42. 機関室 (Engine room) 其の1

5. 機関室 (その1)

 5.1 機関室の特性
 貨物艙と機関室の環境条件に就いては、貨物艙其の5の第1表で纏めてあり重複するが再度取り上げてみる。これから分かる様に、機関室は貨物艙と違って貨物による内部からの荷重は無く、腐食も少ないこと等から沈没につながるような重大事故は滅多に起こらない。機関室に浸水して全損になる例は、海水吸入に関連する弁の誤操作、例えば、漉器(Strainer)  掃除のため漉器を開放中誤って海水吸入弁を開けて機関室に浸水、沈没に至るという人為的なものが多く、構造的欠陥による損傷は殆どない。

第1表 貨物艙と機関室の環境条件

貨物艙 機関室
@ 内部よりの荷重(貨物) あり(変化する) なし
A 外部よりの荷重(波浪) あり あり
B 温度、湿度の変化 多い 少ない
C 腐蝕 多い 少ない
D 振動 少ない 多い
E 上部構造 なし あり
F 内面 汚れている 綺麗

 これによると、Aの肋骨に加わる外部からの荷重、つまり、波浪による外力は、機関室でも貨物艙でも同じであるが、@の内部から肋骨に加わる力には大きな相違があることになる。機関室の肋骨に補機が取り付けてあっても、その荷重はたいしたものではないが、貨物艙では、自動車、プラント類、コンテナ等を積んだ場合、条件は機関室の肋骨と大差はなく、肋骨の損傷は少ない。しかし、原木、鉱石、穀類、スクラップなどを積むと、これらの貨物が肋骨を外に押すような形で内部荷重が加わることになる。船が平穏な海域を航行していれば、内部からの荷重は、第1図のように外部からの水圧と相殺する形になるが、荒天を航行中に、波の谷に相当する部分の貨物艙では、第2図のように貨物からの荷重がもろに肋骨に加わることになり、艙内肋骨は波の山と谷に遭う度に内外面から痛めつけられることになる。
第1図  波の谷での荷重
波の谷のときは内部からの荷重が直接肋骨に加わる

第2図 波の山での荷重
波の山のときは内部からの荷重は波の力と相殺する

第3図 波の谷で傾斜したときの荷重
波の谷で傾斜すると慣性力による動荷重も加わる

 Bの温度、湿度の変化は、機関室の方が一定で、高温、多湿の南洋材を、冬季に日本などの緯度の高い国に運ぶ場合、内部は温度が高く、外部は低温になり、艙内の条件は最悪になる。CはBに関連するもので、腐食の進行は、貨物艙の方が速いのは当然である。
写真1 機関室の肋骨(1)
第2甲板下の肋骨、肋骨は殆ど腐食していない

写真2 機関室内の肋骨(2)
第2甲板上の肋骨

写真3 艙内肋骨の腐食 (1)
腐食がひどくウエブは殆ど無くなっている

写真4 艙内肋骨の腐食 (2)
新造以来、雑貨やプラント類を運んでいたので肋骨腐食は少ない


 Dの振動については、機関室の方が条件は悪いように思われるが、主機の回転数、プロペラの翼の枚数によっては、共振により特定位置の貨物艙の振動が大きくなることもあり、必ずしも貨物艙の方が条件が良いとも言えない。

 Eの船体断面を考えて見ると、一般に、機関室は、その上部に居住区があるが、貨物艙は上方に構造物がないため横方向の強度は機関室の方に軍配が上がると考えられる。ただし、10層以上の甲板を有する自動車専用船の場合は、機関室も艙内も条件は大同小異と言える。

 Fの綺麗さに就いては、一般に貨物艙内は汚れており、機関室は貨物により汚れが無いので、周囲は比較的綺麗である。従って、異常も容易に発見出来る。外板面、壁面で局部的に汚れが見つかれば亀裂が生じている可能性が高い。タンクの壁面であったならば、タンクを空にして内部の検査が必要になる。


写真 5
機関室内外板の亀裂


 5.2 機関室内の損傷
 機関室内は油だらけで、修理点検工事中、ガス切断や溶接により火が油に引火し火災発生の危険が多い。機関室に入る場合は、事前に避難経路を確認しておく必要がある。

