37.貨物艙(2)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


4 貨物艙(Hold) その2

4.2.3.5 肋骨下端肘板の亀裂または腐蝕

 肋骨下部肘板と二重底頂板との取合部の亀裂または腐蝕も,肋骨の損傷と同じ重大な事故につながることは,第1回のフィクションで取り上げた通りである。僅か数本の肋板下端が衰耗し内底板から遊離したため,外板が割れ,その船は,アレス湾の藻屑と消えてしまったと考えられる。この種の損傷は,二重底頂板が,舷側まで平担な構造になっている船に生じ易い。この部分は,ビルジに漬っていることが多いため腐蝕が早く,一方,貨物による衝撃も受け易いためである。しかし、本船の中央断面図を眺めて,二重底頂板が平担になっていないといって,安心はできない。


第1図 二重底側部の形状


 船首部の貨物艙では平担になっている例が多く,機関室も平担になっている船が多い。ただし,機関室の場合は,この種の損傷例は比較的少ないが,老令船では,機関室のビルジを清掃したときに注意して調べておくと良い、貨物艙の二重底頂板が平担な船では,船令が8年ぐらいから徴侯が現れるので,内張板があるときは,肋板下端部を一部取り外して、テストハンマーで叩いて調べておく必要がある頂板上20〜30个旅發気良分のみが極端に薄くなっているのに驚かされることがある。この場合は,即座に肘板を切り替える措置が必要である。この際,肘板の下の二重底が燃料タンクであれば,油を他のタンクに移し、ガスフリーを行ってから工事にかかることを忘れてはならない。写真1,2は肘板の下部が腐蝕により切断し,外板が腰を折り亀裂が生じた例である、本船、C号は1977年11月中旬ビスケー湾を航行中,.No.1 Holdに浸水,急遮ビルバオに入港した。貨物はパーライトで,艙内は泥の海と化してしていた、貨物を左舷に移し,船体を傾かせて,浸水部を、調べると,第2図のように,外板は2個所に,それぞれ250mm, 100mm の亀裂が生じ,海水が浸入しているのが分かった。亀裂の生じた外板は,腰を折ったため,外側に脹れており、内外面からの二重張りにより応急修理をすることは困難であった。ダイバーにより,外側から危裂部にウエスなどを詰め水止をしてから 第3図 のような塞ぎ板を内部から溶接して水止めをし,セメントボックスを施し,揚地迄での航海が許され,揚荷役,直らにドックで反対舷も調査し,完全修理が指定された。発見が早く,外仮の亀裂は局部的であったので,沈没は免れたが,恐るべきは肋骨下部である。


写真1 C号のTank side bracket下端の腐食



写真2 外板の腰折れと亀裂



第2図 C号のTank side bracket下端の腐食
Bracket の下端が腐食で消滅しており肋骨は浮いた状態になっている。このため、上からの荷重で外板は腰を折り一部に亀裂が生じていた。



第3図 C号肋骨下部の応急修理
Bracket 下端を二重張りの板で内底板に固着させ、亀裂部は外板が腰を折っているため普通の二重張りが不可能で、図の様に外板の歪みに合わせて箱を作り内部にセメントを流し込んだ。



第4図 C号のTank side bracket下端の外板と内底板
外板が腰を折った部分とbracket直下の内底板はかなり薄くなっていたはずである。


 この種の損傷の完全修理としては,亀裂の生じた外板の切替えと,肘板の新替えということになる。場合によっては、内底板の外板寄りも衰耗して薄くなっていることがあるので,腐蝕の状態に注意し,内底板の外板寄りを切り替えるか,二重張りを施しておくとよい。なお,本船は,1964年3月に完成した長さ86.80m,幅14.60,深さ7.50m, 2,894総トンの貨物船で,損傷発見時の船令は13年8ヵ月であった。その後の報告によると,No.1 Ho1dの肋骨下部肘板は,過去におけるグラブ荷役で多数が変形しており,腐蝕もはなはだしく,この貨物艙の肘板は、左舷が18枚,右舷が17枚No.2 Ho1dでは,左舷が14枚,右舷が9枚切り替えられており,亀裂の生じていた、No.1 Holdの左舷外板は,約5mが切り替えられている。

