39.貨物艙(4)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


4 貨物艙 (Hold) その4

4.3 肋骨の一般的な損傷
 前回は,貨物船にとって最大の泣きどころである肋骨下端の亀裂を紹介したが、今回はそれ以外の肋骨の損傷を眺めてみることにする。損傷の種類としては前に取り上げた亀裂の他に屈曲,横倒れ,腐蝕が考えられる。これらの損傷は,肋骨下端の損傷と比べると,それほど悪質ではなく,病気でいえば,風邪や下痢程度のものである。しかし,余病を併発すると危険な場合もある。たとえば,木材運搬船で,多数の肋骨が横倒れをしているのを放置しておき,たまたまその位置に大きな水中浮遊物が激突すると,横倒れした肋骨は,これにたまりかね,遂には,外板に破口が生じる恐れがある。正常に取り付けられている強度を100とした場合,15度横倒れをしたときの強度は10%低下するにすぎないが,45度も横倒れをすると肋骨の強度は半分以下に落ちるので,隣同志の肋骨が何本かにわたって45度以上も横倒れしていれば,かなりの重症ということになる。肋骨の損傷は,その位置により,貨物艙に特有なもの,甲板間肋骨のみに生じるもの,機関室の肋骨に現われるものがあるが,この項では,位置には無関係な損傷を拾ってみよう。



第1図 横倒れをした肋骨


4.3.1 他物接触によるもの
 肋骨の損傷としては,最も件数の多いもので,原因は,水中浮遊物の接触によるもの,岸壁接触によるもの,あるいは,洋上接舷を含めた他船接触によるものの何れかである。損傷の生じ易い位置としては,水中浮遊物の場合は,船首寄りに多いような気がするが必ずしも位置は一定しておらず,木材運搬船では,荷役時に木材が当たると考えられる,艙口が位置する部分の外板が凹入し,それとともに肋骨も屈曲する。


写真1 岸壁接触による肋骨下部の屈曲



写真2 木材の荷役 (1)


 岸壁接触により損傷を受け易い位置は,以前、冬季に釧路港に入港する船は,船尾部の水線上部を痛め易い,など,損傷位置により,どこの港に入ったか推定できることもあったげ,接岸方法,曳船の馬力,港の状態により一概にはいえない。しかし,一般に,船側外板の項で述べたように,船側外板平行部の前後端(普通,外板のR止りと呼ばれる)が多い。(第2図〇仮)。


第2図 肋骨損傷の生じ易い個所


 また、セントローレンス運河など,狭水路を通過する船では,水線と上甲板間の船体中央平行部の肋骨が防舷材とともに屈曲することがあったが、最近では航路が整備されこの損傷は無くなっている。インドのゴアなど荷役設備の悪い港で鋼製艀を介して鉱石の積荷を行う船では,鋼製艀の接触により,局部的なシャープな外板の凹入に伴った肋骨の屈曲例が報告されている。肋骨の寸法は,一応過去の経験によって定められているが,強度を論ずる場合は,主として,外板を介して伝達される船外からの水圧を支持できるよう強度計算が行われている。このため, 岸壁や水中浮遊物などに接触し,集中的な外力,または,衝撃的な荷重を受けると,案外弱いものである。家庭の窓ガラスは,一様に荷重が加わった場合,かなりの風圧にも耐え,台風にもビクともしないが,いたずら小僧の投げた石には簡単に割れてしまう。若し、石を投げられても割れないようにしようとすれば、相当厚いガラスにするか網入りガラス、強化ガラスを使用しなければならない。肋骨も岸壁等に接触しても絶対曲がらないようにすれば、ベラボウに太いものとせねばならず、貨物艙の容積は減り、船体の重量は増え、船は使い物にならなくなる。 幸い、窓のガラスに相当するものは、肋骨ではなく外板であり、外板はガラスと比べ強度は格段に強く、大きな集中荷重が加わっても割れることはない。従って、桟に相当する肋骨が多少曲がっても船の安全にはあまり影響はなく、艙内に入り肋骨が多少曲がっているのが発見されても亀裂さえ伴っていなければ大騒ぎをすることはない。 しかし、肋骨の曲がりは、外板の凹入に付随して起こるもので、曲がった肋骨の付近の外板は凹入により、かなり伸びきっておりこれを何時までも放置しておき、再度、同じ、位置に直撃を受ければ、今度は、外板、肋骨ともこれに抗しきれず外板に亀裂が生じることも考えられる。 従って、肋骨に大きな曲がりが発見されたとこは、なるべくその部分をかばうように操船し、次回のドックの時期に修理をすればよい。なお、肋骨の曲がりといっても、全長にわたってじわっと曲がった話で、局部的にガクット曲がった場合や、亀裂を伴った曲がり、或いは、外板との溶接が外れたりしている場合は最寄の港で検査を受け、適切な処置をとることが望ましい。


