27.錨鎖の損傷


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


2.2.5 錨鎖の泣きどころ

 シヤックル,スイベルを含めて,錨鎖に見られる損傷を定性的に取り上げることとする。昔は錨鎖の損傷は多かったようで,特にシヤックルとスタッドのない端末鎖環の切損事故が多かった。しかし,最近では,材料が良くたったためか,錨鎖の損傷は,ずっと少なくなってきている。

2.2.5.1 切断

 錨鎖の事故のうちで,最悪のものは切断で,錨とともに錨鎖は海没してしまう。そうして切断した鎖環も海没してしまう例が多いので錨のように破面を調べる訳にもいかない。錨を巻き上げるときに衝撃や異常な張カが加わり,錨鎖を捲き上げて見たら切断していたとの報告,錨が効かなくなったので,調べてみると錨鎖が切断していたと言うようた報告が過半数で,人為的に切った場合を除き原因は分からない。残存した錨鎖の鎖環の長さを測ってみても,異常な力により伸びている形跡も見られたいのが普通である。金をかけて,切断,海没した鎖環を引き揚げて調査したという報告もあまり聞いていない。切断が報告された例を調べてみると,100隻検査を行った中で,1隻弱の割合で,切断の事故は,かなり少ない。この中で80%は,5,000総トン以下の船で,船齢にはあまり関係ない。強いて言えば,船齢6〜15年の船の切断件数が60%である。老齢船の事故が必ずしも多くないのは,船齢が古くなると,錨鎖も摩耗して,新品と交換されるためと考えられる。錨鎖が切断し,錨と共に海没した場合は,最寄りの港で臨時検査を受け,例えば,6ヵ月以内に補充するようなRecommendationを取っておけば,その間,港湾当局や,コーストガードなどに,錨が無いことを発見されてもトラブルことはない。補充する錨鎖の発注に際しての注意事項は前記のとおりである。

2.2.5.2 摩耗

 投錨時,錨鎖庫から出た鎖は,まず,チエンパィプの上端に激突し,火花を散らして,揚錨機のGypsy whee1を叩き,コンプレッサーで摺られ,飛び上り,ホーズパイプ内を掻きながら,悲鳴に似た,大音響を発して,海中に吸い込まれていく。そうして,海底には,硬い岩や,汚い泥などが,これを待ち構えている。さらに悪いととには,時として,人為的に切り捨てられることすらある。船の諸装置,備品の中で,最も痛めつけられ,割に合わないものは,錨鎖をおいて他にないといっても過言ではなかろう。結果として,錨鎖は使えば使うほど,摩耗してくる。磨耗の限度は,以前は径によって,それぞれ定められていたが,現在では一律に10%となり,原径50个良添燭45侈にになれば,新品と交換しなければならなくなる。船体構造部材の場合,鋼材が衰耗して薄くなったときの新替えの限度は,部材により20〜40%で,これに比べると,錨鎖の新替え基準が,いかに厳しいかがわかる。大きい錨鎖の場合,径が10%以上減ってもGypsy whee1との取合に不都合がなく,試験機にかけて引張ってみて,耐力荷重,切断荷重が規定の値を下廻っていなければ,もう少し使用を続けても差し支えないような気がする。昔からの鍛接鎖の衰耗限度の規定が,そのまま現在も踏襲され,誰も疑問を抱いていないためであろう。磨耗は,鎖環の任意の個所で,第20図のように2方向で測り,その平均径と原径との比で表し,1連の中から,任意に最低3カ所を測ることになっており,原則として,普通2年ごとに計測が行われる。計測の結果をみると,常識でもわかるように何時も,錨鎖庫の中にある根付けに近いほど,摩耗は少なく,錨に近い錨鎖ほど磨耗が早い。したがって,何年かごとに,錨に近い磨耗した錨鎖は,根付け付近の摩耗の少ない錨鎖と振り替えられるのが普通である。たお,振り替えを行ったときは,何連目をどう振り替えたかを記録に残しておく必要がある。


写真1 チェインコンプレッサー上を滑り降り磨耗する錨鎖
Chain compressor(制鎖器)



