包丁と俎板

1. 家内の死去

 昨年6月,癌で家内が私一人を残して二度と帰れない所に行ってしまいました。アガリクス,プロポリス,蓮見ワクチン,酸素ボンベを買っての酸素吸入などあらゆる手だてを講じましたが癌には勝てませんでした。過去二回も入院生活を送ったので,もう入院は嫌だと言い,家で看取りましたが亡くなる前日に,”私は明日容体が急変する”と言い,丁度見舞いに来ていた娘にアルバムを持って来させて,3人で遺影となる写真を選び,その時には,客が沢山来るから3階にある客用の座布団を出しておくように言いっけたりしました。翌日,後で知ったことですがワールドカップの対ロシヤ戦で日本が勝利のゴールを決めたその時刻に予言通り,静かに息をひきとりました。一周忌も終わりましたが未だに心の中で泣いて暮らしております。彼女は,インターネット取引でかなり稼いでくれましたが,料理も好きで,飯田深雪さんを始め(財)ベターホーム協会など色々な所で料理を習っていました。二階で仕事をしていて,"ご飯ですよ"と呼ばれ下に降りると何時も美味しい食事をすることが出来,これが当たり前と思っていましたが,それも今では叶わぬ夢になってしまいました。

2. 単身赴任と自炊

 ヨーロッパを含めて,10年以上単身赴任を強いられたので,台所に立つのは気にならず本を見て殆ど自炊をしておりました。ただ,日本料理は幾ら頑張っても家内には勝てないので,スペインの友人に手紙を書き,俺は今一人で生活をしておりスペインの料理を勉強したいので本を送ってくれと頼んだところ,厚さが4センチもある大きな本が2冊送ってきました。それからは金曜日の夜,スペイン語の辞書を片手にページを開き,これは,材料が日本に無いから駄日,これは文章の意味が分からないから駄目,これなら,キャベツで代用すれば何とかなりそうだと,翌日買い出しに行ってスペイン料理を作ったものでした。米英の料理の本は単位がオンス,ポンド,パイント等なので先ず単位をメートリックに換算しないと駄目ですが,大陸の本は皆メートリックなので助かります。
 休暇で家に帰ったとき丁度家内の誕生日だったので,台所には入らないように言って,一人黙々とサングレアをはじめパエリャ,トリテーリャ等誕生祝いのスペイン料理を4種類作りましたが,家内の評判はあまり良くありませんでした。
 家内と死に別れ一人になり、外食をすれば良いのですが,近くのレストランは皆,家内と行った所で,一緒に行った事を思い出し嫌なのと,あまり美味しくもないので専ら自炊をしています。問題は,料理のレパトリーが少ないことです。

3. 一人の生活

 仕事から完全に離れて年金で生活していますが,家に一人でいると淋しくてしょうがないので,韓国語,英語など語学を習いに行っております。韓国語は大分話せる様になりましたが,韓国語の勉強を兼ねて韓国映画も見に行ったりしています。今まで,50本も見ましたが,韓国の黒沢と言われる林権択監督の作品を始め最近の韓国映画はとても面白いです。それと, 船のお医者さんと題するこのホームページの作成に追われています。
 昨年9月から,料理の学校に通い始めました。家内も娘も以前通っており全国的に教室のあるベターホーム協会です。
 最近は男の料理教室が各地で開かれていますが,覗いて見たところ,いい年配の男性30人程がエプロンをして頭にスカーフを被って包丁を握っている姿は,私にとっては、何とも異様な光景に見えたので,若い女性や奥さん方に混じっての普通の教室に月2回通うこととしました。目的は包丁捌きなど基礎的な料理の仕方,材料の選び方,だしの取り方等の基本的な事柄とレパトリーを増やすことです。

4. 料理教室

 いろいろな料理教室がありますが,私が通っている吉祥寺教室は,4人単位のテーブルが8個あり1クラス32名で各テーブルの横には流しと四ツ口のガスレンジ,下にガスオーブンがあり,流しの下には色々な鍋,フライパン,支那鍋,包丁等が揃っており,テーブルの引出しには計量カップ、スプーン,料理の内容による各種の食器,伊達巻き用の箕の子までもあり,ありとあらゆる道具が人数分揃えてあります,そうしてその日の材料は全部テーブルの上に準備してあります。人数分の各種の野菜、肉、魚などを洗って揃えておくのは大変な仕事だと思います。
 教壇に相当する先生の所にも各種の設備があり,先ず先生が作り方の説明をして実際にやって見せ,それに従って4人が分担してだしを取ったり,材料を切ったり,煮たり,焼いたりします。助手の方が2名居り,回って歩きその都度指導をしてくれます。一回で4〜5種類作り,教わった通りに盛りつけをして,皆で食事をすることになります。先生の作った物も小さな皿で配られ自分達の料理と比較が出来ます。私は午前のコースなので教室で作った料理での昼食が出来,その日は家で一人淋しい昼食をする必要は無いので助かります。若い女性と一緒に一つのことをなし遂げるのはオーケストラやコーラスと同様、大変楽しく,家内を失った淋しさを紛らわすのには一番良いと思っております。


教室の風景 (1)
三人の美しくてとても素敵なお仲間



教室の風景 (2)
以前家内の誕生日にプレゼントしたエプロンを掛け、彼女のバンダナをしていると家内と一緒に料理をしている気になる。


5. 料理の内容

 一体何を作っているのか紹介しましょう。昨年暮れの基本料理の教室では正月用として紅白なます,煮しめ,だし巻卵等を作りました。早速,年末に復習の積もりで同じ物を家で作りましたが,だし巻卵は海苔巻寿司と違って,焼きながら巻いていくのですが火加減が上手くいかなかったのか,味はまあまあでしたが,切ってみると形良く巻けていませんでした。もう一つのクラスでは,もてなし料理として,写真の様な、鰯のマリネ,ポットローストローズマリ風,トマトと一ズッキーニのハーブ焼き,そら豆スープ,ハーブティーの5種類への挑戦でした。鰯の骨を取り皮を剥くのが意外に面倒で,今まで使ったこともないオーブンを使い,スープにはミキサーを使い,2時間半かなりのハードワークでくたくたになってしまいました。
 家で同じ,ポットローストローズマリ風を作りましたが,良く煮たのに豚肉が固く,後でテキストを読みなおすと材料は豚の肩ロースと書いてあるところを,もも肉を買ってきて使ったためだと分かりました。先月は,アジヤ エスニック料理と称して,生春巻き,ヤム・ヌア(牛肉のサラダ),世界の三大スープと言われるトム・ヤン・クン,タイ風焼きそば,ココナツゼリーの5種類を習いました。どれも簡単にすぐ出来ましたが,ナムプラーやコリアンダーをふんだんに使うため辛くて匂いが強く、東南アジヤの料理が初めての私にとってはあまり美味いとは思いませんでした。



そのうち腕が上がったら御馳走するので、序での節は拙宅にも立ち寄って下さい。
2003年


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