35.甲板(8)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


3 甲板(Deck)その8

3.3.2.5 膨出

 甲板の損傷は,波浪にしろ,貨物にしろ,上からの荷重によって,下にさがるものだけとは限らず,逆に上に持ち上がる損傷も時折報告されている。これは、船首槽 (Fore peak tank),船尾槽 (Aft peak tank), 深水槽(Deep tank)など,タンクの頂部の甲板に生じるもので,タンクに水を゚甫・時Cヒ,タンク頂部に設けられている空気管が何かの原因で塞がっているのに気づかず,ポンプで,どんどん゚呆?すると,タンク内の空気の逃げ場がなく,その圧力で甲板を押し上げることにより生じるものである。船首尾槽の頂板は縦強度の影響を受けないので,中央部の甲板よりは板厚が薄く,また船首尾の外板よりも薄くなっているので,圧縮された空気は,最も弱いタンク頂板を膨出させることになり、二重底タンクの場合は、二重底頂板が膨出することになる。
 空気管が塞がっている原因としては,荒天準備で空気管を塞いだまま開け忘れている例、荷役時などに貨物が空気管に当り,空気管を潰してしまい,これに気がつかなかった例、冬期,空気管頭部が氷結し塞がってしまう例などがある。タンクに水や油を゚甫・雌「マ,空気管を予め調べておくのは常識である。

3.3.2.6 甲板の腐蝕

 強度上,薄くても差支えない部分の甲板や、常時濡れていたり,湿気の多い個所は,塗装が十分行われていないと腐触により穴が生じるのは鋼材の宿命ということになる甲板のうち,腐蝕の生じ易い個所としては次のような所がある。

(1) 艙口間甲板(Cross deck)

 艙口間甲板は,隔壁を助けて船の横強度を分担しており,二次的な強度部材である。従って,艙口側部の甲板が20舒幣紊両豺腓任砒攜間の甲板は10个阿蕕い任茲い海箸砲覆辰討い襦そのため,手入れをせず、錆がでるままにまかせておくと,8〜10年ぐらいで腐食により孔が開く。
 艙口を閉めた状態で艙内に入り、上を眺めると、艙口前後部より光が射しているのに気がつき艙口間甲板に穴があいているのが分かることがある。


第1図 艙口間甲板の腐蝕
Cross deckは板厚が薄いので腐蝕しやすい。Hatchの端部Mast houseの隅は特に腐りやすい。



第2図 艙口間甲板と艙口側甲板の取り合い
甲板の板厚に大きな差がある個所は、板厚の差を下の図のように下側で逃がした方が良い。上の図のように上側に逃がすと水が溜まり腐食が進む


 初期の局部的な穴であれば,甲板上から二重張りを当て塞げば良いが,長く放置し艙口間甲板が全面的に衰耗して多数の孔が生じるようになると二重張りの修理はできなくなり,その部分の甲板を切替えなければならなくなる。大型撒積貨物船では、艙口間甲板の修理に当っては大掛かりな足場を立てなければ工事が出来ず、甲板修理の鉄工工事よりも足場架設のための費用が高くなることもある。


第3図 甲板の腐食し易い所
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(2) 水はけの悪いところ

 壁で仕切られている個所は,近くにビルジ溜めがあっても,完全に排出しきれずに常時水が溜まっている。このような場所は当然なことながら、甲板は局部的に腐食を受け、遂には穴があいてしまう。場所としては、第3図に示すように船首尾楼内、下層甲板の後端の両隅、といった所で船首楼内の上甲板で、上からは溜まったビルジにより、下からはタンク内の湿気により内外面から腐食を受け、甲板の船側部に多数の穴があいた10万トンクラスのタンカーの例を写真1に示す。


写真1 船首楼内上甲 (FPTのTank top) の腐食破口
FPT内より写す。破口よりF'c1e内のビルジがしたたり落ちている。


 また、三島型貨物船で、機関室の後ろに、第二甲板まで達する深水槽兼用の貨物艙があり、その頂部の甲板は一部機関室になっており、そこに冷凍機が配置されているM丸の検査をしたことがあった。冷凍機室に入ると床面はビルジの排出が悪くじめじめしており、一面に厚い錆が生じていた。念のため、テストハンマーで叩くと30cm四方ぐらいの甲板が抜け落ちて、下の深水槽内に落下、注意して調べると、甲板は、ほぼ全面的に腐食して錆のみになっており、板の上に乗ると確実に下の深水槽に墜落する危険な状態で、梁の上しか歩けない程であった。
 これも,甲板が内外面から腐蝕された結果で,冷凍機室のビルジ溜の位置が悪かったこととも関連するが,ビルジの排出が完全に行われていれば,このような事態には至らなかったと考えられる。冷凍機室の甲板は全面的に新替えさたれが,工事に際しては置タンク、冷凍機を一時撤去させねばならず,大工事になった。