第1図 錨鎖の磨耗の測り方
a,b.の平均値を取る


 錨と直接継がるスイベルピース(Swive1 piece)は振替えができないので,一番磨耗が早く,錨泊を多く行う船では,8年ぐらいで摩耗の限度に達するものがある。第2図は摩耗と.船齢との実例を示したものである。摩耗の要因としては,錨鎖の使用頻度,材質,径の太さなどが考えられ,船齢のみでは相関関係は求められない。大体のところ,12年頃から,ぼつぼつ限度に近づく傾向である。一般に,小型船は摩耗が早く,種類からいえば,寿命は,鍛接鎖が最も短く,電接鎖,鋳鋼鎖の順になっている。


第2図 錨鎖の摩耗率と船齢


2.2.5.3 腐蝕

 摩耗とは逆に,腐蝕は,常時錨鎖庫(Chain 1ocker)内にある根付けに近い錨鎖ほどひどく錨に近い方は,殆ど腐蝕しない。錨鎖の先の方は摩粍して,尻尾の方は腐触することになる。それでは,どちらの方の影響が多いかというと、磨耗により細くなる方が格段に多い。定期検査などで.錨鎖を全部繰り出し渠底に並べられているのを見ると、根付けに近い錨鎖は厚い錆に覆われて,外見は、かたり太くなっている。中身はさぞ痩せているだろうと,錆を落して径を測ってみると,以外に痩せていないことが判る。錆は無理して落そうとすると大変であるが,錆だらけの錨鎖を錨に近い第一節にでも振り替えると,たちどころに錆は,とれてしまう。何れにせよ,錨鎖の腐蝕には,それ程気をつかう必要はない。


写真2 錨鎖の配列作業
既成船の錨鎖の検査はドックに錨鎖を整列させ泥などを落してから検査する、普通は製造時のように裏返しての検査は省略されている


2.2.5.4 鎖環の捩じれ

 ファウル・アンカーを無理に捲いたりすると,写真3のように,鎖環に捩じれが生じることがある。また,スイベルを持たない錨鎖では,錨に近い部分の鎖環に捩じれが発見される例が多い。鎖の捩じれを防ぐためのスイベルは,是非備えたいものである。


写真3 鎖環の振れ
端部は切断している


 錨に近接した,Gypsy wheelには掛らない位置の鎖環の捩じれは,放置してもあまり問題はないが,それ以外の位置で,鎖環が捩じれているのが発見され,Gypsy wheelにうまく掛らないほどの捩じれであれば,根付けに振り替えておき,機会を見て正規の手続をしてその錨鎖1連を陸上げして,錨鎖メーカーに持ち込み,その鎖環を新替えした方が良い。軽度の捩じれであれば,加熱してハンマーかプレスによって矯正することができる。しかし,製造時に,熱処理が施されている第三種電接錨や,鋳鋼鎖では,熱により曲り直しを行い,その後,適当な後処理をしないと,曲りは直っても,かえって材質を劣化させることがある。

2.2.5.5 鋳巣(blow hole)

 鋳巣については,船尾骨材のところでも触れたが,ブローホールは鋳鋼鎖の泣きどころである。製造時の検査で発見され,手直しされたものが,本船に搭載されるので,就航中の錨鎖にブローホー一ルが発見されていることはない筈であるが,製造時,表面に現れていなかったものが磨耗により姿を現すものと考えられる。鋳鋼鎖は,前記のように,製造の過程で,鎖環1個ごとに,単鎖と連鎖とが継がっており,1個とびに鋳造条件が違うので,ブローホールも,1鎖環ごとに発見される例が多い。すなわち,ブローホールが発見されたら,その鎖環の両隣りの鎖環には異状はなく,1個おきにブローホールがある可能性がある。ブローホールによる,小さな孔が沢山あいており,針金を突込むと,径の10〜20%も入るような場合は,メーカーに持ち込んで,切り替えるか,溶接補修をした方が良い。軽微なときは,掘って,造船所で溶接補修ができるが,修理した部分に対しては,熱処理が必要になる。ブローホールがあっても,検査合格品である以上,切断試験と,耐力試験に合格しているので,強度的にはあまり不安はなく,修理をせずに,そのままで使用している例もある。