  5.2.1 肋骨
 機関室内の肋骨の損傷例は少ないが、強いて取り上げれば次の様なものがある。
第4図 機関室内の肋骨の損傷



   5.2.1.1 亀裂
 中小型船で、機関室が狭い場合、補機類やパイプの設置場所を十分に確保することができず、やむを得ず外板にまで寄せて設置することになる。このとき、第4図のように肋骨に直接、補機台を取付けたり、肋骨のwebやflangeにボルト孔をあけ、パイプバンドなどを固着する方法がよく行われる。この場合 、バイプに繋がっている補機の振動や、主機の振動によるバイプの共振により、パイプバンド取付け部、補機台取付け部の肋骨に亀裂が生じることがある。 既に述べたように、機関室内には、各種の補機、バイプ、ダクト等が配置されているので、肋骨の2、3本に亀裂が生じていても、なかなか気がつかず、放置しておくと肋骨の亀裂は進行して外板に及び、 機関室に浸水する可能性もある。 新造の時点では、どこがどう振動するか分からず、我々検査に携わる者として、機関室の振動を体験できるのは、軽荷状態の試運転のときしかなく、種々の載貨状態での振動は分からない。 乗組員の方は、航海中、機関室に入るときは、機会を見て外板側を調べて、そのときの載貨状態で、どの部分が共振しているかなど調べておくとよい。 機関室に限らず、船を検査する立場の者は乗船していないので実際に船が稼動している状態のことは分からない。


写真6 FO Heater
肋骨に取り付けられているが、熱交換器は振動源にならない
ので補機台取り付け個所の肋骨に亀裂が生じる惧れはない


   5.2.1.2 腐蝕
 機関室の外板寄りに、蒸気駆動の補機が取り付けられていると、熱や漏水により、また、ポンプでは水のしたたりによってその下部の肋骨、肋骨下端の肘板(Tank side bracket)、外板が局部的に腐蝕し、ハンマーで叩くと大きな孔があくことがある。 もっとも、機関室の肋骨下端部は、床板の下になっていることが多く、狭隘なため、近くに寄って調べることは困難で、小型船では、床板を外しパイプをくぐって、一たん潜り込んだが最後、出られなくなることもある。 さらに、この部分は通常ビルジが溜っているので、腐蝕の状態を調べることができるのは、5年毎の定期検査の時しかない。 幸い、この部分の腐蝕は急速に進行することはないので、船令10年以上の船でも、5年に一度調査しておけば十分である。 なお、機関室内の肋骨は、下端部以外の腐蝕は殆どない。

  5.2.2 中甲板
 機関室内の中甲板には、多数の熱交換器、発電機、Heater、 Purifier等が乗っている。 これらが甲板に及ぼす荷重はそれほど大きくないので損傷は殆どないが、次のような所に注意する。
(1) Boilerの下では、熱によってBoiler台や甲板が腐食しやすい。 冷凍機の下の中甲板がひどく腐食し、鋼甲板が無くなり、Deck beamのみになっていた船があった。その箇所は下がDeep tankであり 、また、リセスになっておりBilgeが溜りやすい所であったことが原因と考えられ、冷凍機の下が腐食しやすいとは言えない。
(2) 発電機台は振動により、亀裂が生じる可能性があるが、筆者は発電機台の亀裂にはお目に掛かったことはない。 しかし、一応、注意するにこしたことはない。


写真 7 発電機台
第2甲板上に発電機据付工事中で台構造が良く見える

(3) 船尾振動の多い船で、APT等船尾のタンクに亀裂が多い船では、機関室後部で、中甲板のBeamとFrameとの取合いブラケット端でBeamに亀裂が生じることがある。 自動車運搬船では注意が必要である。
(4) 機関室に設けられた主機開放用の CraneまたはHoistのレールとBeamやGirderとの取合い溶接に亀裂が生じていることがある。


  5.2.3 二重底タンク

   5.2.3.1 タンク内部
 機関室にあるTankはほとんどが燃料タンク、潤滑油タンクまたは清水タンクであり、Tank内部からの腐食はほとんど無く、新造時のマーキングがそのまま残っており、タンク内には主機を支えるための丈夫な桁、肋板が多数配置されているので貨物艙内の二重底のような損傷は座礁でもしない限り滅多にない。 従って、定期検査時の機関室内のタンク内部検査では、それ程気にすることはない。 しかし、機関室の二重底が貨物艙の二重底より高くなっている船では、機関室前後部で傾斜をつけて強度の連続性を保っているが、この場合、機関室前後端の隔壁下部付近で桁板に亀裂が生じていることがあるので一応注意する。 船齢12年以上の船になると、機関室内のビルジの滞留や、Bilge pump、General service pump等のほか、Sea water circulating pump等の下でTank topに局部的な腐食破口が生じていることがある。 しかし、破口はタンク外部からは殆ど発見ができない。 従って、内部検査でタンク内に入った時は、中からTank topを見上げて、異常な錆や汚れがあれば、テストハンマーで叩いてみる必要がある。 昔のように、定期検査時にTank topを完全に掃除すれば、この様な腐食は水圧試験の時に分かるが、機関室の Tank topの清掃が完全に行われていない現在では、タンクに入らずに機関室からの調査は殆ど不可能に近い。

