40.貨物艙(5)


I. 船体損傷に関する一般的な事柄


4 貨物艙(Hold) その5

4.3 肋骨以外の艙内の泣きどころ
 肋骨の損傷については,すでに述べたのでここでは,貨物艙内での肋骨を除いた各部の問題点を拾ってみることにする。暑い夏がやってくると,満員電車で通勤する都会のホワイトカラー族にとって,痛くもない腹をさぐられることになる。満員でむしむしする電車から開放され,一日のエネルギーの半分ぐらいを消耗して会杜にたどり着き,タイムレコーダーを押し,やっと自分の席に落ち着く。やれやれと一服し,何げなく胸もとを見ると,紅い口紅が白いワイシャツにくっきりとスタンプされているのに気がつく。気の弱い男は,何かとんでもない悪いことをしたような気がして,仕事はそっちのけで,早速,消しゴムでこすってみたり,手洗いに飛び込んで洗ってみたりする。また,図々しい奴は,いいだろうなどと得意になって人に見せびらかせたりする。ところが,自分で気がつかないうちに,他人に見つかるとたちが悪い。こっちの心の準備も出来ぬままに、痛くもない腹を探られる結果になる。


写真1 満員電軍では,時におもわぬハプニングが…


揚げ荷の後,開いている艙口から、下を眺めてみよう、ワイシャツに付いた口紅のように,どこか1箇所でも他と違った汚れに気がついたら,損傷の疑は十分にある。 外板の一部に口紅ならぬ茶色の錆が見つかったら亀裂上じている恐れがある。内底板の一部が黒く汚れていれば,内底板に亀裂があり,二重底タンクの油が漏れた疑いがある。雨も降らないのに,どこかが濡れでいれば,その付近のタンクからの漏水と考え貨物艙に入って,調べても無駄にはならない。               


第1図 艙内の汚れ
変な汚れが見つかったら注意しよう。



写真2 Ho1dの中 (1)
原木積みによる損傷を防止するために、肋骨と隔壁防撓材には、補強の平鋼 (sparring)が取り付けられている。





写真3 Holdの中 (2)
貨物を積んでいるときは貨物の上に登れば貨物艙の高いところが容易に見られる、ただし危険が伴うので注意が必要


塗装の剥離・荷役によるロープの摺り傷,折れたスバーリングなど,艙内には多くの汚れ、異状な部分がある。老齢船では疑っていてはきりがないかもしれないが,口紅ならぬ艙内の局部的な汚れには十分気をつける必要がある。

4.4.1 外板の亀裂
 船にとって最も恐ろしいのは船側外板の亀裂,破口であることは,今さらいうまでもない。肋骨下端の亀裂が貨物船にとって最大の泣きどころであると述べたのもこれが進行すると船側外板の亀裂の原因となるからである。ある程度以上の亀裂が生じた場合,もっとも,このような事態に立ち至ったら大ごとであるが艙内のビルジが異状に増加するので,定期的にサウンディングを行っていれば艙内への浸水はわかる。しかし,このような状態になる前に亀裂の芽を発見し,あらかじめ,適切な処置を取る必要がある。入渠中の船について,船体外部から,船側外板の異状をどうして発見するかについては,既に触れたので,以下,艙内から眺めた場合の診断する場所を考えてみることとする。繰返しになるが,艙内に入って,あたリを眺めまわし,異状な汚れ方をしている個所が怪しいことになるが,次のようなところが,艙内でのチェックポイントである。

4.4.1.1 肋骨の下端
既に述べたとおりである。

4.4.1.2 ビルジキールの端部
最近は,海陸ともに暇のない世の中になってきた。と書いて見たが本当に昔は暇だったのだろうか,文明の流れは人間を楽にさせるように動いていると考えられる。両舷に櫨を沢山並べ,帆は補助として使用されたローマ時代の軍船,櫂のみで航走した5世紀頃のゲルマン人のバージ,コロンブスよりも500年以上前に北米に上陸したバイキングの船,15世紀から18世紀にかけての多数の奴隷を漕手としたガレー船など人間の力で航海した船のことを思えば,文明の進歩は人間を楽にさせていることは事実である。