第3図 肋骨の屈曲


4.3.2 修理工事の不良……何のために修理したのか ? 
 亀裂や他物接触などによる肋骨の曲がりを修理する場合、悪い部分を切り捨て、その部分を新しい部材と取り替える、所謂、切替え(φ)が行われることが最も多い。ところが、折角修理をしたにも拘らず、新しい肋骨と古い肋骨との取合い部の溶接が第4図の様に再び切断する例が案外多く、D丸の例で、前回取り上げた通りである。 これは、既に述べた様な、インチキ工事や溶接順序の誤りが原因である。溶接が終わってから溶接部を眺めただけでは、不正な工事が行われたかどうかは分からないので、機会を作って工事中の様子を見ておくと良い。


第4図 肋骨切替え部の亀裂再発


4.3.3 貨物艙内肋骨
 艙内肋骨の損傷としては、既に述べた下端の亀裂の他に、貨物が激突したためによる曲がり或いは横倒れ、荷役時のトリミングによるアイ取付け部の損傷、腐食等がある。

4.3.3.1 貨物による損傷 
 典型的なものは,木材運搬船における肋骨の横倒れである。1本の重量が10トン以上もある南洋材が,積付け時,肋骨や隔壁の防棲材に激突すると,木材専用船として特別に丈夫な肋骨を配置した場合を除き,通常の寸法の肋骨では簡単に横倒れを起こす。したがって,ドックの度毎に何十本もの肋骨の修理が行われる船が多い。この対策として,毛利元就の矢のように,1本1本の独立した肋骨では弱いので,第5図に示すように,隣同士の肋骨を平鋼で継いで,協力して木材に対抗するようにしたり,肋骨が横倒れをしないよう,第6図のように肘板のようなカーリングを設けたりすることが行われており,このような補強を施しておけば,木材による肋骨の横倒れに対しては非常に有効である。


写真3 木材の荷役 (2)



第5図 平鋼による肋骨横倒れの防止法



第6図 Tripping bracket (Slant plate) による肋骨横倒れの防止法


4.3.3.2  荷役による損傷
 艙口直下に積み込まれた貨物を,前後,左右に引き込むトリミング作業は,一般貨物船にとって,荷役時の大きな作業である。貨物の種類によって,フォークリフトを艙内に入れ,これで貨物を移動できればよいが,肋骨のフランジ,あるいは,肋骨に取り付けられたアイを利用し,これにロープをかけて,ウインチによりトリミングを行う場合,往々にしてフランジを曲げたり、肋骨と外板の溶接を切断してしまうことがある。このような荷役を行ったときは,揚げ荷の後で,ロープを掛けた肋骨や,アイの部分を調べておくとよい。肋骨の損傷とは関係ないが,アイが傷んで切れそうになっているのに気がつかず,次の積荷の港で,そのアイを用い,アイを飛ばして人身事故でも起こしたら,大ごとになる。