第5図 機関室二重底の高さ
この付近は内部の桁材に亀裂が生じている可能性がある


   5.2.3.2 タンク頂板
 プロローグ
 “あっ、水だらけだ ! あんなにしつこいほど言っておいたのに”、また水を流しやがった。 しようがない奴だ。仕方無い、掃除屋をまた20人ぐらい入れれば、昼までには水追いは出来るだろう。 すぐ、掃除屋を手配する。 Surveyorには今からすぐ電話して、今日の機関室のタンク水圧試験は午後に変更してもらうことにしよう。 エンジンの開放、ポンプやバルプの修理も終わって、今日は機関室には水を出さない約束になっていたのに、毎度のことながらいやになる。 今日は、エンジン場にこもって、検査が終わるまでエンジンの連中の仕事を監視することにしよう。 昨夜はNo.8 FOTに水圧試験の水を張るためのAir pipeがどこに伸びているのか分からず、タンクに入って、それらしきAir pipe全部から、ところかまわず空気を吹き込ませて、やっとこのタンクのAir pipeを見付け、水圧の水を張ったところで、ヘッドは落ちていないので安心だ。 CofferdamにもAirを吹き込み酸素濃度もOK、Tank topの掃除もほとんど終わり、 Bi1ge部の水追いだけが残っておりSurveyorが来る10時頃までにはタンク頂板が乾いた状態で水圧試験を受けられるはずだったのに、今になってTank topに水を流されるとは、全くついていない! 予定どおり明後日の朝出帆させることが出来るか、ちょっと心配になってきた。”

 これは、定期検査担当の船体工事担当者のモノローグである。以前は、工事担当技師にとって、機関室内のタンクの水圧試験は最も頭の痛い仕事であった。 機関室内のビルジを完全に汲み出し、おが屑とウエスでCofferdam以外のTank top全面を完全に拭き取らなければならなかった。 ちょっとでもTank topが濡れていれば、情容赦もないSurveyorのやつに、いとも簡単に再検査にさせられてしまった。 このため、工期が延びようものなら修繕部長から大目玉をくらうことになる。何の因果で修繕屋になんかなったのかと、つくづく嫌になってしまう。 確かに、水圧試験の時に、Tank topの鋲から水がにじむことがあるので、Tank topは乾かしておかなければ水の漏れは分からないのは当然であるが、それにしても、機関室のタンクの水圧ほど嫌な仕事はなかった。 それを思えば、MARPOLのおかげと言うか、ビルジが簡単に捨てられなくなり、機関室のTank topを完全に掃除して乾かすことが大変難しくなっているようである。しかし、これでいいのだろうか? 今、昔のようなやり方で、機関室のタンクの水圧試験を要求すれば、工期は一日か二日は長くなり、掃除費用の高騰もあり、 Tank topの完全な清掃を要求するSurveyorは袋だたきにあい、船主からも大きなクレームが出ることは間違いない。 船体構造が鋲から溶接に変わり、昔のような検査を今行うことは過剰検査になるかもしれないが、老齢船の場合、昔のような完全な清掃はやはり必要と考える。 何故ならば、Tank topに腐食破口が生じていれば、機関室内の汚れたビルジが下の燃料タンク、潤滑油タンク等に流れ込み燃料や潤滑油を汚染させ、ひいては主機のトラブルを引き起こすからである。

次表は船齢12年目の貨物船の定期検査の計画表である。
1964年 6/30 7/1 7/2 7/3 7/4 7/5 7/6 7/7 7/8 7/9

接岸 入渠




出渠 完工 沖出
FPT(FW)

内部
検査

水圧
試験





No.1FOT 内部
検査


水圧
試験






No.2FOT




内部
検査
水圧
試験



No.3FOT









No.4Dist.WT

内部
検査


水圧
試験




No.5FWT

内部
検査


水圧
試験




FWT(P)

内部
検査


水圧
試験




FdWT(P)

内部
検査


水圧
試験




LODT

内部
検査


水圧
試験




No.6FOT



内部
検査
水圧
試験




No.2D/T(P)


内部
検査


水圧
試験



No.4D/T(P)


内部
検査


水圧
試験



No.7FOT 内部
検査


水圧
試験






No.8FOT 内部
検査




水圧
試験




APT

内部
検査

水圧
試験





第6図 協優丸 12年目の定期検査工程表

内部検査の終わった水タンク、FPT、No.5FWT、FWT、Fd WT、APT は7月3日水セメント工事を行う。
No.4 Dist. WT(S)及びNo.3DT(S)は前年度内部検査、水圧試験とも完了している。


第7図 協優丸の一般配置図
本船の要目
141.70 x 19.30 x 9.50 - 8.239, 6,646.16 G/T, 6,000SHP タービン
(1964年鞄。永田造船所船町工場にて)





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