29.甲板(2)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


3 甲板(Deck)その2

 前回は脆性破壊による上甲板の亀裂の例を取上たが,引続いて他の亀裂例を紹介する。

3.3 甲板はどのような壊れかたをするか

3.3.1 亀裂(2)

(4) D丸の場合
 本船は従来総トン12,942tのタンカーであったものを,1965年船体延長と深さを増すための増深工事を行い,総トン17,362tの撒積貨物船に改造されたものである。1966年春,No.4 Hatchの右舷側Hatch side strakeの突合せ溶接のビードが割れているのが発見された。カラーチェックで調査したところ,写真1〜4のように真横に伸び,溶接線を越えて成長し,隣の板にまでおよび,長さは1,150mに達していることが判った。亀裂の両端は細く糸状になって自然に消減していた。本船は建造に伴い,タンカーであったため艙口のない上甲板に大きな開口をあけ,艙口を設けることになり,縦強度が不足するので,それを補うため,板厚25个慮鼎す暖弔両紊32个瞭鷭田イ蠅艙口側部から舷側まで全面に施された。間題は亀裂が,二重張りのみで,下の甲板にまで達しているかどうかである。もし下の甲板も割れていれば,既に取上げたように,船体の縦強度は大幅に低下していることになり,修理も,貨物艙内に足場を組み上げることが必要で大工事になる。これを調べるため,まず,亀裂の生じた二重張りを一部取り外し,下の古い甲板をカラーチェックで調査した。幸に下の甲板には異状はなく,亀裂は二重張りのみであることが判った。


写真1 D丸の上甲板の亀裂(1)
カラー・チェックを行ったところ



写真2 D丸の上甲板の亀裂(2)
艙口側部の亀裂端部



写真3 D丸の上甲板の亀裂(3)
亀裂の中央部,亀裂部は少し口があいており,石炭の粉が入っていた。



写真4 D丸の上甲板の亀裂(4)
亀裂の端部、亀裂は溶接ビートから伸びて,隣の健全な板も225mm割れている。左端部はストップ・ホール。


 亀裂は,二重張りの溶接不良部から発していたことが判明,この原因としては,まず二重張りが32个噺く,古い上甲板の上に密着しなかったため,本来,溶接のビードが,第9図のように甲板に溶け込むべきところが,溶け込みが悪く,ビードの裏に不良部が内在したことと,第二に,工事の都合で,局部的に幅の狭い板を使用したことが考えられる。この事故から得られる間題点をまとめると次のとおりである。

【1】
 二重張りの厚板に局部的な孔があき,それを塞ぐための二重張りでは,その板厚は,ありあわせのもので問題は起こらないが,全体的な強度不足を補うための二重張りでは,その板厚は,二重張りが施される板の厚さと同等以下にする。本船の例のように止を得ず,厚い板を使用するときには,既に「損傷の修理方法」の項で述べたように下板との肌付きに注意し,下板に歪みなど凹凸がある場合は予め歪取りをし,出来るだけ平坦な面にして,二重張りを設ける必要がある。


第1図 D丸の甲板二重張りの亀裂



第2図 亀裂部の詳細


【2】二重張りの大きさ
 広範囲に二重張りを施す場合は,小さな板を現場でペタペタと張りつけると,溶接がやり難くなり,溶接不良個所が生ずる可能性があるので,地上で予め適当な大きさに溶接した板を張る方良い。工事の都上,止むを得ず短い板を使用するときは,二重張相互の溶接部に対し工事後カラ一チェックなどで溶接ビ一ドに亀裂のないことを確認しておく必要がある。良い二重張りと悪い二重張りの例を第3図に示す。


第3図 二重張り
上は二重張りの板と下板との肌付きが悪いため,板縦ぎの溶接も不完全である。下は肌付きが良い例で.溶接ビードは下板に溶け込んでいる。また,板継ぎの溶接や,栓溶接は歪の少ない骨の上に施工したほうが良い。


 D丸の例も含めて,上甲板の亀裂は艙口側部から外板側に横方向に生じる例がほとんどであるので,上甲板を歩く場合,時には,ハッチコーミング付近の甲板の状態に注意を払うと良い。.上甲板に生じる横方向の亀裂は,外板の亀裂や破口に次いで,重大な損傷であることを忘れてはならない。

(5) 艙口の隅(Hatch comer)
 建築物の場合,鉄筋コンクリートでもモルタルの家でも,扉の隅や窓の隅に亀裂が生じているのをよく見かける。平面に四角な切開けをつけると,どうしても隅のところに応力集中が生じ,時間がたつにつれて割れが発生する。艙口の場合も同じことで,隅に丸みを付けていても小さな亀裂が生じている例がよく報告されている。


写真5 主機 Scavenging trunk のハモニカ弁開口部隅の亀裂(1)



写真6 主機 Scavenging trunk のハモニカ弁開口部隅の亀裂(2)



第4図 艙口の隅の亀裂



写真7 下層甲板の艙口の隅


このため,艙口の隅は十分丸みをつけるか,局部的に厚板が使用されている。普通,艙口の隅に生じた亀裂が成長して,上甲板が横に割れる事故はほとんど聞いていないので,それほど神経質になることはないようであるが,ハッチカバーを開けたときには艙口の四隅に気を配っておく必要がある。

