25.錨鎖一般(1)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


2.2 錨鎖(Anchor chain cable)

 鍛接による鉄製の鎖が発明されるまでは,錨は,ロープに結びつけられ,錨自体の把駐力で錨泊が行われた。現在は,錨と海底に横たわった錨鎖とで把駐力が確保されるようになっている。したがって,錨鎖は,錨とともに,船の種類,大小にかかわらず,必ず装備せねばならない。遠洋で漁労をする漁船や,超大型タンカーなどでは,錨泊することは非常に少ないと考えられるが,それでも,万一の場合を想定して,錨,錨鎖の省略は認められていない。

2.2.1 一般

2.2.1.1 錨鎖の大きさは何で表わすか

 錨鎖の大きさは,一連の錨鎖の中央部にたくさんつながっている普通鎖環(Common 1ink)の径で表わされる。一般に用いられている錨鎖は,連結用シャックル(Joining shack1e)で継がれているため,シャックルの頭が入るように,両端の鎖環,すなわち,端末鎖環(End link)はスタッド(Stud)がなく,そのために径も大きくなっている。このEnd 1inkにつながる両端から2番目の鎖環(拡大鎖環とも呼ばれる2nd link 又はEnlarged 1inkも,第1図に示すように,径が10%だけ太くなっている。これから先は,同じ大きさの普通鎖環が続くことになる。ただし,後で取り上げるケンターシャックル(Kenter shackle)で継ぐ錨鎖の場合は,端から端まで皆同じ普通鎖環から成り立っている。


第1図 スタッド付き錨鎖(dは錨鎖の径)
各リンクの幅はCommon link : 3.6d, Enlarged link : 4.0d, End link : 4.0d


2.2.1.2 錨鎖の長さ

 以前は,錨鎖1連の長さは,25mのものが多かったが,最近では,27.5m(15 fathoms,15尋)が標準になってきているようである。この長さは,第1図のように,一端における鎖環の外側内端から,他端における外側内端までの距離で表わされる。また,シャックルが皆同じ方向になるように,錨鎖一連の鎖環の個数は奇数になっている。

2.2.1.3 錨鎖の継ぎ方

 25mまたは,27.5mの錨鎖を継ぎ,規定の長さにするには,シャックルが使用される。このシャックルには,二種類の違った形のものがある。一つは,アルファベットのD型をした連結用シャックル(D Shackleとも呼ばれる)で,もう一つは、普通鎖環と同じ型をしたケンターシャックル(Kenter shackle) である。これら,二種類のシャックルによる,鎖の縦ぎ方を第2図に示す。これから判るように,Dシャックルを用いる場合と,ケンターシャックルを用いる場今とでは,錨鎖の両端の形状が違っている。したがって,自分の船の錨鎖が,どちらのシャックルで継いであるかを知っていなければならない。これを知らないと.錨鎖を失って補充する場合や,一部の錨鎖が衰耗して新替えのため,新しく錨鎖を注文するとき,本船はケンターシャックルで継いでいる場合,例えば“60个良添2連とシャックル3個”といった注文をしたのに,Dシャックル用の錨鎖が,納品されると,折角新しい錨鎖が手に入って喜んでも,既存の錨鎖と継ぐことはできない。したがって,新しい錨鎖を注文するときは,“○○シャックルによるOOmmの○種錨鎖○連”と注文をする必要がある。なお,同じ径の錨鎖でも,材質により強度に相違があるので,注文する時は,後で述べる材質として1種か2種か3種の別も指定しなければならない。


第2図 連結用シャックルおよびケンターシャックルによる鎖の継ぎ方
ケンターシャックルで継ぐ鎖にはEnd linkやEnlarged linkはない


連結用シャックルで継ぐ鎖とケンターシャックルで継ぐ鎖どうしは継ぐことが出来ない。


写真1 ケンターシャックルとスイベル
右上端がケンターシャックルで左下ホーズパイプに見えるのがスイベル



第3図 ケンターシャックルの外し方
外す時は専用の治具を用い(1)〜(3)の順に行う。組む時はこの逆の操作になるが,スタッドのピン孔は斜になっているので,スタッドの上下,左右を誤るとテーパーピンが途中までしか入らなかったり,全然入らなかったりする。



