32.甲板(5)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


3 甲板(Deck)その5

3.3.2 暴露甲板の 陥没, その2

3.3.2.2 波浪による陥没

(1) 陥没の事例

 木造船が木鉄混交船になり,現在のような鋼船に変わり,大型化し速力も速くなってきて,波浪による暴露甲板の損傷が現れだした。大波の打込みによる損傷は単に暴露甲板の陥没だけではなく,ブルワークの流失,倒壊ハッチカバーの凹損、落失,,甲板室や船楼端壁の屈曲,さらに,空気管,通風筒など甲板上の艤装品の損傷を伴うのが普通である。損傷を受ける部分は,当然のことながら,船首部ということになり,船首楼が一番損傷頻度が高いように思われる。しかし,1900年初期までの船では,船首楼内に居住区のある船が珍しくなく,この場合は,各部屋を支切る縦横の壁が,船首楼甲板を支える役目をはたしていたため,船首楼甲板の陥没は少なかったと考えられる。また船首楼に居住区が,なくなり、Bo'sn StoreとPaint Roomぐらいしかない現在の船でも,船首楼は無傷で,第1図のように船首楼の後の上甲板が陥没する例も珍しくない。一方,古い例では,第2図のように1938年3月中旬,6,400総トンの貨物船が,北米からの復航時に追波を受け,船尾楼が5m四方の範囲で50亟挧廚靴仁,三島型の船で,同じく1938年12月,北米よりの復航時に,中央部の船橋を越えた大波が,後部上甲板に落下し第3図のように右舷側の上甲板が75个盍挧廚靴仁磴睚鷙陲気譴討い襦
 被害を受けた船は,必ずしも,冬期北米航路に就航していた貨物船だけではなく,日本と台湾との近海航路の船や,ペルシャ湾航路のタンカーも甲板を陥没させた例がある。


第1図 波浪による船首部の損傷
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1963年1月、北米よりの復航時、35°N,142°に於ける荒天遭遇による前部上甲板の損傷、本船の要目は、145.00 × 19.60 × 12.10 ‒ 9.00,



第2図 追波による船尾楼甲板の凹入(1)



第3図 追波による船尾楼甲板の凹入(2)
1938年3月中旬、北米よりの復航時、6,440轍瀛船該部の寸法 、肋骨心距 610mm, ビーム寸法 200BP,ガーダーの寸法  (309 ×9) +(125 ×13)



第4図 船橋を飛び越えて被害を与えた大波
乗組員の話“荒天中,船橋楼を越えて打ち込んだ大波により損傷を受けた。この波は最後の一発で,その後は急に海が静まってあまり波の襲来は受けなかった。艙口蓋板は4枚折損したが,3枚敷いてあったtarpaulinのおかげで船内の濡荷はなかった。"



第5図 船橋を飛び越えた大波による損傷
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1938年12月北米よりの復航、6,800邸∀捷心距 33” (838mm),ビーム寸法 230×80×9.5 / 12 CH)


 原因は,何れも荒天遭遇で,損傷を受けた海域は北太平洋が大半を占め,時期は,10月から翌年3月までが殆どである。さらに、どの例を見ても,日本に向かう復航時に被害を受けており,往航時の損傷は皆無に近い。冬期北太平洋の復航時の海象が如何に厳しいか、2年半の間に3回も船首楼に被害を受けたO丸の例を第6図に示す。


第6図 鉱石専用船の船首楼の波浪による陥没
要目 210.00 x 31.00 x 15.50 ‒ 11.40, 29 ,739 G/T


第1回 1963年1月(就航後4ヵ月) 復航時北太平洋
右舷 Fr.104〜114 間最大36mm陥没
(1) この範囲の縦通梁6本屈曲
(2) Deck transのweb屈曲3本(Fr.105,110,115)
(3) Fr.105 Piilar座屈約50mm下端の溶接離脱
(4) Girder Fr.104〜114屈曲
応急修理として、Fr.105 pillar新替え,Fr.110にpillar増設
本修理(就航後9ヵ月)
【1】Deck P1ate切替え,
【2】Deck trans補強
Fr.104のfaceに100 x 9 FB, Fr.105のfaceに180 x 16FB増設
【3】Pillar補強
Fr.105およびFr.110に増設, Fr115の150φx9であったものを230φ x 9に太くした。
【4】A Girder 補強
第2回 1964年1月復航時北太平洋
左舷Fr.110〜115間最大45mm陥没
(1) Beam 2本屈曲
(2) Deck trans Fr.110web屈曲
(3) Fr.115 Pillar下端の溶接離脱
第3回1965年2月
右舷Fr.104〜105付近最大50mm陥没