(6) 冷蔵運搬船の下層甲板の亀裂
 甲板の亀裂で最も頻度の高いのが冷蔵運搬船の下層甲板の亀裂である。はなはだしい例として,建造中引渡し前に冷蔵艙の冷却試験を行い,船艙全体を零下50℃まで冷却し,試験が終わり,常温に戻したところ,第二甲板が割れているのが発見されたという報告もある。冷蔵艙に入ると,周囲は,古い船ではコルク板,1960年頃はイソフレックスなどと呼ばれるビニールの波板を組み合わせた防熱材,最近はスチロールで防熱された合板の内張り,直接膨張による冷却方式を採用した船や,ブラインによる冷却が行われる船では,冷却コイルが見えるだけで,甲板,外板などの船体構造部は直接見えないので始末が悪い。下の貨物艙に入って,上の甲板裏を仰ぎ見て,変な汚れや,水の滴りなどが,甲板亀裂発見の糸口になり,また,5年目ごとの定期検査で防熱の一部を剥して,亀裂が発見された例もある。


第5図 冷凍貨物運搬船の下層甲板で亀裂発生の起点となり易いところ
ハッチカバーレールのように長さ方向の部材の溶接継手部のほか, (1)ダクト貫通部 (2)トリミングハッチ (3)下部艙内への降り口 (4)ハッチ開口の隅 (5)ガーダー、ハッチカバーレールなどの現場接手。



第6図 E丸の第二甲板の亀裂
亀裂の長さは3.46m、ハッチカバーのレール接手部の溶接不良個所が起点になっている。



第7図 亀裂発生点の詳細



写真8 E丸の亀裂破面
ヘリンボーン・パターンに注意,亀裂は左側から右側に進行したことがわかる。


 この種の亀裂は,第5図のように艙口,トリミングハッチ,あるいは,甲板を貫通するダクトの隅が起点になることが多い。第6図のE丸の例では,甲板の破面に現われた,ヘリンボーン・バターン(herring-bone pattern) ・・・ これはシェブロン・バターン(Chevron pattern)とも呼ばれる・・・の形状により,第二甲板の艙口蓋の受けに取り付けられた,ハッチカバーのレールの突合せ溶接の不良部が起点になり(第7図および写真7参照),第二甲板のハッチサイド・ガーダーは完全に切断し,右舷側の板厚12个よび10个旅暖弔3,640个砲錣燭辰得效任靴討い拭
 本船は,長さ115.40,幅17.00m,深さ9.80m,5,600総トンの冷蔵運搬船で,1968年(昭和43年)8月に建造され,処女航海で北米に赴き,−20℃の冷蔵艙内にマトンを積み,帰港,揚げ荷をしたところ,大亀裂が発見され,乗組員一同,肝を冷したそうである。したがって,何時,何処で割れたのかは誰にも判っていない。何れにしても大亀裂を受けたまま太平洋を横断したことになる本船の第二甲板は,裏面のみが防熱されていたので、揚荷後,亀裂は容易に発見されたが,両面が防熱されていたら,発見はもっと遅れたかも知れない。原因は,レールの溶接接手の不良部がノッチになった低温脆性による破壊であり,その後,冷蔵運搬船の艙内の縦通部材は,鋼甲板も含めて低温になる部分では,冷蔵艙の温度により,低温脆性に強い,低温用鋼材の使用が義務づけられるようになった。この鋼材は.−40℃または−50℃の低温で衝撃試験が行われ,これに合格した材料である。NKの場含は,KE, KL24A, KL24Bの記号で表わされ,冷蔵運搬船の中央断面図を見ると,下層甲板の板自体,桁材など船の長さ方向に縦通する材料には,板厚と共にKE,あるいはKL24Aなどの記号が記入されている。したがって, KL24Aが使用されているデッキを切替えまたは,新替えする際は,これと同じ材質の鋼材をあらかじめ手配しておく必要がある。しかし,残念なことには,これらの低温用鋼材を使用して建造された最近の冷蔵運搬船においても,第二甲板または第三甲板の亀裂は皆無にはなってはいない。


第8図 冷蔵運搬船の中央断面図
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上甲板のgirder,第二甲板および第.二甲板のgirderには低温用鋼材が使われており,その記号(KL24A)が示されている。記号のないものは一般の鋼材(KA)である。


 F丸は1979年7月に建造された長さ140.00m,幅17.60m、深さ8.70m, 3,935総トン冷蔵艙内の計画温度−40℃の主として魚獲物の運搬に従事する冷蔵運搬船である。
 1979午10月25日、スペインのカステリヨンで,冷蔵貨物を揚荷したところ,E丸と同様,船体中央部No.2 Hold部の右舷第二甲板が,ハッチ前付近よリ外板近くまで約4.5m割れており,デッキが下に約50于爾っているのが発見された。甲板も,ハッチサイド・ガーダーも,定められたとおりの低温用鋼材が使用されているにもかかわらず発生した,重大な損傷である。修理のため,直ちにラスパルマスに入港した。第二甲板は下面のみが防熱されており,上面は裸であったことと,亀裂の後方のデッキが下がり,前後で段違いになっていたことにより,破面が観察できた。破面には脆性破壊であることを示すヘリンボーン・バターンが現われており,その方向から亀裂は箱型のハッチサイド・ガーダーの現場継手から発生したことが判った。


