34.甲板(7)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


3 甲板(Deck)その7

3.3.2.4 貨物による甲板の垂下

(3) 貨物による甲板の垂下例

 甲板上に,設計で想定した以上の荷重が等分布でない状態で,頻繁に加わると,梁や桁は,これに抗しきれず、初期の段階として,梁の撓みがもとに戻らず,逆キャンバーになる、次いで,これが進行すると,梁を支えている桁も参ってきて,甲板が,柱と柱との間で下に撓んだ状態になり,甲板全体が垂下する。こうなると,もはや簡単に修理することはできなくなり,その部分の甲板全体を切り替えねばならぬ大工事にもなる。古い損傷例を見ると,貨物による甲板の垂下は,各部が衰耗した老令船に起こるのがほとんどで,それも,第二甲板や,第三甲板上に鉱石や鋼材などの重い貨物を積んだときに発生している。


第1図 DeckのCamber


 しかし,昭和30年頃からは,船令10年未満の船でもこの種の損傷が報告されるようになり,それまでは,あまり例を見なかった上甲板も,木材の甲板積みにより,往々垂下している。これは,当時木材の輸入量が急激に増え各甲板とも,木材積みとして強度を増していない一般貨物船が,原木の輸送に当ったことと,巨大な南洋材を荒っぽい荷役により積み付けたためと考えられる。もっとも,木材専用船として計画されていない一般貨物船でも,前記のように,甲板の強度としては,比重0.7の貨物を中甲板一杯に積んでも問題ないように設計されており,普通ラワン材の比重は0.7〜0.8とされているので,甲板が重下する筈はない。しかし,現実に,南洋材を積む船では、特に下層甲板の垂下例が多かったことは、水に漬かったラワン材の重量が重いためと、荷役による衝撃の繰返しによるものと考えられる。
 最近では、木材積みを予定して建造された船は、積付けが不便な下層甲板は廃止されており、上甲板も4m 前後の高さの積付けに耐えるよう大きな梁や、桁が配置されているので、木材による甲板の垂下はずっと減ってきている。
 この他、荷役の機械化により、鉱石や屑鉄なの荷役でブルドーザーを甲板上で使用したり、雑貨の場合でも大型フォークリフトが使用されるようになり、これらの荷役車両が動的な集中荷重として甲板上を暴れ周り甲板垂下の原因となる例もある。


写真1 南洋材の荷役



写真2 水に浸かったラワン材(重さは分からない)



第2図 F丸の第二甲板の垂下
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●は垂下計測位置で数値は垂下量(mm),
Frame space 800, Beam 230 x 11 Bulb plate



写真3 Lifting magnetによる屑鉄の荷役


a) F丸の損傷

 本船は,長さ128.00m, 幅17.80m, 深さ10.00m, 喫水7.9mの三島型貨物船である。完成後4年目の航海において,北米ロングビーチでスクラップ,ダライ粉などの屑鉄を積み,日本に向かった、途中,数回荒天に遭遇したが無事,神戸に入港,揚荷中,第2図のようにNo.4 Ho1dの第二甲板が最大300mm垂下し、右舷の艙口側桁が折損しているのが発見された。同じ条件の他の貨物艙の第二甲板には全然異常がないことから、損傷の原因として、積地におけるブルドーザーの影響ではないかと推定された。即ち、ロングビーチにおいてNo.4 Holdの積荷が遅れたため、荷役を急ぐ目的でこのHoldに対してのみ2tと5tのブルドーザーが使用され、この甲板上を縦横無尽に2台が暴れ回ったことが証言されている。

b) K丸の第二甲板の垂下

 本船の損傷は船齢9年9ケ月の時に発見されたもので、垂下はそれ迄の間に徐々に進行したものと考えられる。要目は次の通りで、木材の運搬に従事していた。
長さ113.59m、幅16.00m、深さ9.00m、喫水7.30m、4,687總トン、本船も三島型の貨物船で,第二甲板の垂下はNo-2〜4ho1dに亘っており、何れも,梁が中央部で撓み、艙口側桁も柱の間で下に垂れ下がっている。垂下の詳細を第3,4図に示す。


第3図 K丸の第二甲板の垂下(1)
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hatch side girder の垂下は比較的少なくBeam が逆 Camber になった例c



第4図 K丸の第二甲板の垂下(2)
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c) T丸の片持梁による第二甲板の垂下

 完成後,半年足らずでNo.2 Ho1dにおける右舷第二甲板の艙口側桁が、最大650mm垂下したもので、明らかに、貨物の積過ぎが原因と推定される。本船は艙内に雑貨を満載し、第二甲板には,前部にショベルカー数台、後部に鋼材を積み日本を出帆、4日後、台湾で揚荷後、右舷第二甲板が第5図のように垂下していることが分かった。本船は、
長さ80.00m、幅14.50m,深さ6.90m、喫水6.20m 1,690總トンの貨物船で、設計上の第二甲板の荷重は、甲板間高さが2.60mであり、
2.6x0.7=1.82t/m2 つまり、等分布荷重で1平方メートル当たり1.82トンである。この航海における貨物の重量が何トンであったか、分布荷重になるように積付けが行われたかどうか、片持梁の先端に集中して積込まれたかどうか情報は報告されていない。
 若し、1.8t/m2になるように,鋼板を等分布荷重の状態で積むと、高さは23cmにしかならない。このことは、第二甲板に板厚23cmの板を一面に積んだ状態がこの船の第二甲板の強度の限界と言うことになる。重量の重い貨物は嵩が小さいので、つい積み過ぎになるのではないかと思われる。