(2) 波浪による損傷位置

 事例は古いが、1963年以降2年間の波浪による暴露甲板の損傷報告を参考にして,損傷の範囲を考えてみることにする。当時、NKに入級していた船は約2,800隻,毎年検査を受けるとして受検回数は延べ5,600件のうち,損傷はブルワークの流出など軽微なものも含めて111件報告されている。圧倒的に多いのは,やはり船首部で,船首から船の長さの1/4の範囲での陥没が全体の82%に達している。
 しかし,10,000総トン以下,長さでいえば150舒焚爾料イ任,前記のように追波による船尾楼甲板が陥没し,舵取機室の柱も屈曲した例も散見している。大半を占める船首部0.25L間の甲板の損傷を見ると,長さ150m程度までの船では船首楼甲板の前部,揚錨機付近から始まって,二番艙付近までの何れかの部分に限られており,これより大型になると,損傷範囲は前部に移っていく様で, 大雑把に見ると,150〜200mぐらいの船では,船首部0.15L間,さらに200mを超える大型鉱石運搬船,タンカーでは0.1L間といった傾向が現れている。


第7図 波浪により損傷を受け易い範囲
例えば長さが200mぐらいの船では、船首より 0.1L=20m の範囲、150m程度の船では船首より 0.025L = 3.57m から0. 2L = 30m くらいの範囲が波浪による損傷を受け易い。これは、実際の損傷例の解析結果によるものである。


(3) 船の種類による影響

 船の相違としては,船の大小,速力の差,船型の違い(痩せた船,太った船)などが考えられる。これらの違いと,波浪による甲板の陥没との間にはあまり関連は無さそうで,載貨重量12万トンのタンカーでも船首楼をやられた例があり,船の大小については,前記のように,損傷を受ける甲板の範囲が幾分異なる程度である。速力についても,損傷例から見た範囲では,相関はないようである。これは荒天時には速力が落ち,また,主機の回転数を落とすためとも考えられる。船型の影響も,特定の造船所の船が,損傷を受け易いという傾向はあまりないようである。

(4) 暴露甲板は波浪に対して弱いのか ?

 過去に於ける波浪による甲板の陥没の報告は,年度により異なり,多い年で10件前後,少ない年では1〜2件になっている。これは,その年の気象条件によるものや冬季北太平洋を航行する船が少なかったことなどが考えられる。
 従来,船級協会の規則では、設計に際しての暴露甲板に加わると考えられる波浪荷重は経験的に決められており,当然のことながら,小型船では小さく,船の長さが長くなるにつれて,波浪の力は大きくなり長さが107m以上になるとこの力は一定の値になっていた。すなわち、長さ 110mの船でも300mの巨大船でも暴露甲板に加わる波浪荷重は同じ取り扱いになっていた。
 この意味で波浪荷重に対する考え方には理論的根拠がなく、古い構造規則では暴露甲板の強度は充分ではなかったと言うことが出来、波浪打ち込みによる損傷が発生するのは避けられなかった。

(5) 波浪の打込みによる荷重と構造規則の改正

 しかし、第二次大戦後、海洋の波浪に對する研究が日進月歩の勢で進み,海洋波の観測記録の分析,統計学的手法の採用,さらには,電算機の進歩を大きな支えとして,従来の経験的な手法は,科学的な手法に変わってきた。暴露甲板に打込む波についても,現在は,特定の船が,特定の海域を,ある速度で,ある期間航海した場合,どの程度の高さの波が,如何なる頻度で甲板に打ち込むかがかなりの精度で計算できるようになっている。ただし,計算ができるといっても,これには,かなり手問がかかり,一方実際の船の場合,貨物により航路,喫水,トリム,速力など種々の要素が異なり,速度も一定ではなく,波との出合い角度も刻々に変化するので,特定の船1隻を取り上げて,これらの要素を全部取り入れて計算をすることは不可能に近い。したがって,現在の規則では,これらの考え方を応用し,最大公約数的な値で,暴露甲板に加わる波の荷重を定めている。すなわち,喫水線上の波の高さと,その高さが船の長さ方向にどのように分布するかを基にして,例えば;船首から0.15Lの個所での起こり得る波の高さを想定し(第8図参照)、他方で,この波が、甲板上に打ち込んだとき,どれだけの力を及ぼすかについては暴露甲板の損傷実績を解析し,この両者を基準にして甲板荷重が決められるようになった。