第2図 ギリシャの軍船 (船の歴史事典より)



写真4 ポルトガル王室のBergantim
1778年マリヤ一世の時代に建造され80人の潜ぎ手により航走する。英国のエリザベス女王がポルトガルを訪問したときにはテージヨ河に浮かべ,女王を乗せ航走した。(リスボン海事博物館に保存されている



第3図 ゲルマン人のバージ(Duden より)



第4図 バイキングの船 (船の歴史事典より)



第5図 ガレー船(Duden より)


 今ではコンピューターが複雑な計算や検索作業から人間を開放し,日本における.産業用ロボットの生産台数は1979年度の1,200台に対し,翌1980年度は2倍以上に増え,その後飛躍的に増加し1982年度では7,300台に連している,現在では100倍以上になっていると考えられる。身近な例として,誰にでもうなずけるものは,主婦の家事が考えられる。洗濯機は盥や洗濯板,腰の疲れる蹲踞の姿勢を追放し,ガス,炊飯器,電子レンジは,マッチ、付け木、薪、火吹き竹,煙と煤を追い払い,掃除機,冷凍冷蔵庫など,ここ40年の短期問に家庭の主婦ほど暇になった人種はないではないかと思われる。しかし,一方では,新技術の発達により,昔はやらなくても良かった仕事が増えてきている事実も見逃せない。Mゼロに関連した複雑な電子機器の取扱い,操作を誤れば大事故につながるIGS等々枚挙にいとまがない。この意味では,逆説的に,文明の進歩は,特定の人を忙しくさせると言う事もできる。暇になった家庭の主婦と反対の立場の例として,昔はただ運転だけをしていればよかったバスの運転手は,車掌のしていた扉の開閉,切符売り,停留所のアナウンスまで一人でやらされ,当時と違い車の急増,狭い道にはおかまいなしの車両の大型化で運転技術は,20年前とは比べものにならない程の高度化が要求されている、質の悪い船員をかかえた混乗船の幹部も,昔は考えられなかった多忙な生活を余儀なくされている。結局,忙しいか暇かということを客観的に決める判断基準は,関係するファクターが多すぎ,現在のコンピューターでしても,決められないと考えられる。人間は誰もが自分こそ一番偉いと思っており,自分の考えが一番正しいと思っているように,自分は何時も忙しいのだと思い込んでいるのではなかろうか? 忙しいか,暇かということは,簡単に言ってしまえば各人の気の持ちようということになるのであろう。余計なことが長くなったが,本題に戻ることとする。さて暇がない世の中になってきたが,機会を作って,本船に備え付けられている船体の図面を引っぱり出し,その中の「外板展開図」(“She11 Expansion P1an,一般に”シェルパン”と呼ばれている)を眺めておくとよい。第6図はその一部であるが,これには外板の板厚と配置,鋼板の種類などが記入されている。上端と下縁の中央部付近に,一点鎖線などで,ビルジキールの位置が示されている。それが見つかったならば,その両端がどこで止っているかを調べてみる。例えば,No.2 Ho1dの後寄りのビルジ付近に前端部があり,No.4 Ho1d前部に後端があることが分かれば,No.2 Holdのビルジが急に増え出したようなとき,ビルジキール先端部の外板の亀裂ではないかと的をしぼって調査することができる。


第6図 外板展開図(Shell expansion plan)の一部                        



第7図 外板展開図の見方
外板展開図は上図のように船底外板(船体中心線まで)を船側外板面まで展開したものである。               


 撒積貨物船のように,ビルジキールの端部がホッバータンクになっており,ビルジキール端部の外板に亀裂が生じれば,サウンディングのとき,船の喫水に応じて,測深した値が変わることになる。なお,時折り,ビルジキールの現場接手部で外板に亀裂が生じることもあるので,ビルジキールの両端の位置と,その現場接手の位置をも調べておくと,役に立つことがある。ビルジキール端部の外板の亀裂については,既に船体外部の項で取り上げているので省略する。





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