)の部分に鉛を流し込む例もある。



第18図 Crown pinの誤作
Crown pin が細すぎた例、通常Crown pin の周辺は泥が多量に詰まっていることが多く、泥をよく落として a b から覗かないと異常は分からない。


(6) Crownの亀裂

 Crownは,Shankを通すための,四角い孔があいており,この孔の隅に,往々にして亀裂が生じていることがある。鋳鋼品の場合は,一般に形状が急に変わっている所に亀裂が生じ.易い。写真19〜21はCrownに発見された亀裂である。


写真22 高把駐カ錨のCrown裏面の亀裂
構造上不連続部は詳細に検査する。



写真23 高把駐カ錨のCrown裏面の亀裂詳細



写真24 CrownのShank取合い部の亀裂


(7) 予備錨

 小型船を除き,錨は,予備錨(Spare anchor)を含めて,3丁備えるよう定められている。これは,何らかの事故で,錨を落失した場合の予備品が義務づけられている訳で,17世紀頃の帆船では5丁以上の錨を持った船も珍らしくないとされている。普通、予備錨は,船首付近の暴露部に保管されているため,錆が出易く,いざ,予備錨を使用する段になると,Ringが錆びついて動かないことがあり,第18図のような状態になることがよくある。したがって,Anchor ringの部分は,4年に一度ぐらいは手入れをして動くようにしておくと良い。この部分に,十分グリースを塗り,キャンバスで覆っている船もある。なお、最近では大型船の場合、大きな予備錨を本船乗組員の手で取り付けることが出来ないので、船主の意向により予備錨は基地に保管しておいて船に搭載することが省略できるようになっている。


写真25 40万トンタンカーの予備錨



第19図 Anchor ringが錆付いて動かない(左舷)


2.1.5 画期的な錨

 前記2.1.2において、”錨は最も進歩の遅れた物の一つと考えられる。もし,画期的な錨を発明したならば,間違なく大金持ちになるであろう。“と書いたが、実は、最も進歩した効率の良い錨が既に発明されている。これは、DA-1型 錨と呼ばれている。中村技研工業の中村宗次郎氏が自身、海に潜って錨が実際にどんな状態で海底に投げ込まれているのかを調査したり、洞爺丸の走錨による大惨事の教訓を解析したりしての長年の試行錯誤と研究の結果、開発したものである。従来の錨では、錨に加わる力とその方向により、錨が回転して海底に突き刺さっている爪が外れ走錨に至るケースが報告されているが、この錨はこの心配もなく従来の高把駐カ錨以上の把駐カがあることが実証されている。惜しむらくは、まだあまり知られていないことと、海運、造船界にありがちな保守的な考えにより敢えてこの錨を採用しようとする船主が少ないことが残念である。


写真26 DA-1型 錨




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