写真2 特殊なケンターシャックル



第4図 アンカーとチェーンの継ぎ方


2.2.1.4 Dシャックルとケンターシャックルの長短

 Dシャックルは,価格が安く,形が普通鎖環と異なるため,よく目立ち,投錨のときに,何連投下(レッコと呼ばれる)したか,判り易い。ただし,ボルトの摩耗などで,寿命はケンターシャックルより短いようである。また,鎖が切断した場含,残った部分をDシャックルで継ぐことはできない。ケンターシャックルは,価格は高いが,鎖が切断した場合に,どこでも継ぐことができ寿命も長い。したがって,Dシャックルで継いでいる錨鎖を備えている船でも,ケンターシャックルを1個か,2個持っていれば,錨鎖が切断した時に便利である。ただし,ケンターシャックルをバラすのには,ちょっと手間がかかり,Dシャックルのように簡単にはいかない。ケンターシャックルの分解方法を.第3図に示す。

2.2.1.5 錨鎖の付属品

 錨鎖の付属品としては,前記の連結用シャックルのほかに,錨を継ぐための,アンカーシャックルと,収錨のとき錨を回転させるスィベル(Swivel)および,ブイ係留のとき,ブイと錨鎖とを継ぐ第4図のようなブイシャックル(Buoy shackle)とがある。なお,ハープの形をしたブイシャックルはハープシャックル,スタッドのあるブイシャックルはAシャックルとも呼ばれている。アンカーシャックルは,普通はD型の大きなシャックルで、第6図のような二通りの方法によって,錨と錨鎖の端末鎖環とを連結させる。スイベルは,錨に近い部分の短い錨鎖(Swivel piece)の中に組み込まれており,鎖の長さ方向の軸に対し,スイベルを介し,錨が自由に回転できるような役目をする。スイベルは規則では設置が義務づけられていないが,これがないと,収錨時に,錨鎖に捩じりが掛かり,甚だしい場合は,錨に近い位置の鎖環に永久的な捩じれ生じることがある。したがって錨泊が多い船では,スイベルを備えた方がよい。


第5図 ブイシャックル
左がAシャックル,右はハープシャックル



第6図 スイベル
Eye が錨鎖の長さ方向の軸に対し自由に回転出きる


2.2.1.6 錨鎖の径は何ミリメーターか?

 錨鎖を一部落失したので,代りの新しい錨鎖が届くまでの応急措置として,素性のはっきりした中古品を使用することにした。船具屋をのぞいて見ると同じ様な大きさの錨鎖が沢山あり,普通鎖環の径をノギスなどで測っても,摩耗しているので本来の径は分からない。この場合,比較的正確に本来の径を知る方法がある。これは,第7図のように普通鎖環1個の長さを測り,その長さを6で割ることで,この値が,錨鎖の本来の径ということになる。古い船で,本船に錨鎖の資料が無くなってしまっており,本来の径がわからないような時にも,この方法が役に立つ。これは,古くなって径が細くなった錨鎖でも,鎖環の長さは,ほとんど変わらないからである。ただし,過去において,その錨鎖に異状な、力が加わっていれば,当然,鎖環は伸びているので,この方法は使えない。しかし,VLCCに使われる径80〜110个涼鯢添燭領磴任蓮∪效濃邯害拿鼎10%増の力で引張った場合,普通鎖環の伸びは3〜4%程度である。2種の電接鎖でも2〜5%程度で写真3に示すように,錨鎖は切断ギリギリの力で引張ってもそれ程鎖環は伸びない。なお,実際に錨鎖が切断する荷重は規則上の切断荷重を更に30〜50%増した荷重である。


第7図 磨耗した錨鎖の原径
普通鎖環の長さを6で割れば原径が分かる
d = L/6


2.2.1,7 船の大きさと錨鎖の大きさ

 錨と同様,錨鎖の径と長さは,その船の艤装数(Equipment number)によって決定されるので,総トン数が大きな船でも,意外に小さい錨鎖が使われていることもある。日本最大のタンカーであった日精丸(360.00x62.00×36.00, 238,517総トン,載貨重量484,337トン)は,径132个梁3種錨鎖が,両舷で700m備えられている。錨鎖の全重量は294tに達している。コンテナ専用船の鞍馬丸(274.00×32.20×21.50,59,294総トン,載貨重量43,476トン)の錨鎖は,径92个梁2種錨鎖が,687.5m備えられている。長さ約200mの船について,錨と錨鎖の種類及び大きさの実例を次表に示す。