写真4 鋳鋼鎖の鎖環に現われたブローホール


2.2.5.6 スタッドの弛緩と脱落

 錨の使用頻度が多い中小型船で30伉度以下の錨鎖は,スタッドの弛緩や脱落の例が多い。最近では,第三種電接鎖にもスタッドの弛緩が報告されており,これは,鍛接鎖,電接鎖の泣きどころである。これらの錨鎖では,スタッドは,単に挾んであるだけなので,製造時の締付けが不十分であったり,錨の使用頻度が特に高い場合はスタッドが徐々に弛んできて,遂に外れてしまうことになる。もっとも,製造時の検査において,鎖環1個毎に,スタッドをテストハンマーで叩き,締り具合を調べ,甘いときには,増締めを要求し,何連もの錨鎖を検査し終わると,腕の感覚がたくなるほどで,最初からスタッドが弛んでいることはない筈である。スタッドの弛みは,舵針のスリーブの肌浮きや,鋲の弛みのように,スタッドをハンマーで叩いた手ごたえでわかるが,第22図のように,スタッドの付根を左手の指で軽くおさえ,スタッドを叩くとわかり易い。もっとも,指でおさえて弛みが判る程度では,あまり問題はない。スタッドの役目は,錨鎖に張力が加わった場合の鎖環の変形を防止するもので,スタッドが落失しても,鎖の強度には殆ど影響はないが,スタッドがないと,大きな張力がかかったとき鎖環が伸び,揚錨機のGypsy wheelに合わなくなる。一つの鎖環のスタッドが弛んで動いたり,落失したりすると,使っている間にその両隣りの鎖環のスタッドも弛んできて,各個撃破で,徐々に,スタッドの不良範囲がひろがってくる。したがって,スタッドが落失した場合は,陸揚げして,メーカーに送り修理する必要がある。軽微な弛緩の場合は,圧しつけて増締めができる。いっそのこと,スタッドを溶接してしまえと、両端を鎖環に溶接する例もある。メーカーにおいて,完全な条件で,溶接を行へば問題ないが,造船所や,沖修理業者などの手によって,スタッドの両端を溶接すると,拘束溶接となり,溶接姿勢も良くないため,スタッドの周囲を完全に溶接することは困難で,そのときは溶接できていても,間もなく,溶接部が切れてしまう。増締めだけではどうしても不安な場合は,両端を溶接せず,一端のみを溶接し,他端は,隙があっても,そのままにしておいた方い良い。なお,第三種電接鎖は,溶接後,熱処理が行われ,せっかく締っているスタッドも,熱処理の過程で弛んでしまう例もあるので,不用意に加熱,溶接をしてはならない。


写真5 スタッドの弛緩
スタッドがガタガタになっており、片側に寄ってしまっている。放置すればスタッドは脱落する



写真6 スタッドの脱落
左側は捩じれている



第3図 スタッドの緩みの発見法
スタッドの端部に指先を当ててテストハンマーでスタッドを叩く


2.2.5.7 スタッドの割れ

 鍛接鎖で,スタッドに鋳鉄を使ったものがあり,この種の錨鎖では,ときどき,スタッドの端部に第3図のような割れが生じることがある。鍛接鎖を備えている船では,一応スタッドの端部に注意をするとよい。電接鎖のスタッドは,鍛鋼が用いられているので,スタッドの割れは聞いていない。


第4図 スタッドの割れ


2.2.5.8 シヤックル

 戦前の資料によると,昔は,シヤックルの折損事故が多く,錨に近いシヤックルが肩の所で切断,破面の調査結果によると,小さな古い亀裂が年月を過て,徐々に進行し切断に至った様子を示している。現在は,錨鎖もシヤックルも材質が格段に良くなっているのでシヤックルの切損事故は殆ど報告されない。現在報告されているシャックルの泣きどころは,ボルトの摩耗である。ボルトは,第5図のように鎖環がかかる部分と,頭部のフランジの部分がよく磨耗する。対策として,前者は溶接で肉を盛り,グラインダーで仕上げることにより修理することができるが,フランジが,摩耗で薄くなっている場合は,溶接による修理は困難で,放置すれば,ボルトが抜け落ちることもあるので,予備のシャックルと取り替える必要がある。フランジ反対側の腐食は,溶接肉盛りによる修理が可能である。
 なお,前記電接鎖の製造の項で,シヤックルの製造法を省略したが,概略を第6図に取り上げることとする。