第4図 第二甲板の腐食
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機関室の一部が深水槽上に突出しており.その部分の第二甲板上にはボイラー、清水の置タンク、冷凍機が配置されており,水はけの悪いことと,下が深水槽であることによる腐食,茶色に塗った個所の甲板が殆ど消滅していた。


(3) 高温になる機器の下

 最近の船の甲板機械は、貨物船では殆どが電動油圧駆動になり、蒸気による揚錨機、係船機、楊貨機は少なくなってきている。気動の場合、これらの機械の下部は高温になり、温度の高いドレインも溜まるので、他の個所の甲板と比べ腐食が早い。それを見越して,この部分の甲板は厚くなっているが,船齢が古くなると,穴があくことになる。当然のことながら,機関室内のボイラーや給水ポンプ,熱交換器などの下部の甲板も腐蝕は早い。

3.3.2.7 その他の甲板の損傷

 今までは,足もとだけを眺めていたが,貨物艙に入って上を見上げてみることとする。目に入るのは,甲板裏の縦または横方向に配置された梁と桁,鋼甲板のみで,煙管式火災深知器(Smoke detector)や、炭酸ガス消火装置を設備した船では,これらの細いバイプが目に入る。この種のバイプは,荷役時に貨物が当ったりして無残にも,ぐにゃぐにゃに屈曲していることがある。バイプがつぶれて塞がっていると,火災探知ができなかったり,炭酸ガスが出なかったりするので,足場を設け,早急な修理が必要である。

(1) 桁端部の亀裂

 ハッチ側部に前後方向に配置されている大きい桁,艙口側桁(Hatch side girder)の端部は隔壁で支持されているが,往々にして,桁と隔壁との取合いのブラケットに亀裂が生じていることがある。亀裂が進展して甲板に及ぶと,当然のことながら,甲板が垂下する。このような事態に至らないうちに手を打つ必要があり,艙内に入ったときは,桁の端部には注意しよう。甲板間の高さが高い船や,一層しかない甲板裏では,下から見ただけでは,亀裂は判り難い。艙内に降りるとき,タラップで一時停止し,甲板裏を眺たり,貨物を積んだとき,その上に乗って眺めておくとよい。


第5図 甲板桁端部の亀裂(1)
面材の寸法が変わる所の熔接部から亀裂が発生しWebに進展した例



第6図 甲板桁端部の亀裂(2)
Bracket先端で面材に亀裂が生じwebに進展した例



第7図 甲板裏の検査
艙内に入る梯子を降りるとき途中で甲板裏を調べる時は、安全ベルトを着けるか、肘をステップに掛け落ちないようにする


(2) 艙口端梁の亀裂

 ハッチの前後端にも,大きな梁が左右方向に配置されており,端部は,ハッチの隅の柱で支えられていたり,外板まで伸びて特設肋骨とブラケットを介して取り合っている。この艙口端梁 (Hatch end beam) の端部にも,前記,艙口側桁の場合と同様な亀裂が潜んでいることがある。また,片持梁構造の甲板では,すでに取り上げたように基部が座屈していたりする。写真2は,No.1 Ho1dのハッチ前端の艙口端梁に生じた亀裂で,この位置の亀裂は,空艙時では,肋骨に取り付けられたスパーリングをよじ登って調べないと,下からでは判らない。


写真2 No.1 Hold ,hatch 前端における Web frame 上端の亀裂
面材の継ぎ目の溶接と Face plate と Web plateも切れている



写真3 Face plate の亀裂
写真2の位置を下から見たもの


(3) 柱 (Pillar) の頂部

 片持梁構造でない甲板では,桁は艙口の四隅に設けられた柱で支持されているのが普通である。一般に柱の上端,桁との取合いに亀裂が生じる例は,柱下端の亀裂と比べれば,稀れであるが,皆無ではない。甲板の二重張りの項で取り上げた S 丸では、柱の上端の溶接が外れ、第8図のように、柱が傾いた例もある。深水槽内の柱と違って、貨物艙内の柱は上からの荷重を支えるだけの役目なので、端部に多少の亀裂が発見されても心配することはないが、傾いてしまったりすると、甲板の垂下につながるので、注意する。