 
L(m)
G/T
錨重量
錨鎖(径mm,長さ(m),種類
自動車専用船
210.00
19,799
9,940
87φ x 660、2種
撒積貨物船
200.00
32,995
8,220
79φ x 600、 2種
コンテナ船
200.00
36,912
10,245
78φ x 660 3種(2種ならば87φ)
タンカー
207.00
39,115
10,146
78φ x 660 3種(2種ならば87φ)


2.2.2 錨鎖の種類

 型は同じようであるが,鎖にも,多くの種類があり,形状,材料,製造法により呼び方も違うので,これらの相違を簡単に取り上げることとする。

2.2.2.1 形状による分類

(1) スタッド無し鎖 (Stud1ess chainまたはShort 1ink chain)
 スタッドの無い鎖で,錨鎖用としては,小型船の中錨用として使用される程度で,手摺りの代用,ラッシング用,小型船の手動操舵用,倉口蓋の開閉用などに使われているにすぎない。鎖環の幅が広く,長さが径の4.9倍しかないためShort 1ink chainとも呼ばれている。
(2) スタッド付き鎖 (Stud chain)
 錨鎖用の鎖は,すべてこの鎖が使用されている。スタッドがあるため,張力が働いても,鎖環の変形が少ない。錨鎖は投揚錨時に揚錨機(Wind1ass)の鎖車(Gypsy whee1)を通過し,鎖環はGypsy whee1の鎖環の形をした凹入部に1個,1個入るので鎖環が変形して,長さが長くなるとGypsy whee1にはまらなくなり危険である。スタッドが無い鎖は,大きな力が加わると鎖環が伸び易いので,錨鎖のスタッドが落失しているのが発見されたら,早い機会に補修しておく方が良い。


写真3 スタッドに角材が使われている錨鎖



写真4 揚錨機



第8図 鎖車(Gypsy wheel)


2.2.2.2 材料による分類

 使用する鋼材の強度により,弱い方から順に,第1種(Grade 1)から第3種(Grade 3)まであり,第1種を使う場合は,強度を補う意味で,太い径のものが必要になる。たとえば,6,000総トン程度の船で,第1種錨鎖を使用する場合の径は56伉度が必要で,第2種では50个阿蕕い芭匹,第3種では44个任垢爐海箸砲覆襦したがって錨鎖の重量は,第1種が一番重くなり,この船の例では,第3種を使用した時の,錨鎖の総重量21tに対し,第2種では27t、第1種では34t に及ぶことになる。錨鎖に必要とされる特徴は,その強度か,重量かという問題については,種々論文があるようなので,ここでは触れないが,価格の面から見ても,現在最も多く使用されているのは,第2種錨鎖で,大型船になると第3種が多くなっている。第1種は,小型船に稀に用いられている程度である。各種錨鎖の材料の強度は次のとおりである。

引張り強さ
伸び
第1種錨鎖
31/㎟以上
30%以上
第2種錨鎖
50/㎟以上
22%以上
第3種錨鎖
70kg//㎟以上
17%以上



写真5 錨鎖の切断
径32mmの電接2種の錨鎖で,規則での切断荷重は59.4tであるが、85.9t(44.6%増)の荷重で切断した。切断しない鎖環はほとんど変形していない。


2.2.2.3 製造法による分類

 昔は,鍛接により製造するのが殆どで,高級な船には,鋳造による鋳鋼鎖が使用されていたが。電気溶接が進んだ今目では,暑さの中で勘にたよった重労働による鍛接鎖は,既に40年前頃から姿を消し,溶接鎖が大半を占めている。したがって,現在では,よほど古い船でない限り,鍛接鎖は見られなくなっており、高価な鋳鋼鎖も珍しくなっている。

(1) 鍛接鎖

 一定の長さに切断した丸棒を炉に入れ,赤熱し,楕円に曲げ,はすかいになった接合面を金床の上に置き,ハンマーで叩いて鍛接により鎖環を作り,これにスタッドを嵌めると,鎖環ができる。この鎖環に,赤熱した同じ寸法の丸棒を通し,同様に接合面を鍛接すると,次の鎖環が出来,これを繰り返すことによって鍛接鎖が完成する。加熱の度合を誤ると,十分に接着できず人力にも限度があり,また,強度の強い,炭素含有率の比較的多い鋼材は,鍛接が効かないため,強度を必要とする大きな錨鎖を鍛接で製造することは困難である。現在錨鎖用の鍛接鎖を製造する工場は,姿を消してしまっている。