第8図 満載喫水線よりの理論計算による波浪の相対水位


 NKの構造規則(鋼船規則と呼ばれている)の 暴露甲板の荷重は1978年の改正により従来の経験的な値から,理論的な値に改められた。この結果,甲板の強度は,場所によっては,2倍以上に引き上げられている。これが効を奏したのか,前にも述べたように,暴露甲板の陥没事故は激減している。もっとも,規則改正前,1978年以前に建造されている船では,陥没の可能性は昔と変わらないわけであるが,古い船も含めて,暴露甲板の陥没の報告は滅多に聞いていない。操船技術の向上, Weather Routing等による海象,気象の把握が進み、荒天回避の措置が取り易くなった為と思われる。いずれにしても船底の凹損,舵関係の損傷,船側外板の亀裂などと比べれば,上甲板陥没、垂下の損傷発生率は1978年の規則改正以降かなり低くなっている。

(6) 甲板積貨物による荷重

 木材,コンテナ,その他重量貨物を上甲板(暴露甲板)に積む場合は,甲板はその重さに耐える強度が必要になる。この荷重は,木材の場合は,分布荷重になり,コンテナやプラントなどでは,集中荷重になる。重い甲板貨物が予定されている船で,その荷重が,前記の波浪の打込みによる荷重より大きいときは,当然のことながら,貨物の重量によって甲板の強度を決めなければならない。現在の規則では,甲板貨物の荷重と,波浪の荷重とは重複させず,どちらか大きい方で決められている。木材などのように,甲板上4m以上も積む場合,その上にさらに波が打ち込むとしても,木材の上からの波高は小さく,その荷重も小さいためである。しかし,嵩高でない重量貨物を積む際は,貨物の重量の他に,打ち込む波の荷重が加わることも考えられるので,波浪の荷重が大きい船首部に積むことは避けた方が良い。また,船首部では,船の動揺による貨物の慣性力が大きくなるので,なおさらである。計算によると,長さ180m, 幅27m,深さ16m, 喫水9mの船を想定し,その船が,13秒の周期でローリングし,その角度を30°また同時にピッチングの周期8秒,角度を6°,ヒービングの周期9秒で,振幅2.2mの状態のとき,船の重心から最も離れた船首部では,動揺による重力の加速度の影響は0.859ぐらいになる(第1表参照)。

動揺の種類
周期
振幅
揺れ角度
動揺中心から最遠
コンテナまでの距離
上下方向加速度
横揺れ
縦揺れ
上下揺れ
13秒
8秒
9秒
-
-
2.2m
30°

-
11m
91.5m
-
0.136g
0.602g
0.11g
計0.848g
≒0.8g
第1表 1,000個積みコンテナ船の動揺中心から最も遠い
位置にあるコンテナに働く加速度 (JIS Z 1618 より)