4.2.4 昔から肋骨の下部は切れたか

4.2.4.1 1955年以前

 貨物艙の何本もの肋骨下部に亀裂が生じているのが初めて発見されたのは、次に取上る、1959年に損傷が発見されたA丸であろう。これ以前の損傷報告を調べてみると、肋骨の亀裂の例は少なく、1937年に建造された、次の寸法の貨物船が,船令17年6ヵ月において,第4貨物艙の肋骨13本に亀裂が生じているのが報告きれている。この船の寸法は次の通りである。
長さ143.25m、 幅18.90m、 深さ9.63m 喫水8,512m
 恐らく衰耗によるものと考えられるが,位置は本稿で取上ている肋骨下部ではない。この他の例としては,第5図のようなものがある程度である。これらの亀裂は局部的なもので,原因は工作,設計の不良,岸壁接触などによるものと考えられる、戦前の鋲構造の船でも,この種の亀裂は稀なようで,1943年に発行された山口増人氏の名著“船体構造と故障の研究”を調べてみると,7,300総トンの油槽船で機関室の肋骨が,数本切損した事故が報告されている程度である。鋲構造の船に特有な鋲の弛緩も、肋骨下部の鋲が,他と比べ特に弛み易いといった、記録は見当たらない。むしろ、肋骨下部の肘板 (Tank side bracket) と二重底縁板(Margine p1ate) との取合い鋲と、控板 (Gusset p1ate) の鋲に弛緩や折損が生じる例が多かったようである。参考までに,鋲構造船の肋骨下部構造の一例を第6図に示す。このような事実から推察すると,肋骨下部の亀裂は,溶接構造の船に特有なものと考えられる。また,貨物の種類が時代とともに変わり艙内の積付けが変化したことも原因の一つかも知れない。


第5図 鋲構造の船の肋骨下部構造例



第6図 鋲構造の船の肋骨亀裂例


(1) 82.30 x 12.20 x 6 .20 - 5.367, 1948年4月建造, 船令5年1ヵ月目に艙内肋骨1本に亀裂発生
(2) 93.00 x 13.70 x 7.60 - 6,457, 1949年1月建造,船令6年目に機関室内肋骨2本に亀裂発生、亀裂は補機台取け用ブラケット取合い部
(3) 128.00 x 17.80 x 10.00 - 7.963 1951年12月建造 ,船令3年3ヵ月目に機関室内肋骨2本に亀裂、Air trunk取付け用ボルト孔から生じた。
(4) 26.80 x 5.35 x 2.65 1947年建造, 船令8年6ヵ月目に艙内肋骨1本が亀裂
(5) 85.00 x 12.50 x 6.50 - 5.676 1948年4月建造,船令4年目に艙内肋骨6本に亀裂溶接不良によるとされているが詳細不明

4.2.4.2 A丸の損傷

 本船は1950年12月に第5次計画造船として建造された、中央部に機関室を有する典型的な三島型貨物船で,要目は次のとおりである。

主要寸法(m) 1127.00 x 17.80× 8.80 − 7.79
總トン数 5,381
甲板の層数 2
主機 タービン3,200Hp8本/45.47-53)


写真3 三島型貨物船A丸


 損傷が発見されたのは,1959年5月の中間検査のときで,当時,船齢は8年5ケ月,中央部の機関室を除き.貨物艙内の肋骨73本の下部に亀裂が発見され、それまでにはこのよう広範囲に亘る損傷は無かったので大騒ぎになったものである。亀裂の状態は,肋骨下部肘板上端のものと,肘板と肋骨のラップ部に添ったものの2種類であった。発生個所と数は第7図のとおりで、二番艙が圧倒的に多く,両舷で合計52本の亀裂のうち83%に当たる43本が.二番艙に発生してしいた。本船は新造以来,損傷が発見されるまでの間に41航海就航しておリ,そのうち11航海が鉄鉱石の運搬に当たり、残りは穀物、砂維,塩,燐鉱石,雑貨などを積んだとされているこの間、特に異常な積付は行っていない。また、損傷を起こした鋼材も良質なもので、衰耗も特に著しいほどではなく、肋骨の強度はNK及びABの規格値を満たしており、当時は原因不明で、何らかの特異な損傷と考えられた。


第7図 A丸の肋骨下部の亀裂位置
※クリックすると拡大します
外側の数字は亀裂の本数、( )内は亀裂が生じた肋骨番号


4.2.4.3 B丸、C丸の損傷

 その後,A丸の損傷を念頭におき、肋骨下部については,特に注意を払って検査が行わったが、同構造で同等船令の船でも何ら異状のない船が多く,特に定航航路の船では,将来亀裂の生ずるような局部的なペイントの剥離やひびなど,疑いのあるものすら認められなかった。ところが,1961年初頭になり,不定期船B丸およびC丸に相次いで,肋骨下部の損傷が発見された。これらの船は,第21図および第22図のように、いずれも中央部に機関室が配置された三層甲板船で,機関室の前に3つの貨物艙があり、機関室後部は深水槽兼用の4番艙、その後部は5・6番艙と、合計6つの貨物艙がある。


第8図 C丸のプロフィール
※クリックすると拡大します
128.00 x 17.50 x 10.50−8.47 , 6,649.17G/T,
主機 Sulzer 64D72, 4,800BHP 12/’50建造



第9図 C丸の肋骨下部の亀裂位置
※クリックすると拡大します
外側の数字は亀裂の本数、( )内は亀裂が生じた肋骨番号



第10図 B丸のプロフィール
※クリックすると拡大します
131.00 x 18.40 x 10.40−8.18 , 7,186.93G/T,
主機 MAN 6S4D74, 4,700BHP 11/’51建造