第8図 傾いた柱


(4) 現場接手部の梁と桁

 昔の船は,船台上で,鋼板の一枚一枚,骨の1本1本を鋲で締めて建造されていた。甲板を例にとると,すでに工事の終わった外板や隔壁に桁と梁を渡し,その上に鋼甲板を一枚ずつ乗せて鋲を打ち,甲板を張り詰める方法が採られていた。溶接が発達した現在は,ブロック建造が採用されており,屋根のある溶接工場で,クレーンの能力の範囲で,船体の一部となる構造物(BlockまたはSub-assemb1yと呼ばれる)を組み立て,それぞれを船台に運んで搭載し,現場で,その周囲のみを溶接して建造が進められている。このブロック相互の船台上での現場接手はブロック・バット(B1ock butt)と呼ばれている。甲板の場合は,工場内の定盤の上に甲板となるべき鋼板を並べ溶接し,一定の広さの鋼甲板を準備し,この上に桁や梁を縦横に配置して溶接し,必要な場合は,その部分の配管工事も行い,完成された甲板の一部を組み立ててしまう。次いで,クレーンによって裏返して船台に搭載し,既に搭載してある隣の甲板のブロック,外板,隔壁との取合いのみを現場で溶接することになる。従って,作業環境の悪い足場上での現場溶接以外の溶接工事は,作業のやり易い地上で行われるので,昔のように総てが現場で行われていた頃と比べると,品質は格段に良くなっている。


第9図 鋲構造時代の甲板の取付け
梁と桁とを配置し、その上に鋼甲板を一枚一枚並べて鋲で締めて工事が行われた。



第10図 甲板のブロック
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上下逆の状態で組立てる


 このため,現在の船で,工事不良により損傷が生ずる可能性のある個所である,泣きどころは,甲板に限らず、現場接手の溶接部ということになる。現場接手の位置は、鋼材配置図(Construction profile & Deck plan)、外板では外板展開図 (Shell expansion plan) に記入されている。
 この個所では,鋼甲板,梁,桁が一線で現場溶接されている。この現場溶接に万が一不良溶接が潜んでおり,甲板に集中荷重が加わったりすると,梁や桁の溶接部に亀裂が発生し,甲板の亀裂につながる。甲板の上面,裏面に限らずあらゆる場所で,この現場接手部には注意を払っておくのが良い。普通,鋼板相互の現場溶接は,単なる板の溶接なのでほとんど問題になることはないが,梁など小骨の現場接手は溶接がやり難いので,往々にして溶接欠陥が内在する可能性がある。


第11図 外板展開図(Shell Expansion Plan)
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長いS印∫との印は,現場接手(ブロックの境界)を示す。これらの印で囲まれた部分がプロックとして地上で組立られて船台に塔載される。Ⓐは外板のブロック,Ⓑ,Ⓒは二重底のブロックである。



第12図 甲板と外板との現場接手
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第13図 骨相互の溶接


(5) 甲板間肋骨.隔壁防護材の下端

 下層甲板の外板側,隔壁側を一順してみる。周囲に配置されている甲板間肋骨、隔壁防撓材は,普通,型鋼が使用されており,そのwebは薄いので,その根本が腐蝕し,幽霊のように足がなくなっている例がよくある。甲板間肋骨や、特に後端壁の防撓材の下部は,ビルジが溜り易くジメジメしていることが多いため,その足元がすぐ腐るわけである。古い船では,下層甲板に降りた際,甲板間肋骨の足もとを,テストハンマーの尖った方で叩くと,孔のあくものが何本かあるはずである、この修理方法としては,骨の下部約30僂阿蕕い鮴擇蠡悗┐襪,厚めの板を使って,ブラケットを増設すれば良い。ただし,第15図のように,甲板間肋骨が,甲板の下に延びている構造の船では修理は少し厄介になる。この種の損傷は、深水槽(Deep tank)直上の肋骨下端,居住区側壁の肋骨下端(普通は内張りがしてあるので,内張りを外さないとわからない)にも生じる。


第14図 甲板間肋骨下端の腐食



第15図 甲板を貫通した肋骨


 以上数回にわたって甲板の泣きどころを取り上げてきたが,上甲板裏,第二甲板について損傷の生じ易いところを第16図に纏める、甲板の泣き所は終わることとする。


第16図 甲板の泣き所




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