第7図 トリミング用アイ取付け部の肋骨のフランジの屈曲


4.3.3.3 腐蝕 
 塩や銅鉱石 (Copper concentrate),ある種の石炭などを常時運搬する船では艙内各部において腐蝕の進行が早いが,比較的板厚さの薄い肋骨のウエブは錆だらけになり,簡単に孔があき,点検,修理を怠ると,写真3のような状態になり,莫大な修理費を払わねばならなくなる。艙内の肋骨が全部このようになると,船にとって非常に危険で,腐触性の貨物を連続して積んだ場合は,発錆の状態に注意し,厚さが1僂發△襪茲Δ併が生じている肋骨では,ウエブの破口の有無,板厚の衰耗状態を調べておいても無駄にはならない。

写真4 肋骨の腐食
錆でウエブが殆ど無くなっている


腐蝕の予防は錆打ちと塗装である。船を長持ちさせ,安全な運航を続けるためには常時,錆打ちと塗装を繰り返せば良いが,最近のように乗組員の数が減り,ドック期間も短縮され,一方足場や錆打ちの費用がかさむ時代では,船の寿命も短くなり,大量消費時代の例にもれず,船もおのずと使い捨ての傾向になっていくのかもしれない。艙内肋骨ウエブの腐蝕の他に,肋骨の腐蝕として,第二甲板,第三甲板のある船では,甲板の項で既に取り上げたように,甲板間肋骨の下端が腐り易い。重複を避けるため,ここでは,腐触し易い部分の図のみを紹介するにとどめる。
第8図 甲板間肋骨下端の腐食


4.3.3.4  特設肋骨 (Web frame)
 貨物艙内には,ところどころに深さの深い特設肋骨が設けられている。特設肋骨は寸法が大きいので,普通の肋骨と比べ損傷は少ないが,船首部の一番艙では,上端および下端に亀裂の生じる例がよくある。
(1) 上部の亀裂 No.1 Hatch前端に位置する特設肋骨は,第9図に示すように,甲板裏で,派手に亀裂が生じその長さは30cm以上にも達し,一般貨物船に現われる亀裂としては横綱級ではないにしても,三役級であろう。前にも取り上げたように,この個所の亀裂は貨物艙に入ってから見上げるだけでは発見は困難で,艙内内張り(Side sparring)を伝って,申板裏まで冒険を試みないと見つけることはできないのでいやらしい。ただし、No.1 Hatchの後端や,ほかの貨物艙の特設肋骨上端には,この種の亀裂が発生する例は非常に稀である。修理は亀裂部を切り替えるだけではなく,何らかの補強をしておかないと亀裂再発の可能性が多い。写真4および写真5に特設肋骨上端のWeb plateとFace p1ateの亀裂を示す。

第9図 特設肋骨上部の亀裂
上まで登って調べないと分からない





写真5 特設肋骨上部の亀裂 (Web plate)


写真6 特設肋骨上部の亀裂 (Face plate)


 (2) 下端の亀裂下端の亀裂これも一番艙に設けられた特設肋骨下端によく現われる損傷で,ほかの貨物艙では,ほとんど見かけない。亀裂の状態は第10図のとおりで,時には,肋骨の先端で内底板の方に亀裂が生じ,下のタンクのバラストあるいは油が艙内に゚?み出ることがある。原因は,船首部の外板が波に叩かれ,他の一般の肋骨は,“暖簾に腕押し"と適当にたわむが,特設肋骨は丈夫なので頑強に抵抗するためではないかと考えられる。修理としては,普通,下端に第11図のように下駄をはかせたり,Face p1ateの先端に撥板 (Gusset p1ate)を設けたりするが、なかなか上手く直らず、再度亀裂が生じる例がよくある。


第10図 特設肋骨下部の亀裂
特設肋骨下端の撥板(Gusset plate)と下駄(Pad) Gusset plate の先端は隣の肋板の上に止めるか、内底板の裏面を補強しないと Gusset先端で内底板に亀裂が生じることがある




第11図 特設肋骨下端の下駄(Pad)と撥板(Gusset plate)
Gusset の先端は隣の肋骨の上に止めるか、内底板の裏面を補強しないと、Gusset の先端で内底板に亀裂が生じることがある。






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