第5図 T丸の第二甲板の垂下
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No.2 Hold 部の第二甲板の右舷側がHatch の後半部で垂下したもので、Hatch のほぼ、中央部より前部と左舷側には損傷はなかった。ハッチングした部分の甲板を切り替え、その範囲の片持梁と縦通梁等は総て新換えまたは切り替えられた。


 既に述べたように,片持梁構造の甲板上に重い貨物を積む場合は,なるべく,片持梁の根本の方,つまり,外板側に積むように心掛けると良い。片持梁の荷重状態に応じた剪断と曲げモーメントの比較を第1表に示す


第1表 片持梁に同じ荷重が加わったときの剪断力(F)
と曲げモーメント(M)の比較


d) W丸における荷役中の第二甲板の垂下

 某年6月9日完成後,バンコックで撤積みの塩5,000tを,第二甲板下の船艙に満載し,艙口を塞ぎ,第二甲板上には、硅砂4,000tを積むべく,ベトナムのカムラン港に向かった。7月14日硅砂の荷役開始,順調に作業は進んだ。3ひ後の17日昼過ぎ,大音響を発し,船体が大きく振動したといわれている。直ちに荷役を中止し,船体各部を調査したところ,No.2 ho1dに積んだ硅砂の一部が陥没しており,No.2および3 ho1dの第二甲板艙口側桁が最大500仗皺,艙口梁16本が外れて下に積んだ塩の上に落下,第二甲板上に積んだ硅砂100tほどが,艙内の塩の上に流入していることが判った。損傷時,第二甲板上のどの部分にどれだけ硅砂が積まれていたか,記録は無いが,比重1.67の硅砂の積み過ぎによる事故と想定される。この第二甲板も片持梁で支持されており,艙内に柱はない。第二甲板の艙口側桁の垂下状況,片持梁基部の座屈の状態を第6, 7図に示す。また,本船のプロファイルは第8図のとおりである。


第6図 W丸の第二甲板の垂下(1)
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No.2 Holdは右舷,No.3 Holdは左舷が甚だしい。



第7図 W丸の第二甲板の垂下(2)
片持梁基部の損傷状態



第8図 W丸の配置図
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122.90x19.00x11.00−8.00, 7,470 G/T, 10,051D/W


(4) 垂下した場合の修理方法

 下層甲板の貨物の積過ぎによる重下の状態は,程度に応じて第9〜11図の三つの種類に分けられる。

a) 梁のみの垂下

 第9図は,その甲板が柱によって支えられており,甲板上の一部に重い貨物を積んだときに生ずるもので,重量がそれほど大きくなければ,梁が撓むだけで揚荷後は旧に復し甲板は垂下しないが,同じ様な重さの貨物を何回も同じ位置に積んだり,梁の強度の数倍もある重い貨物を積むと梁の撓みはもとに戻らなくなり、外板と艙口側桁の間で甲板が垂下してしまう。
 このような垂下は局部的なものが多いので,修理としては,その部分の甲板と梁を切り替えれば良い。程度が軽ければ,現場曲り直しも可能で,梁のみの切替えで済む場合もある。

b) 艙口側桁のみの垂下

 第10図は,片持梁構造の下層甲板で,艙口の幅が広い船で艙口蓋の上に重い貨物を積んだ場合によく生じるもので,前記T丸の例はこれに相当する。艙口上の貨物の重量は片持梁の先端に集中荷重として働き,荷重に耐えられなくなった片持梁が基部で座屈したための垂下である。修理としては,長さ方向に撓んだ艙口側桁を,程度に応じて曲り直し,または切り替え,座屈した片持梁の基部を切り替えることになる。この際,二重底頂部に仮の柱を立て,片持梁の先端を支え,座屈した片持梁の基部を切り取り,仮設の柱に取り付けたジャッキを用いて,甲板を押し上げ正規の位置にもどして,片持梁を切り替えることになる。どうせ修理をするのであれば,片持梁の基部の深さを深くするか,面材を大きくして補強も兼ねるようにすれば良い。

c) 梁と艙口側桁の垂下

 第11図に示す状態で,甲板の垂下の中で最もたちの悪い損傷である。これは,甲板が柱で支えられている場合も,片持梁の場合にも起きるもので,鋼甲板,梁、艙口側桁のすべてに亘って切り替え,または新替えが必要になる。前記の、F丸,K丸,W丸の損傷はこれに相当する。


第9図 Beam(梁)のみの垂下



第10図 Beam, Web beam, girderの垂下



第11図 Cantilever beam (片持梁)とGirder(桁)の垂下




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