第5図 シャックルの磨耗



第6図 シャックルの製造方法


2.2.5.9 スイベル

 スィベルは,古くなると,第7図のようにアイの頸の部分が磨耗して,アイが抜け落ちることがある。また,アイの端部と止め金とが溶接で固着されているスイベルでは,溶接部に亀裂が入り,これが全周に及ぶとアイが抜け落ち,錨とともに海没する。したがって,スイベルでは,アイの部分に注意をすれば良い。ただし,アイと止め金とが,第7図(b)のように一体で鋳造されているスイベル(小松製作所製)では,鋳造時の中子の関係で,挿入部の間隙が,初めから大きく設計されており、古くなっても,止め金のかかりが十分にあれば、間隙が大きくても心配はない。


第7図 スイベルの磨耗


2.2.6 錨鎖の見分け方

 またもや,脱線するが、本船に使用されている錨鎖が,どんな種類の鎖であるかを,外見上から見分ける方法を参考までに取り上げてみることとする。

2.2.6.1 鍛接鎖

 鍛接鎖は最近では珍しくなっているが,古い船ではまだ使用されているかもしれない。電接鎖に良く似ているため,外見上で区別することは難しい。端的にいって,古い船では,鍛接鎖を使った船が多く,昭和30年頃以前に建造された船で,錨の使用頻度の少ない船の錨鎖は,鍛接鎖が多い。特徴としては次のようなことが考えられる。
  1. 手作りであるため,各鎖環の形状に不揃のものがある。
  2. 第8図のように,鍛接の跡が鎖環に見られることがある。
  3. 鎖環をテストハンマーで叩くと軟らかい感じがする。
  4. スタッドは鋳鉄のものが多くテストハ.ンマーで叩くと逆に非常に硬い感じがする。
  5. 古くなると胡瓜の皮をむいたような腐蝕をする。

第8図 鍛接鎖


2.2.6.2 電接鎖

 鍛接鎖と同様に,スタッドは,はめ込みになっており,鍛接鎖とは区別がつけ難いが,次のような特徴がある。
  1. 電接鎖は,第9図のようにスタッドの端部で溶接されているので,溶接部は幾分盛り上がり,太くなっている。
  2. テストハンマーで,鎖環とスタッドを叩くと,同じような手ごたえがする。
  3. 新しいものでは,鎖環の両端に,第9図(1)のハッチングで示されたような小さな出っぱりが認められる。これは,鎖環を曲げるときに使う,ベンディングローラーが,二つ割りになっているためである。鎖環の曲げ方を第10図に示す。
  4. 新日本機械製鎖蠕修A型とも呼ばれる電接鎖は,打抜き鍛造による単鎖と,第9図(2)で示した形状の,フラッシバ.ツト溶接による連鎖とが交互に連がっている。この連鎖は,スタッドの中央付近に割れのような隙間があるのが特徴である。鎖環1個ごとに,スタッドに割れのような隙間が認められた場合は,新日本機械製鎖の鏑鎖であり,製造法による隙間であって,損傷ではないので心配はない。これを知らない人はスタッドに亀裂があると騒ぎたてる。
  5. 第三種接鎖は,スタッドの一端か両端が鎖環に溶接されている例が殆どである。

第9図 電気溶接鎖



第10図 鎖環の曲げ方


2.2.6.3 鋳鋼鎖

 鋳鋼鎖の特徴は,第10図のように,鎖環とスタッドとが一体になっているので,他の錨鎖との区別は容易である。
  1. スタッドは,一般に細めである。
  2. 単鎖と連鎖とが交互に連なっていることは,製造法の項で述べたが,新しいうちは,特有の鋳張りの跡がわかり,古くなったものでも,連鎖のスタッドの中央部には,ハグミ(鋳型の型ずれ)が見られるものがある。

第11図 鋳鋼鎖



第12図 鋳型がずれたため上下で僅かな段のついた鋳鋼鎖
段のついたところはグラインダーで均す


  1. 単鎖のスタッドには第13図のように製造者の鋳出しマークがつけられている。

第13図 鋳鋼鎖の鋳出しマーク




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