写真9 F丸の第二甲板の亀裂(甲板上面)(1)ハッチ側



写真10 F丸の第二甲板の竈裂(甲板上面)(2)亀裂の中央部



写真11 F丸の第二甲板の亀裂(甲板上面)(3)亀裂の端部近く(外板側)



第9図 R丸の一般配置図
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Lpp=140.00, B=17.60, D=8.70, d=6.918, 3,935.29 G/T
主機 6・200PS, Ref cargo capacity 185,005m3, Vt =18.5 kt


 このガーダーの面材は厚さ19mmの低温用鋼材(KL24A)が使用されているが,写真10で判るように表面しか溶接されておらず,板厚の中心部は溶接されていない。中心部は取付け取)時にガスで切った跡がそのまま残っていた。甲板裏の防熱を外した亀裂個所を写真11〜17に示す。

写真12 F丸の第二甲板の亀裂(甲板裏面)(4)
右側が艙口、左側が船側



写真13 亀裂発生点ハッチサイドガーダーの面材の破面
19mmの板は,上面と下面のみがわずかに溶接されて一おり,中間部はガスで切った面が溶接されずに,そのまま残っている。



写真14 甲板裏ガーダー側の詳細
補強のための型鋼も完全に切断している


 当然のことながら、右舷と同じ構造の左舷側も防熱を外して調査し,念のためハッチの後端部も調べてみたが、異常は全然認められなかった。


写真15 ハッチサイド・ガーダーのweb plate の切断


 修理としては、亀裂の生じた第二甲板とガーダーを切替えて完全修理をする必要がある。しかし、甲板は厚さ10mmの低温用鋼材で、スペイン中を探したがこれと同じ他船級協会の材料も入手出来なかった。
 止むを得ず亀裂部をボルトで継ぐ応急修理も考えたが、幸いに低温用鋼材のための低水素系溶接棒が手配出来たので、次のような修理を施し、日本に帰って完全修理を行うこととした。


写真16 亀裂の先端


 まず、下がった第二甲板を支えるため、写真17のように、補助の柱を二重底の上に立てガーダーを支え、甲板の段違いを直した。この柱には第二甲板の荷重が掛かるので、足元は二重底の丈夫な所である実体肋板(Solid floor)の上に配置した。


第10図 仮設した柱の位置
(内底板を取り外した状態を示す) 柱は.二重底のSolid floorとgirderの交叉部に設けられないときは,下部の補強が必要である。



写真17 補助柱
柱の下の二重底は燃料タンクであるため、柱下端と二重底頂板との溶接はしていない。冷蔵運搬船の修理工事では,防熱のウレタン等が引火し易いので、すぐ消火出来るよう消火器、ホースの段取りをしておくことが肝要である。


 次いで甲板とガーダーの亀裂部を溶接し易くするためにV 型にハツリ開先を整えた。造船所での修理であれば、ガスかアークで容易にV型の開先が掘れるが、港での沖修理となればガスもアークも無いため、グラインダーで削ったため,かなりの時間がかかった。この後,低温用鋼材の溶接棒で亀裂部を溶接し応急修理としたものである。
 溶接工は,資格のある者を捜して担当させ,溶接完了後,カラーチェックを行い亀裂の端部に相当する外板側の個所と,ガーダーの近くにストップ・ホールをあけておいた。開先が不完全であったり,溶接,裏溶接が悪いと、溶接部に亀裂が再発するので,深夜,早朝の検査が続いたが,ラスパルマスは11月でも海水浴ができる程なので助かった。


写真18 ラスパルマス


 応急修理は1週間かかり,同年11月10日完了,12月31目,日本に帰るまで応急修理部に亀裂の再発がないことを願った。しかし,帰途,12月10目,大音響を発しNo3 ho1dの右舷側の第二甲板に長さ約4.3mの亀裂が発生,引続いて12月12日,同様大音響を発し, No.1 hold右舷側の第二甲板に長さ約2.6个竜砧が生じたと伝えられている。結局,本船の第二甲板の右舷側はズタズタに切れた状態で日本に帰ったことになるが,何れも,外板の手前500个阿蕕い僚蠅乃砧は止り,外板まで傷がひろがり,船内に浸水するような大事故には至らなかったのは幸である。亀裂の起点となったところは,いずれもガーダーの現場溶接の個所で写真18のような溶接不良が認められたところである。この事故はすべて新造時の不良工事が原因で建造時工期が遅れたため突貫工事が行われ,検査が追いつかなかったことに起因していると思われる。


第11図 F丸の第二甲板の亀裂
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亀裂発見または発生の年月日,その下のカッコ内は亀裂の長さを示す。




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