第9図 鍛接鎖のつくり方


(2) 電接鎖(電気溶接鎖)

 鎖を溶接によって製造する方法には,アプセット溶接(Upset butt we1ding)による方法と,フラッシバット溶接(F1ash butt welding)による方法の二種類が採用されている。前者は径の小さい鎖に対して用いられており,後者と比べ。溶接強度が低く,材料の性質を悪化させる溶接による熱影響部が大きいなどの短所がある。このためか,現在,錨鎖の製造に利用されている溶接は,ほとんどが,フラッシバッド溶接である。電接鎖は,使用材料の強度により,2種電接鎖,3種電接鎖と呼ばれている。船舶用錨鎖では,現在,一番多いのが,2種電接鎖で,統計的な数値はわからないが,これが80%程度,3種電接鎖は10万トン以上の大型船用として15%程度,次に述べる鋳鋼鎖が5%ぐらい,鍛接鎖は殆ど0と考えられる。フラッシバットによる錨鎖の製造法は,この後で取り上げることとする。

(3) 鋳鋼鎖

電気炉によって製鋼された湯を,取鍋に移し,鎖環の形状をした砂型またはシェルモールドに流し込んで製造するもので,日本では,大阪製鎖造機蠅鉢蠑松製作所が製造していたが,力の強い3種電接鎖が現われてから,製造を中止しているようである。しかし,最近,摩耗に強く,耐腐触性も良いことから,海洋構造物などを対象に,鋳鋼鎖が見直されてきているようで,神戸製鋼が製造を開始したと聞いている。製造過程は一般の砂型による鋳造方法と変わりはない。しかし,長く継ながった鎖がどうして鋳造によってできるかを,紙上で説明することは非常に困難であり,実際に製造過程を見ないとわからない。一応その概略を示すと,第10図の通りである。鋳鋼鎖は,鎖環1個おきに,単鎖と連鎖から成り立っている。単鎖は,第9図(1)に示すように,1個ごとに鋳込まれる。もし,一連の鎖環の数が101個の鋳鋼鎖の場合,一つの湯から51個の単鎖が鋳造されることになる。次の過程として,(5)に示す連鎖の下部主型を,鎖環1個おきの距離で,50個並べ,その上に,(4)に示す下部中子を置く。この状態が(6)で,連鎖型の下部が,とびとびに50個並ぶことにたる。この上に前もって製造された,単鎖を1個ずつ,二つの連鎖型にまたがるように,静かに置き,その上に,上部主型の中子を配置し,さらに上部主型を載せ,押湯の型を置く,つまり,50個の連鎖用砂型が,51個の単鎖で継がった形になり,ここで,連鎖主型に湯が注がれることになる。鋳込みが終わり冷却してから連鎖用の砂型をバラし,湯口を切断,バリを取り除けば,101個の鎖環を持つ鋳鋼鎖が姿を現し,あとで熱処理をし,必要な試験に合格すれば,完成品となる。鋳鋼鎖は,製鋼の段階で,材質を自由に調整することができ,硬度も,電接鎖の溶接部で約150(ビッカース硬度)に対しどの部分でも200〜230(HB)と硬いため,摩耗に強くスタッドは鎖環と一体で鋳込まれているので,緩んだり,外れたりすることは絶対になく,寿命も長い。洋服でいえば,オーダーメードということにたり,価格も,鍛接鎖,電接鎖と比べて高く,高級な錨鎖ということができる。ただし,鋳造を誤ると,鋳巣(Blow ho1e)が生じ,肌に小さなぶつぶつな円い孔が生じる欠点がある。


第10図 鋳鋼鎖の鋳型



第11図 鋳鋼鎖の継ぎ方



第12図 鋳型の断面



写真6 日章丸用108mm 鋳鋼鎖
(小松製作所粟津工場にて、左端が若き頃の筆者)



写真7 タイタニックと覇権を争ったキューナード社のモレタニアの鎖
鎖環の大きさは径3.5インチ長さ22.25インチ、全体の長さは1,900フィート重量130トンとされている。
(Patric Stephens 社の”Mauretania”より)




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