第11図 B丸の肋骨下部の亀裂位置
※クリックすると拡大します
外側の数字は亀裂の本数、( )内は亀裂が生じた肋骨番号


 両船とも,亀裂はは船首に近い2番,3番艙に集中しており,B丸は含計25本。C丸は51本の肋骨下部が切損していた。損傷の生じた肋骨の位置を第9図及び11図に示す。
 B丸の損傷は,A丸の場合にほぼ類似して,肋骨下部肘板上端の溶接による熱影響部において、第12図のように肋骨自体に亀裂が生じているが、C丸の場含は様子が違い,肋骨下部において、第13図のように肘板に亀裂が生じている。両船とも,鋲構造から溶接構造に移る過度期の船で,肋骨と外板,肘板とは溶接で固着されているが、肋骨と外板相互は鋲接になっている。各船の肋骨下端の詳細は,箔27図および第28図のとおりで,C丸の方が溶接使用率は少ないことがわかる。中央部に機関室のあるこの種の船では,機関室前部のNo.2,No.3貨物艙の損傷が圧倒的に多く,亀裂が生じた肋骨のうち約80%はこの部分に集中している。


第12図 B丸の肋骨下部の亀裂
肋骨の寸法は300 x 90 x 12/15.5 IA, 外板のシームは鋲接になっている


 C丸は、合計54箇所に亀裂が発生しているが、この中の61.4%が N0.3 貨物艙に生じている。この部分は、上甲板上に船橋楼甲板が延びているため船体の横強度は他の貨物艙と比べかなり強くなっているにも拘らず、亀裂が集中しているのは理解し難いことである。
船体各位置に於ける亀裂発生本数と全体の本数との比を第1表に示す。


第13図 B丸の肋骨下部の構造
船側外板は17mm,ビルジ外板と船底外阪は18弌内底板は12mm、Tank side bracketは12mmで,上縁には90mmのflangeがつけられている。Margine plateは13mmであることがわかる。肋骨は深さ 300mm、厚さ12mm、そのflangeは90mmの幅があり.厚さ15.5佻捷と外板は9.5个竜喞垢巴蚤獲論椶気,75个溶接され265mmは溶接されず,次の75mmが溶接されていることを示している。



第14図 C丸の肋骨下端 Tank side bracketの亀裂
肋骨の寸法は 300 x 90 x 12/15.5CH, Tank side bracketと外板の取合は鋲接になっている。図示されていないが、外板相互のシームも鋲接で、肋骨とブラケットの取合は溶接である。



第15図 C丸の肋骨下部の構造と図面の説明
船側外板も船底外板も16弌内底板は11弌Tank side bracketも11mmで、上縁には100mm幅のflangeがつけられている。Margin plateは13,肋骨は深さ300,厚さ12个離Ε┘屬領沼Δ防90.厚さ15.5mmのフランジを有する溝型鋼(Channel)で Tank side bracket とは10mmの脚長で溶接されており、外板とは鋲接されている。Tank side bracket とビルジ外板とは 90 x 90 x 13 の山型鋼を介して鋲接され、Margin plate との取合はそれに溶接された 90 x 10 の平鋼 (Flat bar)を介して鋲接されている。外板相互は鋲接でSR は一列鋲(Single rivet), DB は二列鋲 (Double rivet) であることが図示されている。二重底の肋板上縁には90 x 10 の平鋼が溶接され、これを介して内底板と鋲接されている。船首部の肋骨は125 x 75 x 13 の山型鋼で補強されており、二重底頂部は平坦になっており、Tank side bracket と内底板とは鋲接されている。


 これによれば、最前部と最後部の貨物艙と機関室は損傷が少ないことがわかる。中央部にある機関室は、上部に船楼、甲板室が重なっており、二重底の深さも幾分深くなっており、内部からの荷重も殆どないためである。
 機関室の肋骨に亀裂が生じ外板に及ぶと機関室な内への浸水につながり、修理する場合も補機類やパイプ類が輻輳しているので付帯工事も多く、修理期間は長くなるが損傷が殆どないことは救いである。
 亀裂が発見されたときの修理方法に就いては、程度により溶接補修、切替えなどが行われ,これらについては既に取上たが、B丸,C丸などで実際に行われた修理の例を第16、17図に示す。なお、B丸については,亀裂の生じた肋骨のウエブより材料試験片を切り取り,材質を調査したが、結果は第2表のとおりで,材質に異状はなく,他の船においても鋼材には問題はないのが常である。


第1表 肋骨亀裂の位置別の百分率
※クリックすると拡大します



第16図 B丸の肋骨下部の修理
亀裂の生じた肋骨は切替え、Tank side bracket 部のウエブ、フランジに二重張りを設け、フランジの反対側にも平板を取り付けた
(固め過ぎた嫌いもある)



第17図 C丸の肋骨下部の修理
Tank side bracket の亀裂部を切替え、肋骨のフランジを延長し補強とした



第2表 B丸の亀裂を生じた肋骨の材料試験結果




トップページへ このページの先頭へ 次のページへ