 つまり,この例で,船首楼の前の方に1tの重量の貨物を載せると,動揺により船首が持ち上がる瞬間には,この貨物の重量は1.85tに相当することになる。この慣性による見かけの荷重の増加については,現在の規則では,設計の際の割増しは要求されていない。それでは,甲板の強度は不十分ではないかということになるが,設計に際しては,これらの荷重は安全率を取ることにより,その中に含まれて設計されている。したがって,実際問題として,上甲板(暴露甲板)に貨物を積み過ぎて,甲板が陥没した例は前記の通り老齢船の場合を除いて最近では殆ど聞いていない。また、上甲板上に積み過ぎると,重心が上り復原性の方でも制約を受けることになる。
 一般に,木材専用船では,甲板上の積付量は仕様により決められており,コンテナ船の場合も,何トンのコンテナを何段積にするという条件で設計され、隅金具の部分の甲板は補強されている。これらの甲板積みつけの制限は、中央断面図や、ローディングマニュアルなどに明示されている。特に甲板上の貨物が予定されず,波浪の荷重のみで設計されている船で上甲板上に貨物を積む必要が生じたときは、波浪荷重の範囲内の重量の貨物ならば、積んでも問題はないことになる。 前記のように、この荷重は厳密に言えば船の種類、大きさ、速力などによって決まるもので簡単には求められず、簡略な値を求める場合でも,船の長さ、船が痩せているか太っているか(Block Coeficientと呼ばれCbで表わされる), 長さ方向の位置(船首部か、中央部か), また、喫水線からの高さが関係するので面倒極まりない。ここでは、長さ86.00m, 117.00m, 225.20mの船に対し,概略の値を第9図に示すに止める。 これらの値は,分布荷重であるので,コンテナ等,集中荷重のかかる貨物では,ダンネージを敷くなどして,なるべく分布荷重になるよう心掛ける必要がある。


第9図 規則による上甲板の波浪荷重(t/)(1)
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この値はDeck girder に対するもので、(2)の船の場合、中央部は1.55 t/屬農澤廚気譴討り、若し、これ以上の、例えば 2.0 t/屬硫瀛を甲板上に積むと甲板が垂下する恐れがある。(1)の木材運搬船は甲板上に 2.25 t/屬僚杜未量攤爐積めるよう計画されている。


(7) 暴露甲板の強度とは,何の強度か?

 今まで、波浪による暴露甲板の強度という言葉を使ってきたが、貨物の荷重のみを一様に受ける下層甲板と違い,波は暴露甲板の一部に打ち込むことになる。甲板の構造は,,鋼甲板が一次部材として荷重を受け,これを支えるものとして梁がある。何本かの梁は桁によって支持され、桁は、柱または隔壁によって支えられることになる。したがって,局部的な波の打込みによる荷重をまともに受けるのは,鋼甲板とそれを支える梁で,桁の場合は,その全長にわたって波浪の力を受けることはなく,桁の長さの一部分に荷重が掛かることになる。つまり,ある波高の波が暴露甲板に打ち込む場合、波の下になる鋼甲板と梁は,もろにその力を受けるが,桁や柱それらが分担する守備範囲の中の一部に荷重が加わることになる。このため,桁や柱に掛かる波浪の力は割引きして良いことになる。結局,暴露甲板の場合,甲板の強度といっても,それを構成する鋼甲板,梁,桁とでは強度が違い,桁の荷重は梁などよりは小さな値で設計されている(第10図参照)、あらかじめ木材やコンテナなどを積むように設計されていない船で,前記のように,甲板上に貨物を積む場合,甲板の強度は桁の強度によって決まることになる。第9図の値は,桁の強度を示しており,第10図の例で,鋼甲板,梁,桁に分けた場合の荷重の違いを示す。


第10図 規則による上甲板上の波浪荷重(t/)
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点線と括弧内で示した値は鋼甲板酬板(Deck plate)に対する荷重,一点鎖とカギ括弧の値は梁(Beam),実線は桁(Girder)に対する荷重である。
(1)の船は,上甲板上に木材積み(2.1t/)が予定されているので、中央部
(2)上甲板では鋼甲板は2.48t/,梁と桁2.1 t/屬農澤廚気譴討い襦


(8) 陥没した場合の修理

 陥没の量にもよるが,局部的に50mも陥没した場合は当然その部分を切り替えることになる。陥没は,鋼甲板が凹入し,梁や桁が下に垂れ下るように屈曲し,梁の端部,肋骨との取合いの肘板 (Bracket) が屈曲,さらには,柱が座屈する例がある。一般に,甲板を切り替える場合は,柱や壁など甲板を支えている部材を外すことになり,これを外すと,自重で,甲板が更に下ることがあるので,修理工事が完了するまでの間,甲板を支えるための柱を設けておくことが必要である。なお,陥没の修理に際しては,今後の再発を防ぐ目的で,桁を大きくするか,或いは増設するか,出来れば,柱を増設しておくと良い。

参考文献
1:船体構造と故障の研究 (天然杜)山口増人著
2:日本海事協会会誌



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